洞窟の魔女さんの言う通り。
“カケラ”が、不完全な闇底世界の欠片だというのならば。
“地上”で神隠しにあった女の子たちは、ひび割れた世界の隙間から、“闇底”へと彷徨い込んで来ているのでは?
もちろん、それは。
妖魔その他諸々が、“カケラ”を持ち去ったりしていなければっていうのが前提ではあるけれど。
“カケラ”が落ちている場所には、“地上”世界と“闇底”世界を繋げる隙間があって。
“地上”世界と“闇底”世界を繋げる隙間のある場所には、“カケラ”が落ちている可能性が高いのでは?
そして、そして。
“カケラ”を種まきして、闇底の大地へと戻すことで、もしかしてもしかしたら、うまいこと隙間が埋まって、埋まり切らなくても隙間が小さくなることで。
結果的に。
神隠しにあって“闇底へこんにちは”な事態を、撲滅……は無理でも、少しは減らせることが出来るのでは?
――――――――というのが。
魔女さんの話を聞いた、
“闇底こんにちは撲滅”のために、“闇底こんにちは地点”を巡礼しちゃおうというのが、今回の旅の目的だ。
たぶん、だけど。
そういうことなんだ、と
でも、たぶん。そういうこと!
――――――――というわけで!
あたしたちが、真っ先にやって来たのは。
このあたし、星空の闇底こんにちは地点。
半魚人っぽいお魚妖魔のいた沼地なんである!
理由は、ここが一番アジトの近くだったから!――――って、
で、まあ。
空から、あっさりと到着しちゃったその沼地には。
仄かに光るホタルモドキが、いっぱい飛び交っていた。
闇空から見下ろすと、天の川ならぬ……地の沼? 闇の沼? いや、ホタルモドキ……沼?
なんか、どれも違うな。まあ、いいや。
うーん。でも、でも、でも。
あの時は、それどころじゃなかったけれど。
こうして闇空の上から鑑賞している分には、なかなか悪くない場所ですな。
一面のホタルモドキってわけじゃなくて、地図みたいな模様になっているんだよね。仄かな光が集まっている場所と、少ない場所と。で、その中で、その仄かな光がユラユラ揺れたり、残像を描きながらゆっくりと動き回ったり。
ああ。ずっと見ていられそう。いい。すごく、いい。
…………でも、そういうわけにもいかないんだよねー。
「もう少し、降りてみましょう」
「分かった」
今回は、ホタルモドキ沼の鑑賞会じゃなくて、カケラと世界の隙間の調査に来たわけだからねー。
月下さんの一声で、あたしたちは下を見ながらゆっくりと降りていく。
三階建ての校舎の屋上くらいの高さまで来たところで、月下さんからストップがかかった。
現地に到着したのなら、すぐにでも大地に足を降ろしたいとか言うかと思ったのに。意外だなーと月下さんの顔をチラ見してみたら、すごく真剣な表情で沼地のあちらこちらへ視線を動かしていた。
調査への真剣な気持ちが、空を飛ぶことへのポンコツ可愛いあれそれよりも上回っているってことなのかな。
あたしも、気持ちを引き締めて、空からの調査を始めることにする。
んー。とりあえず、目に見えるサイズの妖魔はいないみたいだね。昆虫サイズとかのがいたら、ここからじゃよく分からんけど。
えーと、それで。あとは何を……?
うー、うーん。あ、沼地の大きさは、学校のグラウンドくらいかなー? で、ホタルモドキがいっぱいいるところが沼の部分で、少ないところはぬかるみになっているところっぽい。
あとね。前の時は全然気が付かなかったんだけれど、沼の中にもぬかるみのほうにも、枯れ木がいくつか生えていた。いや、枯れてるから、生えてるとは言わないのかな? どうなんだろ? 生えてるのかどうかは分からないけど、ぽつーんぽつーんと枯れ木があって、中には完全に倒れちゃってるのもある。こっちは、生えてるじゃなくて、転がってるっていうべきかな。うん。ま、どうでもいいね!
えー、あたしからの報告は以上!
月下さんから、次の指示があるまでは、ホタルモドキを鑑賞しながら待機してます!
