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第168話 花底の生霊少女は魔法少女になれるのか!?

 さくり、さくり。

 しゃなり、しゃなり。


 ――――と。フラワーは、星砂浜を歩いて、生霊少女に近づいていく。


「そこのあなた」

「はい? ふぁっ!? お花な少女! これは、あれですか? お花系魔法少女ってことですか? 素敵です! 素晴らしいです! わあぁああ!」

「ふっ」


 フラワーがしっとりと生霊少女に話しかけると、生霊少女は夢の世界から戻ってきた。戻ってきて、分かりやすくお花を咲かせた。

 あ、もちろん。お花を咲かせたっていうのは、比喩的なアレってヤツだよ? え、と。ほら、あれ。現実にお花が咲いたわけじゃなくて、あの子の脳内と、あと背景に咲き乱れてるっていうか、そんな感じのアレだよ。アレ。

 生霊少女は、フラワーのフラワーぶりに感激しているみたいだ。

 あ。今のフラワーぶりっていうのは、中身的な意味じゃなくて、外見的な意味ね?

 フラワーはね、見た目だけは完全に完璧だから。

 見た目だけは。

 ゆるふわっとした髪を、ゆるふわっと結い上げていてね。そこに、小花の飾りが散りばめられているのが、何とも可愛いのだ。ゆるふわっと揺れているおくれ毛も、いい感じに心をときめかせてくれる。

 で、フラワーの魔法少女コスが、またさあ。

 お花をきかせているっていうか、お花まみれっていうか、いかにもお花少女ってかんじでさあ。

 淡い色合いの、いろんな色の小花を集めて作った、小花百パーセントな感じの衣装なんだよ。なんていうか、風が吹いたら全部吹き飛んで、いや~んなことになりそうなドキドキ感もあったりしてさ。

 本人が、しっとり系美少女なことも相まってさ。

 あれは、反則だよね。

 中身の方は、どちらかといえば悪い意味での神秘系だけどね。


 で。その突然出てきたフラワーさんは、お目目をキラキラさせている生霊少女の反応がまんざらでもなかったのか、おくれ毛を指先でクルクルしながら満足げに小さく笑って、それから。

 いきなり、本題に入りました。


「あなた、魔法少女になってみるつもりはない?」

「え? 魔法少女、ですか? はっ! つまり、一度死んで、魔法少女に転生しろと!?」

「ふっ。まあ、ある意味間違いではないわね。魔法少女として生きる道を選択すれば、生霊少女としての生を終えて、魔法少女に生まれ変わることになるのだから」


 フラワーはフラワーだから置いておくとして。

 何を言ってるの、この子!?!?

 一度死ぬとか、転生とか、どっから出てきたそのワード!

 なんか、心春ここはるやフラワーとは、違う怖さを感じる。

 足して二で割った感じ?

 成分は半分だけど、混ぜたことによる化学反応で、これはこれでマイルドに面倒くさい子な気がする。


「そこにいらっしゃる、ミニちょうちんすら美しく着こなす、この闇底を統べる月の女神であらせられる月華つきはな様と血の契約を交わせば、あなたは力を得て、魔法少女となれる」

「ちょっと、吸血鬼みたいですね!」


 いや、ミニちょうちん電球は普通に違和感バリバリだし。別に美しく着こなしてはいないと思うんだけど。本気で言ってるの?

 そして、生霊少女は、そこは普通にスルーなんだね。

 そして、なんで。吸血鬼とか言いながら喜んじゃってるの?

 あたしは、血の契約って聞いたときは怖くてビビりまくってたけどな。

 見た目は地味で大人しい感じなのに、メンタルはそうでもないよね、この子。


「血を吸われるのではなくて、月の女神から血を与えられることで、魔法少女の力を得る」

「なるほど。少し百合風味な逆吸血鬼的な設定ということでしょうか」

「ふっ。そんな感じね。なかなか、見どころがある」


 設定とか、言ってる……。うん、確かに、見どころあるよね。本当に、闇底向けの子だよ。

 そして、百合風味な逆吸血鬼とか言っているのが、あたし的にはすごく気になる。

 だって、ほら、あれだよ?

 この子と心春を出会わせたら、駄目なのでワ? ワ?

 ぼんやり光る苔ドレスを身に纏う、新たなイロモノ系魔法少女が爆誕してしまうのでワ? ワ?

 なぜだろう?

 新しい魔法少女誕生の瞬間に立ち会えるというのは、ドキワクするイベントのはずなのに、心が冷えていくのはなぜだろう?

