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第169話 黒幕

「サマータイム☆カーニバル!」


 弾むような声が、カーテンの海が棚引く星砂浜に響き渡った。

 遅れて、弾けるような光の洪水が襲い掛かって来る。

 シャン シャン シャラン と澄んだ音色。

 飛び散る、色とりどりの星屑たち。


「波打ち際の小悪魔にして、桃黒マーメイド☆

 サファイア・ピンク、ここに推参☆☆☆」


 お、おおおおおおおおおお!

 なんて言ったらいいんだ!?

 情報が多すぎて、脳みそが追い付かない!

 や、闇底に昼が訪れたんですが!?

 と、とりあえず。心を落ち着けて、一つずつ説明しよう。そうしよう。


 えーと、まず。

 オマツリチョウチンアンコウさんは、体が真っ二つに分かれました。上と下に。天井と床に。で、その天上と床を、波模様の白い柱が繋いでいる。なんか、こう。ちょうどいい間隔で、柱が何本も並んでいる。

 床部分は、ビーチになっていた。

 星砂浜と、ストロベリーソーダの海が広がるビーチ。

 波が寄せる度に、シュワシュワパチパチと小気味いい音が弾けて、イチゴシロップの甘い匂いが仄かに漂う。

 そして、星砂浜。こっちは、もうね。南国風リゾート仕様になってた!

 ヤシの木! パラソル! 南国リゾートっぽい白さが眩しいチェア! あと、テーブル!

 それから、かき氷の屋台と、リゾートっぽい飲み物が売っている屋台がいくつか並んでいる。ちなみに店主はペンギン妖魔だ! お客さんも、もちろんペンギン妖魔!

 ペンギンさんたちの集う南国ビーチリゾート!

 南国なのにペンギンさん!?

 ――――って、ちょっと思ったけど。まあ、そこはいいよ。だって、本物のペンギンさんじゃなくて妖魔なんだし。

 何より、可愛くて涼しげ!

 だが、それだけではないのだ!

 南国リゾートなのは、オマツリチョウチンアンコウの床部分だけじゃない!

 天井部分も! なのだ!

 天井は、透き通るような青色をしていた。

 そして、その真ん中に咲いた、大きなひまわりの花。

 ひまわり太陽の真夏級の日差しが、ビーチに降り注いでいる。

 そう! オマツリチョウチンアンコウ会場限定とはいえ、闇底に昼が生まれちゃったんだよ!

 それも、夏真っ盛り! 常夏の国感満載!

 で、その闇底に真っ昼間を生み出した張本人はというと――――。


 水着だった!


 うん、惜しい! 二番煎じ! 水着の魔法少女は、月見つきみサンがいるからね! でも、月見サンよりは魔法少女みがある…………いや、あるかな? そうでもないな。

 ピンクのビキニと、それを縁取る黒フリル。小悪魔風な羽と尻尾のオプション付き。鮮やかな青色のショートカット。ひまわりの髪飾り。

 極めつけは、目の色。

 えーと、どっちが右で、どっちが左だ……?

 んー、片っぽがピンクで、片っぽが青。

 ピンクの方の肩の上に、肩ノリサイズのミニペンギンがちょこんと乗っているのが可愛い。いいな、あたしも欲しい。

 そして、一番注目すべきはお胸のサイズだ。

 浴衣の時は、仲間だと思ったのに。

 まあまあのサイズの、偽りの丘が二つ! ちゃっかりと! ズルイ! 羨ましい! 迂闊に巨乳サイズにしないところにしたたかさを感じる!

 ………………いや、待てよ? もしかしたら、着やせするタイプ……?

 いや、違う! アレは偽りの丘!

 そうに違いない! あたしは、そう信じる!

 心の中で息巻いていたら、小悪魔マーメイドの、のんびりと弾んだ声が聞こえてきた。


「どうですかー? みなさーん!」

「いや、南国にペンギンなのは、ひとまず置いておいて。どうして、海がストロベリーソーダなの? 普通にソーダか、むしろメロンソーダにするべきじゃない?」

「え? ああ、そうですね? あまり深く考えてませんでした。どうして、イチゴなんでしょう? 夕方の海も合わせて表現? うーん、でもリクエストにはお答えしましょう。これで、どうですか?」


 さあ、と言わんばかりの小悪魔マーメイドに、さっそく物申したのはベリーさんだ。

 それは、あたしも思ったんだけど。てっきり、あの子はストリベリーソーダが好きなんだと思って、あえて口にはしなかったんだけど。そういうわけじゃないのか……。

 でも、だとすると。本当に、何でそのチョイス?

 夕日に照らされた海なら分かるけど、特にストロベリーソーダ好きじゃないなら、このシチュエーションで赤い海はないと思う。ブラッディな感じ……とまではいかないけれど、ほんの少しのベリーみを感じる。本人もなんとなく感じているんだろう。ちょっとだけ、居心地悪そうだ。もうすっかり忘れちゃったベリーの正式な名前とか、ベリーの技の名前とかがちょっと被った感じなのが、ね。なんか、混ざってるみたいで、微妙に居心地悪いよね。

 まあ、メロンソーダを要求したのは、たんにベリーがメロンソーダ好きだからだと思うけど。


 小悪魔マーメイドは、そんなベリーのご要望に応えて、右手を上げて頭上でぱちんと鳴らした。

 そしたら、海が!