とまあこんな感じで、何を調査したらいいものやらさっぱり分からず、後のことは月下さんたちにお任せして鑑賞モードに移行しようとしてた調査能力ポンコツのあたしでしたが、上には上がいらっしゃいました。
「何にもないようだな、次に行こう」
「まだ、何にも調べてないわよ!」
まだ下見だけで始まってもいない調査を早々に、そして淡々と打ち切って次へ行こうとする
うん。月華。
まだ始まってない。
始まってないから!
あたしでも、分かる。あたしでも、それくらいは分かるよ?
……やー。まさか、あたし以上の調査能力ポンコツさんがいるとはー。
星空、ちょっと安心したー。
「はあ。今のところ危険な妖魔はいないみたいだし。とにかく降りてみましょうか。降りたら、月華たちは合体を解いて別行動にしてちょうだい。雪白は調査に回って、月華は妖魔が現れないか警戒していてちょうだい」
「…………分かった」
額を抑えてため息をつきながらもテキパキと指示を出していく月下さん。闇空を飛んでいた時とは別人のような頼もしさ。
そして、少しむくれながらも、ほんの少しむくれた感じになりながらも言うとおりにする月華は、なんだか手のかかる妹的な可愛さがあった。
でも、ほのぼのしている場合でもなかった。
調査能力はあたし以上にポンコツな月華だけど、妖魔との戦闘能力は見た目の美しさと同じで“神”レベルなのだ。調査の役には立たなくても、用心棒としてみんなの役に立てるのだ。
やばい。あたし、戦闘能力もポンコツだよ……。
が、がんばらねば! 何と言っても、ここは、あたしの“闇底こんにちは”地点なのだ。あたしだからこそ、気が付くポイントがあるかもしれない!
きっと、何かある!
ポンコツなりに活躍せねば!
と、闘志を燃やしたのはいいものの。あたしの決意は、長くは続かなかった。
「やっぱり、ここには何にもありませんよ! さあ、次に行きましょう! 次に! 早く! 今すぐ!」
足を折りたたんだポーズで宙に浮かんだまま、ぬかるみに降り立った月下さんの肩を激しくユサユサする。
ユサユサ!
だって!
だってだってだってだってだってだってだってだって!
だってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
カ、カエ…………カエ……………………r……。
カ、カエr……の鳴き声がするぅーーー!!!!
前はっ、前はいなかったのに!
いつから! どこから!
現れやがったのー!!
「うわーん! 月華ー!! あいつら、全部やっつけてぇー!!!」
「あいつら、とは?」
「カで始まって、ルで終わる、やたら跳ね回る悪魔の使いのことだよー!!」
「ふぅん? 月華が反応しないってことは、このカエルは妖魔じゃなくて普通のカエルってこと?」
「違うわよ。妖魔は妖魔なんだけど、表皮から魔素を吸収して細々と生きてるタイプの無害な妖魔なのよ。昔は、こういうのも一々相手にしていたんだけど、この手のタイプは数も多いしね。彷徨ってきた女の子を食べたりはしないから放っておきなさいって、教育したのよ」
「雪白のおかげで、少しは成長しているのね。月華も……」
「心春だったら、無害だろうがなんだろうが、妖魔っていうだけで殲滅とか騒いでいそうだけれどね」
ちょっとー!
何和やかに談笑しちゃってるんですか!?
妖魔じゃないとかどうとか、そういうことは関係ないんですよ!
カエr……であることが、問題なんですよ!
それだけで、有害なんですよ!
それこそが罪なんですよ!
だからだからだから!
世界の隙間撲滅の前に、まず奴らを撲滅しちゃいましょうよ!
ね? ね!?
星空からのお願い!!
お願いだから!!
ね!?!?
う、うう。
あたしがお願いしなくても、勝手に自動で殲滅されていたのに。
ああ、まさか。
まさか、旅立って早々に、心春が恋しくなるとは……。
誰が、こんなことを想像できただろうか。
だけど、だけど。
背に腹は代えられない。
心春ー!
今すぐ、来て!
そして、奴らを殲滅して!!
塵も残さず!!!
星空のお願い聞いてくれたら、百合ハーレムの女王でもお姫様でもヒロインでも、なんにでもなる!
約束する!
ここにいるメンバー全員を百合的に攻略することを誓うから!
だから、助けて! お願い! プリーズ!!