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第142話 月とドリルとハイヒール

 ふ、ふわぁおぉぉおおおおおおお!


 こ、これは、まさに月下美人げっかびじん

 まあ、お花の名前だってことは知ってるけど、どんなお花かは知らないんだけどね! でも、なんか名前のイメージ的には、これぞ月下美人って感じーぃ。

 素敵!

 可愛い!

 そして、ほんのり上品に色っぽい!

 最高! 無敵!


 月の光から生まれた妖精みたいに儚い美しさ。

 でも、妖魔を倒しちゃうような強さも兼ね添えている!

 もーう! 

 なんで、間にジャージを挟む必要があったのか疑問なくらいに、めっちゃいいんですけど!


 淡い黄色なのは、一緒なんだけどね。

 運動する系なのも、一緒なんだけどさ。

 ジャージでも、レオタードでもない、月下さんが選んだのは!


 バレエダンサー風魔法少女!


 月の妖精役(もちろん主役!)を余裕で勝ち取る似合いっぷりなんですけど、なんでそんなに恥ずかしそうにもじもじしちゃってるんですか!

 似合ってます! 似合ってますよ!

 バレエの発表会…………じゃない! えーと、舞台? うん、舞台のポスターに使ってもいいくらいのバレエダンサーっぷりですよ?

 髪の毛は、ゆるふわっとしたアップにしてあって、ふわんふわんしているおくれ毛が色っぽい。

 肩が出てるので、鎖骨がバッチリ見えちゃってるんですが、うん。鎖骨、きれいだなー。あと、お胸の辺りもねー。いい感じにボリューミーで、素直に羨ましい……。

 スカートの丈はー、あんまり広がり過ぎていないミニ! でも、後ろ側には、透け感のある少し濃いめの黄色の布が、妖精の羽のように腰の辺から生えていて、神秘的!

 可愛いと大人っぽさを兼ね添えた、素晴らしい魔法少女コスチュームだと思います。


「ど、どうかしら? クラスにバレエを習っている子がいて、ちょとだけ羨ましかったのよね。これなら、私が着ていても、そんなにはおかしくないわよね? 成人しているプロの人たちは、舞台に立つときは当然、こういう衣装を着ているんだし。まだ、18歳の私が着ていても、おかしくないわよね?」

「全然、おかしくないですよ! 綺麗で可愛くて、お色気もあるけど神秘的で、月下さんによく似あっています!」

「そ、そう? なら、いいのだけど…………」


 全力で褒めちぎると、もじもじしながら照れ笑いを浮かべる。

 他のみんなにも褒められて、頑張って隠そうとしているっぽいけど、かなり嬉しそうだ。

 なんか、こういう月下さん、新鮮で可愛いな。


「うーん。確かに、似合ってるし、きれいでかわいいけどさ。月下ちゃん。なんで、靴はバレエシューズじゃないの?」

「う。だ、だって。習っていたわけじゃないし、歩きにくそうじゃない。別に、私はバレリーナなわけじゃなくて、バレリーナ風の魔法少女なんだから、いいでしょ!」


 月下さんの全身を嘗め回すように見ていた月見サンが、月下さんの足元にじっと視線を固定しながら、「異議あり」をした。

 言われてみれば、確かに。

 バレエシューズじゃなくて、ハイヒールだな。これはこれで、違和感なくて気づかなかった。

 淡い黄色の衣装の下には、白いタイツを穿いていて、足元にはハイヒール。

 腰からヒラヒラしている妖精の羽っぽい布に近い、濃い目の黄色。ちょっと曇った感じの、ガラスっぽいような、不思議な素材のハイヒール。いかにも、妖精のお姫様が履いていそうな不思議素材。高さは、5センチくらいあるのかなー?

 これはこれで、歩きにくそうだと思うんだけど、それはそれとして。

 二人の掛け合いは、まだ続く。


「えー!? つま先に、ドリルとかつけてさ、地面にドリルをめり込ませながら歩けばいいんじゃない? うん! ナイスアイデア! すっごく、いいと思う! それにほら、妖魔と戦う時に、武器になりそうじゃない!? 術とか魔法が効かない相手には、物理で! ドリルで戦っちゃえ! みたいな!」

「嫌よ! そんな歩き方! それに、ドリルで妖魔と戦ったりしたら、妖魔を突き抜けて、そのまま、ドリルで地面にめり込んでいきそうじゃない!」

「あは! あはは! た、確かにぃー! く、くふ。くふふふふ。妖魔を倒して、そのまま華麗に撤退! つま先のドリルで回転しながら地面にめり込んでいくバレリーナ風魔法少女! ふっ! あはは! それ、いい! あははははははは!」

「……………………何がそんなに面白いのか、さっぱり分からないのだけど」


 …………月見サン。

 乙女の憧れに、小学生男子の発想を混ぜ込んでくるのはやめてください。

 そして、ススキを背負ったその水着姿で、地面で笑い転げるのは、本当にやめてください。

 月下さんが、このハイヒールで踏みつけてやろうかしらって顔して見てますよ!

 ドリルに匹敵するかもしれないハイヒールの攻撃力を、身をもって味わう羽目になっちゃいますよ!


「つま先ドリルかぁ……」


 え? 紅桃べにももさん?

 もしかして、やってみたいとか思ってます?

 はっ! そういや、そうだった。紅桃ってば、見た目は闇底一の可憐系美少女だけど、本当は男の子だった。

 や、やめてー!

 せっかくの可憐系美少女なのにー! 

 つま先にドリルつけて、妖魔と戦ってる姿とか、地面にめり込んでいく姿とか、見たくないー!

 中身が男の子なのは、本当に男の子だから、しょうがないけど!

 見た目だけは、可憐なままでいてほしい!

 いや、まあ、紅桃の自由だけどさー!

 でも、希望は希望として主張しておく!


「いや、でも、ないか……。そういうのは、月見の仕事だよな。うん」


 お、思いとどまった!

 よかった!

 そして、理由が月見サンの方が似合いそうだからって…………。

 うん。でも、分かるよ。

 月見サンがやる分には、あたしも止めないかな。

 心の底から、止めないかな!


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