童心に帰ってお砂遊びタイムからのカケラサーチの結果はというと。
なんだか、よく分かんないことになった。
お約束のように、サーチライト的な光線が砂浜に横たわるオマツリチョウチンアンコウのところへ飛んで行って、まあ、そこまでは予想通りだったんだけどね?
お腹の中とか、頭の天辺でユラユラしているお祭り提灯辺りを射すんじゃないかなーっていう、あたしの予想は見事に外れた。
いや、ある意味当たっている?
てゆーか、含まれてる?
やー、ね?
オマツリチョウチンアンコウのお腹の真ん中あたりを目指して飛んで行った光線ってば、オマツリチョウチンアンコウの全身を包み込むようにぱあっと広がってさ。
オマツリチョウチンアンコウの発光仕立てみたいなことになっちゃったんだよ。
ぼわんぼわんって、オマ……長いな、えー、チョウチンアンコウの光が揺れている。
光が消えないのは、ベリーがペンダントを掲げて、サーチし続けているからだ。
「ねえ、これって、もしかしてさ。あのオマツリチョウリンアンコウさんが、カケラをバリバリって噛み砕いて食べちゃって、全身に栄養として行き渡っちゃいました、ってことなのかな? だとすると、あのオマツリチョウリンアンコウさんは、ある意味カケラそのものってこと!?」
「いや、そんなわ…………いや、でも、どうだろ……?」
「まあ、ここでいろいろ言っていても仕方がないでしょ。ほら、月下美人が呼んでるわよ。もう少し近づいて、体の周りをぐるっと一周してから、合流しましょ」
とりあえずの思い付きをちょろっと口に出してみると、鼻で笑いかけたベリーでしたがが、途中で思い直して考え込み始める。でも、
で、結論。
ベリーにサーチしてもらいながら、ぐるっと一周してみたけれど、ぼわぼわと全身を包んでいる光には、一か所だけ光が強かったり、弱かったりとか、そういうことは特になかった。
気になったのは、ベリーがあちこち動いても、ペンダントから発射されたサーチライトの向かう先は、いつもお腹の真ん中辺りだってこと。
こ、これはもしかして、お口の奥の洞窟へこんにちはしないといけなかったりしちゃう?
う、うーん。一人なら怖いけど、みんなで行くなら、ちょっとおもしろそう!
いや、遊びに来たわけじゃないんだけど。
………………うっかり、お砂遊びは、しちゃったけどね? それは、ノーカンで!
で、んで。ざっくり調査が終わったら、お口の下で待っていた月下さんと一緒にカケラ探索会議が始まった。あたしの思い付きと、サーチライトの行方について、まずは月下さんに報告して、月下さんの意見を聞いてみる。
月下さんは少し考えてから、まずは、あたしの思い付きに対しての意見……てゆーか、感想?……というより、願望?…………らしきものを口にした。
「ううん。
腕組みをして、フッと笑う月下さん。ちょっと、投げやりになってません? 気のせい?
あと、その。昔は、その、えー、排泄物……を、肥料にしてたのは、あたしも聞いたことありますけど、それに埋もれていた種……じゃないカケラを発芽させるのは、なんか嫌です。だって、そのお花、なんか臭いそうじゃない? いや、実際はそんなことないのかもしれなけど。ほら、イメージ的に。
「サーチライトの方も、今の時点では何とも言えないわよね。お腹の中に、何かあるのかもしれないし、単にチョウチンアンコウの体の中心を狙っているだけかもしれないし」
サーチライトの行方についてのご意見は、雪白とベリーも同じことを言っていた。
や、やべー。会議になると、あたしと月華ってば、ただのお飾り状態だよ。いや、
「ねえ。カケラは一つだけとは限らないんでしょう? 星空案の妖魔の体に吸収されちゃったカケラと、お腹の中でコロンと転がっているカケラの二つがあるっていうのは、どう?」
「それも、あるわねぇ。…………となると、あまり気は進まないけれど……」
「ええ。ここで話し合っていても埒が明かないわ。突入して、この目で確認してみましょう。それで、妖魔のお腹の中で、もう一度サーチしてみればいいわ」
「え? 妖魔の体の中に入るの?」
置物のあたしをよそに、会議は進行していく。
最初にアイデアを披露してくれたのは、ベリーだ。ベリーってば、このメンバーの頭脳労働担当的なところ、あるよね?
