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第161話 赤い流れ星

 何はともあれ、突撃してみることになった!

 いや、突撃って言っても、あれだよ?

インタビュー的な意味であって、成敗しに行くわけじゃないよ?

 だって、あの子が幽霊さんなのは間違いないと思うけど、悪い幽霊さんには見えないしね!

 まずは、お話を聞いてみねばー!

 ということで、今回は、あたしとベリーの二人で突撃しちゃう?……みたいなことになりそうだったんだけどね?

 なんかね。

 こんな感じに、こーゆうことになりました!



↓    ↓    ↓    ↓    ↓



「あの逃げっぷりからして、ペンギンたちは、危険な妖魔ではなさそうね。幽霊相手には、月下美人げっかびじんも役に立たなそうだし、月華つきはなは月華で聞き取り調査の役には立たないだろうし。今回は、私と星空ほしぞらの二人で行ってくるわ。雪白ゆきしろ、二人が暴走しないようにお目付け役、よろしく」

「了解!」

「分かっ」

「待って! 私も行くわ!」


 現時点で、すでにあたし以上のポンコツぶりを発揮している月下げっかさんに代わって、ベリーが指揮をとってくれたんだよね。

で、パートナーに指名されたあたしが、喜び勇んで返事をして。その後に続いて、ポンコツ二人のお守役を任された雪白が、しょうがないわねって感じで返事をしようとしたのに被せて、ポンコツの片割れ認定された月下さんが『待った!』をかけてきたんだよ。

 えーと? 月下さんも、行くの? 本気?

 てっきり、恐怖顔の細かく震える石像のまま、ここから動けない状態かと思ってたのに。

 本当に、行けるの?

 ――――という、みんなの視線が月下さんの震える背中に集中した。

 …………うん。震えてるんだよねー。

 無理じゃない?――――って思うんだけどさ。

 震えながらも、こう言うんだよね。


「だって、幽霊なんていないもの。あれは、半透明タイプの妖魔。幽霊のふりをして人々を驚かすタイプの質の悪い妖魔なのよ。そんな妖魔を、妖魔退治のプロとして見逃しておくわけにはいかないものね? たとえ実体がなくても、そう、ベリーの殺戮的必殺技、殺戮のブラッディ・マリーなら、一瞬で真っ赤な塵に出来るものね。ベリー、頼んだわよ!」

「いや、…………まあ、必要なら、ね? はあ、仕方ないわね。みんなで行きましょう。雪白は、月華をお願い。星空も、頼んだわね?」

「分かってるわ」

「ま、任せて!」


 内容だけは威勢がいいけど、声も震えちゃってる月下さん。

 臨時リーダーのベリーは、呆れながらも「みんなでゴー!」作戦に切り替えた。

 ふっふっふー。ベリーに頼られちゃったー! お任せされちゃったー!

 そんなあたしの初仕事はー、「一緒に行くわ」とか言った割に、怖くて結局動けないでいる月下さんを何とかすることでした。

 プロのプライドがどうこうみたいなことを言っていたけど、うん。気持ちはともかく、体は動いてくれないっぽいね。もういっそのこと、置いていてしまおうかとも思ったんだけど、いつの間にかミニスカートの裾をがっつり掴まれていたから、それも出来ない。パンツ、見えそうだから、止めてほしいんだけど。

 あ、ちなみに。

 パンツはねー、水色に白い雲が浮かんでいるお空柄だよ。

 女子しかいないし、「見て、見てー」ってやりたい気もするけど、ここは更衣室じゃないからね、ちょっと恥ずかしい。あと、ペンギンさんたちもいるし。いや、妖魔だから女子のパンツとか興味ないかもしれないけど、で、でも、やっぱり恥ずかしい。

 嬉し恥ずかし乙女心!

 いや、そうじゃない!

 あたしまで、ポンコツになっている場合じゃないんだよ。今回は、月下さんに代わって、あたしがしっかりしないといけないんだから。

 えーと、本人が動けないなら、乗り物に乗せて運べばいいのかな?

 んーと、よし!


「召喚! 赤い流れ星! 闇空に煌めいて、キランッ☆」

「ふうん? 赤い流れ星なのに、星形ライトの光は白なのね」


 ちょ、ベリー、うるさいよ!

