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第147話 ポンコツ道中二人旅

 ようやく始まった、あたしにとっては二回目となる闇空旅。

 前回は、月見つきみサンと二人で旅立って、旅の途中でフラワーと心春ここはるに出会い、仲間になった。

 今回は、月華つきはな月下げっかさん、月華と合体している雪白ゆきしろと、それからベリーと一緒の旅だ。

 やー、まさかねー。月華や月下さんと一緒に旅をする日が来るなんてね…………。

 しかも、月下さんは落ち着いた感じの薄い黄色のワンピース姿から、淡黄色いバレリーナコスに衣替えして、緊張した面持ちで赤い自転車に跨っているし。

 ちなみにまだ、月華に自転車を引っ張ってもらっています。

 月下さん。ちゃんと、自力で飛べるようになった方がいいと思いますよ?


「それにしても、見事なまでにまとまりのない集団よね。下に誰かいたら、どういう集団だと思われるんだか……」

「あー……、確かにねー」


 これじゃ空中介護だな…………なんて、月下さんには聞かせられないことを考えていたら、隣を飛んでいるベリーがボソッと呟いた。

 あたしは、苦笑いでそれに答える。

 まあね。白い羽根を生やしたセーラー服の超絶美少女と赤い自転車に乗った黄色いバレリーナ。それから、イチゴショートケーキ風コスチュームのベリーと、青空っぽい感じの割と正統派魔法少女っぽいあたし。

 うん、てゆーか、さ。


「あたしとベリーは、まあ、普通に魔法少女だよね? 違うシリーズっぽくはあるけど」

「そうね。月華も、まあ、セーラー服はアリよね。羽が生えていても…………うん、むしろアリね。だから、この三人だったら、まあ、そこまで違和感ないのよね」

「ちょ、ちょっと! ベリーってば、そんな月下さんに問題があるみたいな! はっきりとそんなこと言ったらダメだって!」

「…………いや、でもね」

「まあ、確かにね! 赤い自転車に乗って空を飛ぶ黄色いバレリーナって、こうして改めて見てみるとけっこう微妙だなーっていうか。しかも、自力で飛べてないとかって、いろいろツッコミどころがあるっていうか! それは、分かるけど!」

「あんたの方がはっきり言っちゃってるわよ、星空ほしぞら

「はっ! しまった! そんなつもりじゃ!」


 チラッと前を飛ぶ月下さんの方を窺ってみたけれど、空を飛ぶ緊張でいっぱいいっぱいみたいで、こっちの話は聞こえていないみたいだった。ほっ。

 それでも、一応。ベリーに目配せして、ほんの少しだけ後ろに下がる。


「変身する前までは、落ち着いていて頼れるお姉さんキャラだったのにね。惜しい人を失くしたわ……」

「ちょー、ベリー! そんな、今までの月下さんが死んじゃったみたいに言わないでよ!」

「魔法少女に変身した後の方が、ポンコツになってない?」

「だからー! それは、言ったらダメだって! それに、ホラ! もしかしたら、あのポンコツな方が本当の月下さんなのかもしれないし! ホラホラ、月下さんて、さ。昔はさ、月見サンと二人きりで旅してたんだよ? だから、また旅をすることで、本来の自分を取り戻して、ポンコツになった……? ん? あれ? もしかして、あたし。もう、喋らない方がいい?」


 フォローをするつもりだったのに、なんかむしろ、追い打ちかけてる? あたし、やらかしてる?

 一人で焦りだすあたしを、ベリーがチラッとだけ見た。

 え? そのチラッとは、どういう意味? ベリーさん?


