握りこぶしを掲げてサトーさん殲滅を誓う
奮い立つキノコを、
何か言いたい、でも何を言えばいいのか分からない。
そんなところなんだろう。
情けない顔で、視線をユラユラさせ、それでも何か言わなきゃ、と意を決したちょうどそのタイミングで、月下さんがそんな紅桃を片手で制した。
…………わざと、このタイミングを狙ったわけじゃないんですよね? 月下さん?
「心春。それは、紅桃に失礼なんじゃないの?」
「え!?」
「へ?」
月下さんの一言に、心春と紅桃が声をそろえた。
月下さんは、みんなの視線を浴びながらも焦ることなく、優雅に一口ほうじ茶を啜ってから、話を続けた。
「見た目はどうあれ、紅桃だって、立派な魔法少女よ? 一人で妖魔とだって戦える。たとえサトーが不埒なことをしようとしても、紅桃だったらサトーくらいは簡単に殲滅出来るわ。そうよね? 紅桃」
「お、おう…………。まあ、な?」
「……………………!」
真面目な顔をしているけれど、ちょっとだけ笑いを堪えている風な月下さんに問いかけられて、紅桃は顔を引きつらせつつも答える。
紅桃は男の子なんだけど、見た目だけは、闇底一と言っても過言ではない超絶可憐な美少女なんである。そして、本人も、一応自覚はしていると思われる。
その見た目のことを言われたのもあると思うけど。
サトーさんを殲滅…………とか言われちゃったせいもあるんだろうな。顔が引きつっているのは。
まあね? 妖魔相手ならともかく、人間相手に「殲滅出来るよね?」って言われて、「もちろんです!」とか得意満面に答えてたら、ちょっと怖い。
あ、それとも。
紅桃が複雑そうな顔をしているのは、サトーさんが不埒なことをとか言われちゃったからかな。サトーさんは、月下さんのことが好きみたいだし、紅桃が男の子だってことは知っているから、そんなことしないと思うけど。まあ、想像したら微妙な気分になるよね。
でもって、心春の方はというと。
ドンガラピシャーンって感じの顔で、目を見開いて固まっていた。
「サトーは、私たちが知らない情報を握っているはずだし、まだまだ利用価値があるわ。闇鍋市場を案内させるついでに、紅桃にはその辺を探ってもらおうと思っているの。紅桃なら、きっとやり遂げてくれると私は信じているのだけれど、心春はそうではないのかしら?」
「………………いいえ! 私が思い違いをしておりました! 申し訳ありませんでした! 紅桃さん!! その可憐な容姿を武器に、敵の懐に入り込み情報を探り、不要になったら殲滅する! そういうことなんですね! 素晴らしい作戦だと思います! はい! 紅桃さんなら、きっとやり遂げられると私も信じています!!」
「お、おう…………。サンキュ…………」
心春は、キラキラと目を輝かせながら、全身から得体の知れないオーラのようなものを解き放っている。
怖い。こっちはこっちで、なんか怖い。
心春にお返事をしてる紅桃、心春から目を逸らしながら、声が引きつってるよ?
うん。気持ちは分かる。
今すぐ、どこかの山の中に埋めちゃいたい。
…………埋めたら、埋めたで、いっぱい生えてきそうで怖いけど。
まあ、とりあえず、これで茶番は終わったのかな!
「さ! これで、万事解決ね。準備を整えたら、さっそく出発しましょう」
「あ、待ってー☆ まだ、もう一つだけ大事な問題が残ってるよー?」
「え? 問題?」
パンと小気味いい音を立てて両手を叩いた月下さんが、今すぐ出発とばかりに席を立とうとしたのだけれど、間延びしたような月見サンの声がそれを止めた。
月下さんは、思い当たることが何もないみたいで、腰を浮かせかけた中途半端な姿勢のまま、怪訝な顔を月見サンへと向ける。
月見サンは、「君のことだよ~」とばかりに月下さんを見つめていた。
ん? え?
何か、問題、ありましたっけ?
「移動手段は、どうするの? 月下ちゃん以外は、みんな自力でお空を飛べる組だよね? 飛んだ方が速いしー、空からじゃないと行けないところもあると思うしー。…………そろそろ、月下ちゃんも覚悟を決める時じゃない?」
今度は、月下さんがドンガラピシャーンな顔をした。