魔女さんの女の子部屋に、氷の彫刻が出来上がっていた。
絶望の顔のまま、フリーズしてしまっている。
絶望を表現した、氷で作った土偶の彫刻。等身大。
みんなの視線が、月下さんと夜咲花の間を行ったり来たりしている。
いや、魔女さんは、目を伏せたままゆったりとほうじ茶を啜っているけど。
月下さんは、凍り付いた土偶の彫刻を見て、困ったような笑みを浮かべたけれど、すぐにスッと前を向いて視線をちょっとだけ上に固定して、こっちはこっちで彫刻みたいに固い表情になる。
決意が固まっちゃってる顔。
「私は、
行ったり来たりしていたみんなの視線が、月下さんへ集まる。
夜咲花や、みんなに話しかけるというよりも、自分の考えをまとめているみたいに思えた。
「だから……。アジト…………“地上”から流れて来たと思われる廃屋を見つけた時は、これだって思ったわ。拠点があれば、戦えない子を守ることが出来る。幸いにも、妖魔避けの結界には自信があったし、アジト周辺の草原くらいなら、一人で出歩いても危険がないように出来た。闇底を巡って、誰かを助ける役目は、月華に任せて、私は…………。私は、月華と契約して魔法少女になることを拒んだ子や、魔法少女になれても、戦うことが得意じゃない子の守り人になろうって、そう思ったの。それが、私がここで、出来ることだって」
月見サンが、何かを言いかけて、結局その言葉を飲み込んだ。宙を彷徨った手が、そのままテーブルの上できゅっと結ばれる。
「魔女が言っていたわよね?」
突然、話が変わった。
宙を見上げていた月下さんが、魔女さんへと視線を流す。
魔女さんは、静かに微笑みながらも、マイペースにほうじ茶を啜っていた。
「本来なら、別々の世界が干渉しあうことはない。けれど、闇底は、“地上”にいた魔女が創った不完全な世界、失敗作だって。だから、“地上”と繋がっている。不完全だからこそ、行き来が可能だって。まあ、誰でも簡単にってわけではないけれど。でも、条件が揃えば、人も妖魔も世界を渡ることが出来る」
確か、前にそんなことを、言っていた……ような気がする。
あと、世界は球形をしている、とかも言っていたよね?
あたしは、うっかり、休憩と勘違いしちゃったんだけどね。
だから、球形ってところだけは、覚えている。
どういう意味かは、よく分からないけれど。
「そして、カケラとは、闇底の、世界のカケラとも言っていたわよね?」
あ、それは言ってた。
あたしも、それは覚えてる。
えー、で。
それが、どうして旅立ちの理由に繋がるんだろう?
あ、あれ?
でも、ルナと月華と夜咲花以外は、みんな『そうか!』みたいな顔してるし。
え?
何?
どういうこと?
「不完全な世界のカケラ。つまり、闇底には欠けている部分があるということよね? もしかしたら、欠けているどころか、穴があいているのかもしれない。闇底は“地上”で創られた。だから、その欠けているところ、穴があいているところから、私たちは闇底へと墜とされたり、迷い込む羽目になったのではないかしら?」
お、おお!
なるほど! そういうこと!
世界に穴があいているから、その穴から行ったり来たりができるってわけか。
あ、じゃあ。
その穴をふさいじゃえば、もう、行ったり来たりは出来なくなっちゃうってこと?
月下さんがやろうとしていることが、分かったような。やっぱり、分からないような。
「私たちが、墜とされたり、彷徨い込んだりした場所の近くに、恐らく世界の穴があるのだと思うの。だとしたら、恐らく、カケラは穴の付近にあると考えられるわ。まあ、妖魔が飲み込んだりしていることもあるようだから、持ち去られたりしていなければの話だけれど」
月下さんが、魔女さんではなく、あたしの方を見て言った。
分かってなさそうな顔をしていたのが、バレた!?
うん。お気遣い、ありがとうございます。
なんとなく、分かってきました。
「穴のある場所でカケラを探して、そこでカケラを蒔いて闇底世界そのものへ戻せば、穴をふさぐまでは無理でも、少しでも小さく出来ないかと思ったのよ」
月下さんは、あたしに向かってそう説明してから、どうなの? って感じで、魔女さんへ向き直った。
えーと。
本当に、ありがとうございました。
みんなの視線も、月下さんからあたしを経由して魔女さんへと移る。
ん、んん。こほん。
それは、それとして。
気になる魔女さんのお答えは――――?