 ナチュラルに微妙な脱線をするの、やめてほしい。ホント。


 とりあえず、他のみんなの反応を見ようと、月下げっかさんの方をチラッとしてみたら、口を挟もうとして挟めずにいるみたいだった。片手を上げかけた中途半端なポーズで固まっている。

 きっと、一度死んで転生とか、ミニちょうちん電球を美しく着こなすとか、吸血鬼とかがちょいちょい挟まれてくるから、どのタイミングでなんて言って割って入ればいいか、分からなくなっちゃったんだろうな。

 話のノリ的には、こういうの、月見つきみサンで慣れているのかもしれない。でもさ、この二人、テンションとテンポが月見サンと違うんだよね。

 月見サンは、どっちも爆上げでこういうノリの会話をするから、ポンポンとツッコミを入れていく感じになるんだけどさ。

 この二人は、ねぇ。

 フラワーはテンションしっとりめだし。生霊少女は、上げてはいるんだけど、心春や月見サンみたいにガツーンと上げるんじゃなくて、ゆるふわっとした感じの上げ方なんだよね。

 それで、テンポはどっちもゆったりめで。

 月下さん、たぶんだけど、月見サンで慣れちゃってるせいで、かえって二人のリズムについていけてないんじゃないかなー。

 なーんて。勝手な想像。

 そんな月下さんからそっと視線を逸らして、お次はベリー。

 ベリーは、なんかあきらめて見守ることにしたみたいだね。

 何かを悟ったみたいな顔してる。口を挟むつもりは、なさそうだ。

 まあねー。

 フラワーって、意表を突いたことをしてくるようでいて、結果的にはそれがうまくいっちゃうみたいなとこ、あるからなー。それに、止めて聞くような子じゃないしね。

 よし。あたしも、ベリーと一緒に見守り隊に入っとこうっと。


「返事を聞く前に、名乗っておくとしましょうか」

「は、はい!」

「私は、闇底に咲く一輪の神秘の花。真の名を明かすことは出来ない。でも、皆からはこう呼ばれている。フラワー、と」

「フラワー、さん。あ、わ、私は!」

「ストップ」

「え?」

「それは、あなたが魔法少女として生まれ変わった時に聞かせてもらう」

「あ…………」

「さあ、思い描いて。あなたの目指す、魔法少女の姿。それを体現する、あなたの魔法少女としての新たな名前を」

「………………!」


 え? いや、突然、何?

 何劇場が始まったの?

 なんで、突然名乗ったの? いや、てか、名乗ってないよね?

 てか、てゆーか。そういう路線で行くことにしたんだ。

 ちょっと前までは、一応『心花ここはな』って、自分では名乗ってたのに。誰も、その名前で呼んでないけど。…………だからか? もしかして、内心、なにげに気にしてた?

 てゆーか、てゆーか。

 それ、誘導しちゃってない?

 大丈夫?

 生霊少女、手を組み合わせてキラキラしながら、脳みそがどこかへ飛び立ってるよ?

 あれ、絶対、考えてる最中だよね?

 めっちゃ、その気だよね?


 だけど、シンキングタイムは、割とすぐに終わった。

 声をかける隙がないくらいに、ホントにすぐだった。

 組んだ手にぐっと力を込め、決意と希望に満ちた目で、フラワーを見つめる生霊少女。

 それに、無言で頷きを返すフラワーさんですが、どうするつもりなんでしょう?

 生霊少女がその気になっても、月華がその気にならなければ、意味ないんじゃ?


 なーんてことは、フラワーさんも当然知っていらっしゃいました。

 フラワーは、しっとりと何を考えているのかさっぱり分からん眼差しを月華へと向けた。

 生霊少女の本体の傍で突っ立っていた月華へと。


「月華。その子と、血の契約を」

「ん? 分かった」


 基本的には魔法少女化推進派と思われる月華は、あっさりと頷いた。

 たぶん、今までの話はちゃんと聞いていない。深く考えたり、していない。

 仲間に頼まれたから、頷いた。

 そんな感じのノリ。


 止める間も、なかった。


 フラワーへ返事をするのと同時に、月華は指の先にスッと傷を走らせ血を溢れさせると、その指を生霊本体のお口の上に持って行く。

 立ったままなのに、とてもいいコントロールでした。

 赤い水滴が、真っすぐな直線を描いて生霊本体のお口の上に落ちていく。

 閉じたお口の、ちょうど真ん中。

 血の気のない唇が、鮮やかに色づいた。

 薄っすら開いた隙間から、本体に忍び込んでいく赤い液体。

 ごっくんはしていないのに、お口の中に入っただけでも効果があるみたいだった。

 仮死状態の本体に、力が染み渡っているのが、分かる。感じる。


「さあ。誓いと変身の言葉を」

「はい!」


 しっとりと変身を促すフラワーに、可愛く元気よく答える生霊少女。

 え?

 どうなるの、これ?

 いや、生霊少女が魔法少女になること自体は、歓迎なんだけどさ!?

 カケラとか、妖魔さんの今後的に、大丈夫なの? これ?

 大丈夫じゃなかった時に、大丈夫なの?

 フラワー的な意味で!

 大丈夫じゃなかった時に、フラワーがフラワー的に解決しようとしたら。

 そんなことになったら。


 闇底が、花底になってしまうかもしれない。

 それが、一番、恐ろしい!


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