 海が、三色に分かれた!

 赤・青・緑の三色になった。

 横じゃなくて、縦に!

 えーと、ちゃんとどのソーダも砂浜に寄せあげる感じに!

 メロンソーダ色の海を見て、ベリーが途端に顔を輝かせ……てから急に真顔になった。

 そして、何やらブツブツ言い始める。


「バニラアイス色の浮き輪でメロンソーダの海をプカプカしながら、長いストローを使って直接海からメロンソーダを飲む…………っていうのは、子供の頃の夢だったけど、でも、実際にやるのはどうなの? メロンソーダの海で遊ぶくらいは、まあいいとして。いい年をして海の水を飲むっていうのは、なんか汚い気もするし……。でも、せっかくのチャンス。それに、ここは闇底で、私は魔法少女。魔法少女なら、お腹を壊したりはしないし、不衛生とかそんなに考えなくてもいいんじゃないの……? どうせ、闇底なんて夢の中の世界みたいなものなんだし。そうよね。夢の世界なら、海に浸かりながら海の水を飲んでもいいわよね。だって、メロンソーダなんだもの……。よし、行こう!」


 真顔でブツブツ言っていたベリーの瞳に、子供のようなきらめきが宿った。

 行こう、の一言で、変身の呪文もなくイチゴショートケーキ風の水着にマジカルな早着替えをすると、メロンソーダの海に向かって走り出す。

 左手にバニラアイス色の浮き輪、右手に長いストローを持って。

 ベリーがこんなに弾けているところ、始めて見た気がする。

 えーと、よかったね?

 ここは、あえて見守らないでおいてあげよう。

 そっとソーダの海から視線を外し、星砂浜の方を見て、あたしは固まった。

 え? ちょ、いつの間にそんなことに?

 花屋台が、花屋台が出来とる。


 フラワー的な意味で。


 こ、小花で可愛く飾られた屋台で、小さい花束を売ってるんですが?

 や、売っているのはペンギンさんなのですが、隣でフラワーがいろいろ指導をしていらっしゃるのですよ。「花成分が足りない」とかいう、しっとりした声が聞こえてくる。

 何やってるの、フラワー?

 その屋台には、花成分しかないと思うんだけど。

 もう、充分フラワーだと思うんだけど。

 あ! ペンギンさんの頭に花冠が現れた!

 …………花人形に改造されないといいんだけれど。せめて、祈っておこう。

 そして、その隣の屋台では、月華つきはながかき氷をシャクシャクしてるよ。ブルーハワイ……かな。

 えーと。ま、まあ。月華だしね。げ、月下げっかさん、月下さんは?

 砂浜をキョロキョロして、見つけた。

 わー。月下さんは月下さんでくつろいでいらっしゃるー。

 パラソルの下の、ゆったりめにリクライニングされた南国リゾートチェアに横たわり、南国フラワーの飾り付きの、いかにも南国リゾートっぽい飲み物を飲んでいらっしゃる。何味かは分からんけど、クラッシュアイスがいっぱい入った黄色いジュース。パイナッ……プル? レモン? うん。分からん。

 南国でくつろぐバレリーナが誕生しちゃってますよ。

 パラソルの隣に赤い自転車が止められているのが、なんだか場違い。

 砂浜に自転車て。まあ、空を飛んじゃえば、足元は関係ないんだけど。

 視覚的には、場違い感満載。


 どうしよう。取り残された!

 よりにもよって、このあたしが!

 どーしよー!


 参戦したいけど、今から参戦するには気持ちが盛り上がらないというかー。ベリーを生温かく見守っている内に、子供たちをも守るお母さん気分になっちゃたというか。

 混ざりたいのに混ざれないジレンマに半泣きになっていたら、何か白くて小さいものが肩口に降り立った。


「まさか、まともなのがあんただけとはね……」

「ゆ、雪白ゆきしろー!」


 小鳥サイズの雪白だったー。

 わーん。雪白ー。よかったー。乗り遅れた仲間がいたよー。


「ふう。それにしても、罠にでもかかったみたいな有様よね」

「え? 罠って、フラワーの?」

「……………………そうじゃないでしょ、って言いたいところだけれど。否定できないのが痛いところよね」


 ため息をつく雪白に、思わず答えると、雪白はしばらく無言になった後、苦々しく零して、もう一度深くため息をついた。

 えーと、言いたいことは分かる。

 普通だったら、罠にかけたのは小悪魔マーメイド、なところだよね?

 小悪魔だけに。

 でも、あたしは迷うことなくフラワーと答えた。

 あの子に変身するように促したのが、フラワーだったから。というわけじゃない。


 あの子も罠にかかっているからだ。


 ………………フラワー屋台で、いろいろ物色していらっしゃる!

 すでに、手首には小花ブレスレットみたいなのが巻かれているし!

 ああー。足首にまでー!

 小悪魔マーメイドに花成分が注入されていく……。


「ねえ、あのひまわりの太陽だけど、その内、種とか出来るのかしら」

「ちょ、雪白! 気を確かに持って! あたしを、置いていかないで!」


 ひーん。雪白が、ついにヤリを投げたー。

 もー。

 分かってる。分かってるよ。

 たぶん、本人にはそんなつもりはないのかもしれない。とりあえず、今回のところは。

 でも、これ、絶対!


 黒幕はフラワーだよね?


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