で、ベリーの案に対して、迷いなく突入作戦を宣言する月下さんと、あまり気がのらなさそうな雪白とベリー。
あー、うん。妖魔のお腹の中に入るって思うと、ちょっとためらっちゃうよね。
巨大なオマツリチョウチンアンコウの体の中を探検って言うと、ワクワクするけれど。ほら、クジラに飲み込まれて、お腹の中で生活しているみたいなお話、なかったっけ? 気のせい? それとも、星空が見た夢の話? うん、どっちでもいいや。どっちにしろ、オマツリチョウチンアンコウのお腹の中を冒険するって話なら、ちょっとワクワクなんだよね。胃の辺りとかも、胃酸とかは全然なくて、家具なんかが揃ったお部屋になっていて、人を襲わないタイプの無害で可愛い妖魔が暮らしていたりして!
きゃーん。お呼ばれしたーい。
大きくて無害な妖魔の中で暮らす小さくて可愛い無害な妖魔。そう考えると、妖魔のお腹の中も全然アリかな! あたし的には!
なんなら、月下さんとあたしの二人で調査してきてもいいのですが?
置物の割には、建設的ないい意見!
いざ、出陣! じゃなくて、発言!
…………と思ったら、先を越された。
よりにもよって、置物よりも格上の、一級調度品の月華さんに!
「あの妖魔を、真っ二つにしてから調べればいい」
なんて、物騒なことを言いながら、さっそく三日月ブーメランを構えてるしぃー!
いや、いや、待って!
ただの置物も大慌てですよ!?
「無害な妖魔を、いたずらに殺したりしないの! それに、もし中に誰かいたらどうするのよ?」
「ん? ダメなのか?」
「ダメよ」
まあ、こういう時は、お目付け役の雪白さんの出番ですよ。
小鳥サイズで月華の頭の上に乗っていた雪白は、月華のつむじの辺りを嘴でツンツン小突いている。
渋々、ブーメランをしまう月華さん。
「そうね。“地上”と繋がっている場所が、このチョウチンアンコウのお腹の中だったりしたら、彷徨い込んだ誰かがいる可能性もあるわけだし。念のため、生きている状態で、中を調査してみたいわね」
「あたしは、全然大丈夫です!」
「はあ、まあ、仕方ないわね」
「分かった」
「………………あ、生きているのね、これ」
どうやら、オマツリチョウチンアンコウのお腹の中探検に乗り気なのは、あたしと月下さんだけのようだ。雪白は、仕方なくって感じ。月華は、どっちでもよさげ。で、最後のベリーは、本当に行きたくなさそうだな。ま、まあ、ベリーは妖魔には、いい思い出ないもんね。でっかい妖魔のお腹の中に入るなんて、たとえ死んでる妖魔でも嫌だよね。生きてる妖魔なんて、尚更だよね。うーんと。お留守番、してる?
「眠っているだけみたいね」
「そうなのね……。途中で、起きたりしないの?」
「それは、分からないけれど。まあ、大丈夫よ。何かあったら、内側から風穴を開けてやれば済むことよ」
「………………ああ。なるほど、言われてみれば、それもそうね」
うーわー。
本当に嫌なら、お留守番していてもいいよって言おうと思ってたのに、むしろ、オマツリチョウチンアンコウさん逃げてな感じになって来てるよ。
月下さんってば、キランとお目目を好戦的に輝かせているし、あんなに気乗りしなさそうだったベリーも、その手があったかみたいな顔で不敵に笑いながら右手をグーパーグーパーしているしぃ。あれは、少しでも何かあったら、オマツリチョウチンアンコウさんをブラッディな塵にしちゃうつもりだ。
うう。なんか月華が、三人に増えたみたいだよ。
いや。月華よりも、質が悪い?
妖魔はすべて殲滅しますなキノコがいないだけ、まだマシな感じ?
こ、これは、あたしがしっかりしなければ!
だって。オマツリチョウチンアンコウさんは、砂浜に横たわって眠っているだけなんだよね? 寝込みを、体の中から襲うなんて、ひどいよ! 卑怯だよ!
なのに、ベリーと月下さんってば、ちょっと何かあっただけで、心春並みに殲滅しちゃいそうじゃない? それこそ、水滴が落ちてきただけで、眠っているだけのオマツリチョウチンアンコウさんが真っ二つにされたり、赤い塵にされかねない。
お腹の中に、白骨死体とか見つかったりしたら、ま、まあね? その時は、星空も仕方がないかなって思うけれど。
でも。もしかしたら、無害で可愛いだけの妖魔さんが、お腹の中でひっそりと暮らしているかもしれないんだよ! ここなら、なんかほかの危険な妖魔に襲われたりしなそうだし! だとしたら、オマツリチョウチンアンコウさんをやっつけちゃうってことは、無害で可愛い妖魔さんたちが安心して暮らせる場所を奪っちゃうってことなんだよ!
そんなの、駄目! 絶対!
星空が、許しません!
オマツリチョウチンアンコウさん、安心して!
オマツリチョウチンアンコウさんと、可愛い住人さんたちは、星空が守ってあげるからね!