 いいでしょ! 本体は赤なんだから! それに、ライトはホラ! 赤いライトよりも白いライトの方が見やすいでしょ! あと、赤いライトで照らすとか、ベリーのブラッディな殲滅っぽくて、ちょい怖いし。でも、本体はちゃんと赤だから!

 えー。ちょっとだけ、邪魔が入りましたが、じゃ、じゃーん!

 広げたカーテンの向こう側。前を向いたまま動けずにいる月下さんのちょうど正面に召喚したのは、星空特製の赤い自転車でした!

 いや、だってさ。

 黄色いバレリーナときたら、赤い自転車だよね?

 なんか、もうさ。すっかりセットで見慣れちゃったっていうか。片方だけだと物足りないっていうか。もうこれ、闇空の常識になってない?

 あとさ。やっぱりさ。こういう、勇気、出さなきゃ、って時には、相棒の存在が必要だよね!

 というわけなのです。

 あ、月下さんが召喚したのとはね、ちょっとデザインを変えてあるんだー。

 本体が可愛い感じの赤なのは、一緒なんだけどね。ベリーの指摘があった通り、ライトは星形で、白い光を放っているのだ。あとね、あとね。車輪のところに、小さな星と月の、ほんのり白く輝く飾りをいっぱいつけてあってね。あ、でも、これ。漕いだらただの白く光るタイヤにしか見えなかったりする? …………いや、まあ、それはそれで! あ、まだあるの! あのね、ハンドルの部分にね、星と月の飾りのついたチェーンみたいなのを巻き付けてあるの! 白いビーズの途中に、親指の先サイズの飾りがついているんだー。間に挟まっているのとー、吊る下がるタイプのとー、両方! 星と月は、黄色くしておいた! バレリーナコスと同じ色!

 ちょっと、コッテコテかなー。でもなー。バレリーナコスの魔法少女が乗る魔法の自転車だもんね! これくらいじゃないと!

 月下さんのヤツも可愛んだけどさ。女児向けコーナーに行けば、お店でも売ってそうなレベルの可愛さなんだよね。

 せっかく、ここは闇底で、魔法少女なんだからさ。どうせなら、アニメの世界でしかお見かけしないようなヤツがいいな、と思って!

 頑張りました。

 どうかな、どうかな?

 月下さんは、お姉さんキャラだし、子供っぽいって思われちゃかな?


「そ、そう、ねぇ。これは、これで……悪くはないわね」

「え? そう?」

「ちょ、ベリーは黙ってて! さ、月下さん、乗ってみてください!」


 よ、よかった。ベリーは、「うわあ」って顔をしているけど、月下さんはまんざらでもないみたいですよ? なんか、ソワソワしだしたし。怖がりつつも幽霊さんにロックオンしていた視線は、今や赤い流れ星に釘付けだ。

 ソワソワ気にしつつも、すぐには手を伸ばさずモジモジしている風なのは、可愛いけれど子供っぽくて、乗るのは恥ずかしいとか思っているのかな?

 でも、気に入ってはくれているっぽいし!

 よーし、もう一押し!


「ささ、どうぞ、どうぞ! バレリーナ風魔法少女・月下美人が乗ってこそ、赤い流れ星は真の威力を発揮するんです! これに乗れば、もう安心ですよ! 星空のスターは無敵の証ですからね! これに乗れば、向かうところ敵なし状態ですよ!」

「…………ポンコツの証じゃないの?」

「しっ! 黙って! ベリーってば、どっちの味方なの? 乗せちゃえば、あとはあたしが魔法で自転車を動かせばいいだけなんだから。邪魔しないで」

「あ、そういうこと。ごめん、気づかなかった。月下美人のテンションを上げて、おだてながら無理やりその気にさせるつもりなのかと思っていたら、割と魔法だけど物理なのね。見直したわ、星空。自転車に乗せたところで、本人にあそこまで移動させるのは、正直、無理なんじゃないって思っていたけど、魔法的物理で強引に移動させるなら、問題ないわね。そういうことなら、協力するわ」

「うん……。ありがとう…………」


 最後の方の、ベリーとのやり取りは、月下さんの背後でこっそりと行われております。月下さんは、赤い流れ星に夢中で、後ろのやり取りは聞こえていないみたいですね。というか、その前のあたしのおすすめトークも聞いてなかったみたいですねー?

