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第143話 かぐや姫は闇空を照らす

 何はともあれ!

 月下げっかさんの魔法少女コスチュームがバッチリ決まって、問題は解決!

 これで、いよいよ旅立てるぅ!


 ――――と、思ったんだけどね?


 なんと。旅をする上での一番大事な問題が、まだ残されていたんだよ。

 忘れてた。うん、もう、すっかり。


「よーし! これで、あとはー。月下ちゃんが飛べるようになれば万事解決ー!……なわけなんだけどー。どうなのかなっ?」


 静かに呆れ怒っていた月下さんのハイヒールに踏まれる前に、笑い転げ虫から魔法少女に戻った月見つきみサンの一言で、ようやく思い出したよ。

 そう。その問題が残っていた。

 コスチュームは魔法少女としての大事な問題だったけど、闇空飛行は無事旅立てるかどうかの大問題ですよ。

 地上にいた頃の常識が邪魔をして、誰かに抱えられて飛ぶことすら嫌がっていた月下さんだからなー。自分で飛ぶとか、ちゃんと出来るのかな?

 高所恐怖症ではないって言ってたけど、魔法の力を信じられないと、飛べないもんねぇ。

 あたしの時は、割と簡単だった……と思うんだよな。飛べなくて苦労したっていう、記憶がない。うん、さすがにこれは、覚えてないとかじゃないと思う。

 だって、魔法少女になって、変身までしたんだもん。

 飛べて当然。飛べない方がおかしい。

 そんな感じだったんじゃないかなー?

 でも、月下さんは、苦労しそうだよね。飛べるようになるまで。


「んー、そうねぇ……」

「あ! こんなの、どう? ジャンプして回転しながら空を飛んで行くとか! バレリーナっぽく!」

「却下よ。それじゃ、バレリーナっていうよりも、むしろ竹とんぼじゃない!」

「あは! あははははは! いい! それ、いい! それ、いいよ! 月下ちゃん! 竹とんぼは空を飛ぶものだもんね! てゆうか、むしろっ。魔法少女、竹コプっ……! 竹コプっ……く、くふふふふっ! ダメだ、言えないっ」


 月下さんが全部言い終わる前に、月見サンがなんか被せてきた。

 月下さんとはまた違った方向に、頼れるお姉さん的なところもあるのにな。なんで、そう、衣装はイロモノで中身は少年(しかも、年齢は大分低め)のようなんですか?

 あー、月下さんの頭の上に、お怒りのマークが浮かんでいるのが見えるようだ。

 つららで作った剣山みたいな目で冷ややかに月見サンを睨んでいる。

 も、もうっ。せっかく、踏まれなくてすんだのに。

 あんまり、調子にのっていると、ハイヒールで蹴られちゃいますよ?

 二人で旅をしていた時って、ずっとこんな感じだったんだろうか……。


「ねえ! いっそのこと、竹から生まれたかぐや姫コスっていうのは、どう!? 闇底のかぐや姫ってことでさ! 月の妖精のバレリーナみたいな、その衣装をいかしつつ! それはそのままで、頭の上と足元に、竹の飾りをつけてさ! 竹から生まれた感を演出! 海辺のお月見パーティコスのあたしと、かぐや姫バレリーナコスの月下ちゃん! あたしたち、いいコンビじゃない!?」

「イロモノ路線に私を巻き込まないで! それじゃ、脇役で出てくるお笑い魔法少女コンビみたいじゃない!?」


 月見サンがさらに調子にのって、月下さんの頭上のお怒りマークは、真っ赤になってビヨンビヨンと激しく飛び跳ねだす……のが浮かんでしまって、笑いたいのに笑えない。

 氷の剣山は青白い炎を放っているようだ。あれ? 青白い炎って、熱いんだっけ? 冷たいんだっけ? 色のイメージ的には冷たそうだけど、炎だから熱いの?

 …………ま、まあ、どっちにしろ、すごく怒ってるってことだよ!

 んー、にしてもだよ?