「あながち間違ってないのかもね」

「え?」

「ちょっとポンコツな方が、月下美人げっかびじんの素顔なんじゃないかって話」

「やめてー! あたしも、ちょっとそうかなとは思ってるけど、ポンコツな月下さん可愛いとか思ってるけど、やめてー! てゆーか、それ、絶対に月下さん本人には言わないでー!」

「どうしよっかなー?」


 いちごショート系魔法少女が、甘い顔立ちに意地悪な笑みを浮かべた。

 ひとしきりあたしをからかって遊んでから、ベリーはフッと真面目な光を目に浮かべて、前を行く月下さんの背中を見つめた。その瞳が、今度はフッと眇められる。別に、眩しいものを見たせいじゃない。見たくないものを見てしまったからだ。

 月下さんは右手で自転車のハンドルを握り、左手で月華の手首をがっちり掴んで何やら叫び散らしていた。

 さっきまで自転車を掴んでいた月華の手は、今は完全にフリーになっていて、いや、なってないな。自転車からはフリーになってるけど、月下さんには捕まっちゃってるから。で、その月下さんの手を振り払おうとブンブンしている。

 これは、たぶん、「そろそろ一人で飛べ」、「ダメよ、離さないで!」的な言い合いをしているんだろうなー…………。


「ポンコツなところも可愛いとは思うけど、ギャップが激しすぎるのよねー……」

「う、うん……。確かに、もう、ほとんど別人だよね……」

「月見と二人で旅をしていた時は、ずっと、二人でポンコツ道中を繰り広げてたのかしらね」

「そんな、トンコツ道中みたいに……」

「いや、むしろ、トンコツ道中って何よ? どこから出てきたのよ、そのトンコツは」

「え? ごめん。なんでだろ? あたしにも分かんない。フッと浮かんじゃったんだよ。えーと、だから、トンコツラーメン二人旅みたいな?」

「……………………。月見はさ、隠居を決め込もうとする月下のことを、何とか外に連れ出せないかって頑張ってたじゃない?」

「なかったことにされた!」

「月下美人は月下美人で、自分には闇底での生活を楽しむ資格はないみたいなこと、言ってたし」

「無視……っ。う、うん、そうだね」

「月下美人が何に囚われてそうなったのかは知らないけれど、二人でポンコツな旅をしていた時は、そうゆうことを忘れて、純粋に旅を楽しんでいたんじゃないかと思うわけよ」

「うん」

「で、月見はたぶん。その時の月下美人に戻ってほしいんだろうね。……だからさ。星空は、持ち前のそのポンコツさで、月下美人に影響を与えてさ。月下美人が本来持っていたポンコツなところをもっと引き出してあげてよ」

「うん。…………ん?」


 ベリーは、最後ちょっと、いかにもいい感じの話風に言ったかと思うと、あたしに向かってニヤリと悪役みたいに笑って、ついっと前の方で騒いでいる月下さんたちの元へ一人で向かってしまう。月下さんに自力で飛行させる戦線に加わるつもりなんだろう。

 あたしは、呆然とその背中を見送る。


 え? ちょっと?

 何、今の?


 今のさあ!

 ポンコツ成分を取り除いて、もっと照れくさい感じで笑ってから一人で行っちゃうとかだったら、こう、その照れくささを隠すためみたいでさ、なんかちょっといいシーンじゃない!?


 なのに、なんで、ポンコツ落ちにするのさ!?

 しかも、あたしを使って!!


 もう、さすがにあたしも怒るよ!? 


「ベリー! あたしは、ベリーと一緒なら、醤油ラーメン二人旅をしてもいいって思ってるから!」


 仕返しだッとばかりに叫ぶと、ベリーは呆れ顔で振り向いてから、ベェッと舌を出して、すぐにまた前を向いてしまう。

 うん。何がどう仕返しなのかは、あたしにも分からない。

 トンコツじゃなくて醤油ラーメンだったのは、単純にあたしの好みだ。

 ラーメンは、醤油が一番好きだ。

 だから、えーと、つまり。


 いつか、ベリーと二人でポンコツ二人旅をしたいって言いたかったのかな?

 月下さんと月見サンみたいに、二人で旅をしたいって気持ちが、うっかりもれ出ちゃったのかな?

 うん。もしかしたら、そうなのかもしれない。

 でも、これは、仕返しじゃない…………ね?

 いや、ポンコツ旅に誘うってことは、ある意味仕返しになって、る…………?


 よく分かんないけど、ベリーの「ベェッ」は、「いいよ」って意味だと勝手に思うことにする!

 異議は認めない!



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