 無敵のスターで幽霊も怖くないよって気持ちを込めたんだけどな。普通にスルーしてません? いや、それだけ自転車の出来を気に入ってくれたってことなんだろうけど。それは嬉しいんだけど、ちょい複雑。

 しかし、それはまあいいとして、ベリーよ。

 協力してくれるのは嬉しいのですが、なんだろう。褒められているみたいではあるけれど、でも、なんだろう。素直に喜べないのは、なんでなんだろうね?

 そのベリーは、話をスルーされたあたしの失敗を踏まえてか、月下さんの肩をちょいちょいして注意を引いてからプレゼンを始めた。


「せっかくなんだから、乗ってみたら? きっと、その衣装に映えると思うわよ。それに、せっかくの星空からのプレゼントなんだし。一度くらいは、乗ってみるってものじゃない? 先輩として」

「そ、そうよね? せっかく、星空がプレゼントしてくれたんだものね。先輩として、その心を受け取るのは、当然のことよね?」

「は、はい! せっかく月下さんのために作ったから、ぜひ乗ってほしいです! 乗ってるところ、見せてほしいです!」

「もう、星空ったら、仕方ないわね。じゃ、じゃあ。そういうことなら、せっかくだから、乗ってみるわね」


 ベリーの作戦は、大成功だった。

 そっか。これに乗れば幽霊なんて怖くないよ作戦よりも、姉貴分心を刺激する作戦の方が月下さんには効果的だったのか。後輩の気持ちに応えるために仕方なく乗ってあげるムーブを演出することが大事だったんだね。

 まあ、でも。ベリーの意図を察して、ちゃんと追い打ちをかけたあたしも偉いよね!

 おかげで、ほら。

 月下さんってば、口では仕方がないとか言いつつも、いそいそと嬉しそうに「赤い流れ星」に手を伸ばしている。

 う、うん。幽霊さんのこと、完全に忘れちゃってない? あんなに、怖がっていたのに。

 月下さんってさ。たまーに、あたし以上に単純だよね。

 いや、それだけ、あたしの「赤い流れ星」が月下さんの心にクリーンヒットしたってことだよね。そういうことにしとこう。


「どうかしら?」

「とっても、お似合いです! バレリーナの妖精みたいです!」

「うん。幻想的で、すごく可愛い。そういうミュージカルのポスターとかに使えそうなくらい、ハマってるわ」

「というわけで、行きましょう!」

「え?」


 赤い流れ星に跨った月下さんが、無邪気な、嬉しそうな笑顔でこっちを振り向いた。

 うーわー。月下さん、可愛い。絵になるー。

 普段は、年上の落ち着いたお姉さん風の雰囲気を醸し出している月下さんの可愛い部分が前面に引き出されているというか。

 こうね、月下さんの可愛さと自転車の可愛さがお互いを引き立て合っているっていうか、相乗効果でより可愛いっていうか。なんていうか。

 可愛さの権化っていうか。

 あたし、いい仕事したなっていうか。

 あたしとベリーは、惜しみなく称賛の声を送る。

 大絶賛ですよ。

 まあ、ベリーは、どうなのか知らないけれど、あたしは本当に心から大絶賛ですよ。

 でもね?

 ちょっと、心が痛むけど。

 予定通りの作戦を決行させていただきます。

 月下さんが異変を察知する前に、魔法で「赤い流れ星」を浮かせると、ベリーと目配せを交わして、そのままみんな一緒にレッツゴー!

 あ、月華には声をかけていないけど、雪白はたぶん察してくれているはずなので、きっとついて来てくれているはず。


「な、な、騙したのねぇえええええええええええ!!!」


 オマツリチョウチンアンコウさんの胃袋広間の中に、月下さんの恨みが交じった絶叫が響き渡る。

 いや、騙してはいないですよ?

 褒めたのは、本当に本心からだし!

 そのー、魔法的物理で無理やり移動させちゃったのは、申し訳ないとは思いますけれどもー。

 月下さんだって、ほら。一緒に行くって、自分で言ってたじゃないですか。

 なのに、月下さんが全然動こうとしないから。

 ちょっと、背中を押してあげたっていうか。

 えと、善意で、そう、お手伝い!

 お手伝いしてあげただけですから!


 だから、後で怒ったりしないでほしいなー……。

 うう。作戦はうまくいったのに。

 せっかく、珍しく活躍したのに。

 月下さんが自転車に乗ってくれた時は、めっちゃ嬉しかったのに。


 今はひたすら、全てが終わった後が怖い。


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