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第131話 千里眼は検証したい

 みんなの視線が魔女さんに集まる。

 さっきまで、自分の世界に入っていたはずの月下さんまで、魔女さんを見ている。すっかり考え事に没頭しているように見えて、実はあたしたちの話もちゃんと聞いていたのかな?


 で、注目の的の魔女さんはと言えば。

 あたしたちの注目の視線なんて、まるで気にしていないみたいだった。

 薄紫色の髪の神秘的な美少女が、幻想的なお花畑の傍らで囁くように言葉を紡いでいく。

 エンジのジャージと紫のスニーカーという衣装だけが、いろいろな何かを台無しにしていた。

 まあ、それも含めて魔女さんなのかもしれないけど。


「カケラは一度、闇底に吸収された。そこの花娘はなむすめの思いを受け、闇底の花として生まれ変わったが、吸収された時点で、カケラとしての本質はすでに失われている」


 ん? え? そ、そうなの?

 でも、じゃあ。なんで、検証が必要なの?

 …………とゆー、心の声が聞こえたんだろうか。

 魔女さんは薄っすらとした笑みを浮かべながら、理由を説明してくれた。


「花娘は、カケラが妖魔に変容をもたらすことを知っている。おまけに、あのセーラ服の人型妖魔がモグラ妖魔に戻るところを、実際にその目で見ている」

「まあ、そうね」


 はっ! 珍しく、フラワーがちゃんと人の話を聞いて、お返事までしている! いつもなら、こういう時、たとえ話題になっているのが自分のことでも、興味なさそうに髪の毛を指でしっとりクルクルさせてるのに!

 魔女さんには、興味があるのかな? な?

 まあ、でも、なんか。フラワーってこういう、怪しげなもの、好きそう。

 怪しげとか言ったら、魔女さんに失礼かもだけど。

 えーと。あ! そう! ミステリアス! こういう、ミステリアスな感じのもの、好きそう! よし、これなら、問題なしだな。

 あたしの心の声が、魔女さんに聞かれちゃったら、困るからね。


「実際に目にしたものというのは、印象に残りやすい。もし、花娘がカケラを蒔いた際に、カケラから芽吹いて咲いた花に、その性質が受け継がれる可能性を、ほんの少しでも考えていたら、それは本当になるかもしれない」

「そうなの? でも、残念だけれど、カケラを蒔いている時には、そんなことはチラリとも考えなかった。あの妖魔のことには、さして興味もなかったし。闇底はキノコばかりで少しつまらないから、花が増えればいいなと思っただけ。まあ、そうね。地上に咲いているのと同じ花は、自分で好きなだけ作れるし、どうせならいかにも闇底っぽい、闇底にしか咲いてなさそうな花ならいいな、とは思ったけれど」

「えええ!? キノコは素敵だと思いますが! ううん、お花っぽいキノコがあれば、いいのでしょうか!? キノコの花畑が作れないか、検討してみましょう!」


 あ。なんか、どんどん話が進んでいるな。余計な心配していたかもしれない。

 それはそれとして。

 キノコは、黙っててくれるかな?

 あと、キノコの花畑は、どこか遠いところで作ってね?


「まあ、そうは言っても、だ。新しく生まれたものには、新しい力が宿っているものだ。何せ、元が“カケラ”で、その誕生にかかわっているのが“闇底の魔法少女”なのだからな。どんな力を持っていても、おかしくはあるまい? 巡り巡って、失われたはずの妖魔を変容させるという性質が、再び発現しないとも限らない」

「随分な千里眼をお持ちのようだけれど、そんなあなたでも、検証してみなければ分からないの?」

「そうだな。既に起こったことは把握できるが、未来のことは、予測できないこともある。幸いなことに」

「幸いなことに?」

「そうだ。少なくとも、私にとっては」

「ふうん? そう、よかったわね」


 キノコのキノコ発言はあっさりとスルーされて、魔女さんとフラワーの会話は、余計な合いの手なんてなかったかのように普通に続いている。

 なんとなく、こう独特の雰囲気のある二人の会話なので、誰も混ざることが出来ないでいた。月見サンですら、大人しく視聴者に徹している! それから、月見サンとは違う感じで話に入って来そうな月下さんは、話は聞いているみたいだけれど、やっぱり何か一人で考えている様子だった。

 あ、ちなみに心春は例外だから。

 まあね? 心春は、魔法少女っていうよりは、手足の生えたキノコ型妖魔って感じだしね? とりあえず、見た目は。キノコの着ぐるみタイプの衣装ってさ。もはや魔法少女じゃないよね? よくて、マスコットキャラだよね? よくて。よくて、ね?

 で、その心春も、今はキノコの花畑の妄想に心を飛ばしているみたいだった。幸いなことに。いや、今のところは幸いだけど、結果的には幸いじゃない気がするなー。

 いや、それよりも、キノコの花畑って、何? って話だけど。それもう、ただのキノコ畑だよね?

 フラワーとは別の意味で、収穫したくない!


「まあ、妖魔への検証は、いずれどこかで行うとして、だ。実は、もう一つ、確かめたいことがある」

「へえ?」


 キノコの妄想が気になって、二人の話はほとんど聞いていなかったんだけど。

 あんまり、キノコそのものは見つめていたいわけじゃないので、視線はぼんやりとだけどほぼ魔女さんに固定していたら、魔女さんの口の端に浮かんでいた薄っすらとした笑みが、突然深くなった。

 え? 何? 意味深!

 フラワーも、あら?――――って感じで、好奇心にちょっと目を光らせながら魔女さんを見つめている。


「妖魔ではなく、君たち魔法少女がこの花…………もしくは実のようなものを食べた場合、何が起こるのだろうか?」


 不思議な光を湛えた魔女さんの瞳が、フラワーを、そしてあたしたち全員を、舐めるように一人ずつ順番に見つめていく。

 口元の笑みは、深く刻まれたままだ。


 ん、うん?

 え?

 魔女さん?

 今、なんておっしゃいました?


 カケラのことは、この際置いておいてもいい。

 あたしにとって、大事なのは、そこじゃない。


 この、フラワーが蒔いて育てた(と言っていいものかどうか分からんけど)花を、食べてみろ、と?

 このフラワー汚染されているかもしれない花を、食べろと?


 いや。

 いやいやいや。

 いやいやいやいやいやいやいや。


 パスで!

 星空は、パスでお願いします!

 そんな、ミステリアスに微笑みかけられても、ダメなものはダメだから!

 断固、お断りします!!


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