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第144話 闇空の風物詩

 あたしたちから少し離れたところで、フラワーと心春ここはるの二人は並んで闇空を見上げていた。

 まあね?

 光る花びらが降ってきた時点で、なんとなく予想はしていたんだけどさ。


 …………闇空の上は、軽くカオスっていた。


 ちょうど、アジトの真上辺りからその後ろにかけて。

 闇空にでっかい絨毯を敷いたみたいに。

 白と青に光る、天空のお花畑が出来ていた。


 ひらり、ひらり、と。

 燐光を放ちながら、舞い落ちてくる花びら。


 これだけだったら。

 これだけだったらね?

 フラワーの存在を知らない子だったら。幻想的で不思議な光景に息をのみ、素敵なものを見ることが出来た感動に、胸をふるふるさせていたんだろうな、と思う。

 あたしには、もう無理だけど。たとえ、これがフラワー作じゃなくて、自然に出来た闇底天然ものだったとしても、だ。絶景スポットじゃなくて、呪いスポットを見つけちゃったよ的な気持ちになると思う。

 だって、フラワーなんだもん。

 フラワーが関係してなくても、フラワーを連想しちゃうもん。


 そして、しかも、今回は!

 それだけじゃないのだ!

 言ったでしょ?

 軽く、カオスってるって。

 まあ、焦らすのもなんだから、ポンポン行こうか。ポンポン。


 まあ、心春が絡んでいる時点で当然予想できる通り、キノコです。

 心春と言えば、キノコ。

 コスチュームをキノコの着ぐるみにして、豆電球みたいに光る小さいキノコがいっぱい吊る下がった紐で全身を飾り立てるぐらいに、超のつくキノコ好き!

 はい。ええ。

 闇空の、神秘的に輝くお花畑の隣には、キノコの森がありました。

 キノコ畑じゃなくて、キノコの森。

 なんか木みたいに背の高いキノコが、逆さまにニョキニョキ空から生えて森を作っている。

 赤とか黄色とかオレンジに、やっぱり光っている。

 ネオン街っていうよりは、キノコ型のランプみたいな優しくも怪しい光。

 そして、まあね? これだけなら、まだね?

 見た目だけならさ。闇空を灯すキノコの森を抜けたら、青白く輝く花畑がありました的な闇底メルヘンと言えなくもない。

 じゃあ、何が問題なのかっていうと。

 その、闇底メルヘンの両脇にね?


 光る桜並木が立ち並んでいるんだよ……。


 なんていうかなー。

 闇底メルヘンか光る桜のどっちかにしておけば良かったのに。

 なんで、それを混ぜちゃったかなー……。

 違和感が、違和感がひどい。

 いや、どっちも神秘的なんだけどさ。方向性が違うって言うのかな?

 闇底メルヘンは、魔女(洞窟の魔女さんってわけじゃなくてね? 世間一般的な感じの魔女?)が潜んでいそうな雰囲気なんだけど。天空の桜は、天女さんが隠れていそうな、そういう神秘さ加減なのだ。

 神様と悪魔が、よく打合せしないままコラボしたらこうなっちゃいました、的な?

 単品ならすごく綺麗なのに、もったいない感半端ないというか。

 また、なんでさー。神聖な感じの桜並木で、ちょっぴり怪しい闇底メルヘンをサンドしちゃったかなー。

 サンドじゃなくてさー、少し離れたところに闇空桜の名所みたいなところを作ってくれればいいのにさー。

 これじゃ、あれだよ。

 フラワーと心春の二人を知らなかったとしてもさ。

 わぁーってなった後に、ん?……ってなると思う。

 この感じ、分かる?

 この感性がプチカオスになる感じ。

 まあね、あれだよ。

 フラワーと心春の二人を思い出しちゃうから微妙さが加速しているってのも、あるかもではある。

 二人のことをなんも知らんかったら、ちょっぴりチグハグ?……くらいで済んでたかもしれん。

 でも、あたしは、知っちゃてるから!

 天女でサンドされたフラワーと心春には、カオスしか感じられないんよ!

 分かる? この気持ち?


 でもって、おまけに!

 真のカオスは、これからだったりするんだよね。

 口をあーんぐり開けて、闇空を見上げて脱力していたらさ。

 始まりましたよ。

 なんか、始まっちゃいましたよ。

 何かっていうか。

 花とキノコのカーニバル…………?


 ふ、ふふ。

 ねえ、みんな?

 闇空にはね、魔女でも天女でもなくて、キノコが住んでいるんだよ?


 …………………………………。

 うん。そうなんだよ。

 キノコの森からさぁ……!

 ……キノコが現れたんだよ!!


 森と同じ配色の赤とか黄色とかオレンジの、カサに水玉とかストライプとかチェックとかの可愛めの模様が入った光るキノコがさあ! アンティーク屋さんに飾ってあった可愛いキノコ型ランプに足が生えて勝手に歩き出しちゃいましたみたいなキノコがさあ!! しかも、ご丁寧に靴まではいちゃってさあ!!! 靴もいろんな種類があって、ブーツとか履いてるキノコもいるんだよ!!!! んもう、お洒落さん!!!!!

 で!!!!!!

 そのキノコたちがね!?

 列をなして、花畑を逆さまになって、ゆるっと練り歩いているんだよ!?!?

 闇空にキノコを生息させるなっ!!!

 しかも、進む度に光る胞子みたいなのをまき散らしてるしぃー。

 やめてー! 百合胞子を振りまかないでー!

 キノコなのに百合胞子を振りまかないでー!!