 最初はさ。竹の飾りっていうのは、ちょっと笹が生えてる竹のピンバッチとかワンポイント刺繍とかキーホルダーとかヘアピンみたいなやつかと思って、かぐや姫ってコンセプトなら、それもちょっと可愛いかなと思ったんだけど。

 月見サンの言ってるのは、二つに割れた卵のカラの間にヒヨコがいるみたいな、アレか!? アレのことなのか!?

 それの、竹バージョンってこと!?

 ちょっと、想像してみる。


 頭の上に、太い竹の筒を輪切りにしたものが浮かんでいて、回転とかしてたりして? で、足元にも、足首より上くらいに? こう、筒に両足を入れた感じで?

 あんまり大股開かないで、チョコチョコ歩けばいいのかな? いや、かぐや姫なんだから、ここは、お淑やかにとか言っておこう。お淑やかって、月下さんのイメージだし。

 えーと。淡黄色いバレリーナ衣装で、頭の天辺と足首の辺りで竹の筒がクルクル回っていて、しずしずとお淑やかに歩く……。

 あれ? これ、バレリーナのいいところが全くいかされない? それに、急いでる時はどうすればいいんだろう? 走れないよね?

 あ、そうだ!

 足首の竹の筒が足の下まで降りていって、タライみたいになって。で、その上にのってる感じになって、竹タライが浮かんでビューンと高速移動? あ、これなら、そのままもっと高く浮き上がって、空も飛べるよね?

 闇空には月も星もないから、闇空を飛んで月に帰るってわけにはいかないけど。

 いや、そこは、むしろ。

 お月様水を飲んで全身を発光させて、「私こそがこの闇底の月よ!」とか言って、闇空に君臨する…………いや、待て! 落ち着け、あたし!

 発想が、月見サンとか夜陽とか心春になっている!

 やばい、やばい、やばい。受けてはいけない影響を、多大に受けてしまっていた。

 気をつけねば。

 あたしは、イロモノ枠にはならない!


「ちょっと、星空ほしぞら……やめてくれるっ……」


 深く反省していたら、右と左の肩にポンと手を置かれた。

 右はベリーで、左が紅桃だ。

 ひょい、ひょい、と右と左を交互に見ると、二人とも肩に置いたのと反対の手でお腹を抱えて前かがみになりながら、プルプルしている。

 ……………………あれ? あたし、もしかして?

 今の、口に出してた?

 ふと前をみると、月見サンが四つん這いになって、片手で地面をドンドンしながら大笑いしている。

 そして、月下さんはといえば、腕組みをして何ともいえない顔で月見サンを見下ろしている。あたしのことは、そんなに怒っていないようで、少し安心する。

 す、すみません。

 心の声が、駄々洩れになっていました。


「し、心配しなくてもっ、星空はもう、立派にイロモノ枠だってっ! それに、あれだろ? 闇底世界における百合的ヒロイン? 闇底の百合ハーレムの女王? どっちだっけ?」

「ど、どっちでもないわい!」


 涙を流しながらひーひー言っている紅桃べにももの手を、思いっきり払いのける。見た目は可憐な美少女でも、その実態は男の子だからね! 遠慮はしないよ!

 闇底の百合なんちゃらって、あくまで心春ここはるの脳内設定だから!

 あたしは、別に、そーいうのじゃないし!

 特に、目指してもいないから!


 ぷんすかしながらも、話題に上ったことで、あれ待てよ、となる。

 心春、妙に大人しいな?

 月下さんと月見サンのなんやそれって、心春的に美味しい展開じゃないの?

 鼻血の噴水を激しく吹き出し過ぎて干からびたキノコになって、土に返ってしまったんだろうか?

 鼻血吹き出している気配もなかったけど。


 はて、と思って心春の姿を探すと、ぱぁっと空が明るくなった。

 闇空が、明るく?

 ひらり、と光る花びらが降って来る。

 微妙な予感がして、ぎこちなく空を見上げると、そこには……。


 ちょっ! 大人しくしてると思ったらー!? 二人して、何してんのー!?


 光一つない真の闇の底……であったはずの闇空には。

 心春とフラワー。

 二人の怪しい光の共演が繰り広げられていた。



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