 マジで闇底がカオスになるから~。


 まあ、何はともあれ、まずは胞子から避難ですよ。

 胞子に汚染されたくないからね!

青空模様の傘(キノコは関係ないよ! パラソルの方の傘だからね!)を魔法で作って避難したら、ベリーと紅桃べにももが肩を寄せてきた。

 しょうがないなー、二人とも。

 もうちょっと、大きくしてあげるよ。

 そーれ!…………とかやっていたら、満足げな顔をした心春とフラワーがこっちにやって来た。心春は分かりやすく満足感全開で、フラワーは目じりとか口元からほんのり感じ取れる程度だけどね。


「どうかしら、月下美人げっかびじん。これなら、闇空に大地が出来たように思えなくもないし、ドリルを突き立てて花びらをまき散らしながら、歩く練習をしてみては? 慣れてきたら、自分で空にガラスの廊下を敷き詰めて、ドリルの後を残しながら進めばよいのではと思うのだけれど。どうかしら?」

「いや、どうって言われても……。そもそも、ドリルは不採用にしたから」

「あら? そうだったの?」


 あ、これ。月下さんのためだったんだ……。

 しかも、話はドリルのところまでしか聞いていなかったんだ。

 ドリル採用を前提に、闇空空中ドリル歩行の練習用に、二人で考えて、結果こうなったと。

 結果…………はどうあれ、理由というか原因が、自分の闇空旅を手伝うためだったと知った月下さんは、何とも言えない顔で力なくフラワーに答えていた。

 フラワーの言葉を聞いた途端に、足元に蹲って声もなく笑っている月見サンを、腹いせのようにつま先で軽く蹴り飛ばしながら。ドリル、ついてなくてよかったですね、月見サン。

 フラワーは、いつでも潤んでいるしっとりお目目をパチパチしながら、小首を可愛らしく傾げているけど、たいして、残念そうには見えない。

 本当に月下さんのためだったのか、かなり疑問だ。

 でも、心春キノコは、大分過剰に反応してきた。


「あれ!? そうだったんですか!? キノコたちをお供にしてもらえれば、空中歩行も楽しくなるかと思って、ご用意させていただいたんですが!? そうですか! 残念です!! キノコたちとともに天空の花畑を軽やかにドリルで舞い踊る月下美人さんの姿を見てみたかったのですが!?」


 キ、キノコー!!

 想像しちゃうからヤメロ!

 てゆーか、二人の発想が、一番カオスなんだよね!

 聖と邪のコラボに、バレリーナとドリルが加わるとか、混ぜるな危険すぎるんだよね!

 ああ、月下さんがどんどんしなびていく……!


「……………………ドリルのことは、綺麗さっぱり忘れてちょうだい」

「髪形をツインテール・ドリルにしての、ダブルドリル使いも素敵だと思うんですが! どうでしょう!?」

「だから、ドリルは……。いえ、バレリーナよりもキノコの方が、ドリルが似合うんじゃないかしら? キノコ型ドリルとか、ドリル型胞子ミサイルとか、どう?」

「いいですね! やはり、キノコには無限の可能性がありますね!!」

「あくまで、キノコ主体なのね……」


 ドリルは続くよ、どこまで…………?

 てゆーか、なんで、そんなにドリルを掘り下げるのさ!?

 月下さんのドリル返しで、無事(?)終了したけどさ。

 しかも、ドリルの末のキノコオチ!

 で、ドリルからキノコの無限の可能性を感じ取った心春は、月下さんとドリルから離れて、キノコとドリルの無限の可能性を探す旅に出ることにしたようです。…………ただし、脳内で。

 うっわー。目を爛々と輝かせ口元に笑みを浮かべたまま、ピタリと動きを止め、キノコのオブジェと化しちゃってるよ。


「てゆーか、この空どうするんだ? まさか、ずっと、このままなのか?」


 ドリルに片が付いたところで、両手を頭の後ろで組んだポーズで闇空の観光スポットを眺めていた紅桃が、キノコのオブジェはスルーして、もう一人の犯人へ視線を投げる。

 あー。せっかく、儚くも可憐な美少女なのになー。もうちょっと、それっぽい仕草も見てみたいなー。

 という、あたしの心の声はさておき。もう一人の犯人であるところのフラワーさんは、「そうね」って感じに、しっとりと小首を傾げた。

 こっちは、仕草は見た目通りなんだけどなー。中身というか、言動がアレなんだよなー。


「そうね。このまま、アジトのランドマークとして残すのもいいけれど。それよりも、闇空の風物詩として、幽玄の桜と神秘の花畑と夢現のキノコの森の三つを、順番に展開させていくというのは、どう? その方が、イベント感があるもの」

「そうだな。ランドマークよりは、風物詩の方がいいと思うぜ」

「そう? では、そういうことで」


 紅桃が、速攻で風物詩の方を選ぶと、只今絶賛オブジェ中の心春以外のみんなが、うんうんと食い気味に頷いて(月華《つきはな)とルナは、みんながやってるから真似してみた感満載だったけど)、とりあえずプチカオス状態は回避成功! やった!

 そっちの方が、断然いいよ!

 うん。でも、フラワー的には、あれをランドマークとして残す案もアリだったんだな……。

 まあ、確かに、ある意味。あたしたちが旅立った後のアジトを象徴していると言えないこともないけどさ。


 だからこそ、ナシで!

 だってさ。

 誰も寄り付かなくなる……もしくは。

 イロモノ系魔法少女ばっかりが集まってきそうじゃん!

 うん、そういうの、もういいから。


 間に合っている!

 もう、充分、間に合っているから!!


 何でも混ぜればいいってもんじゃ、ないよね…………。


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