「サマータイム☆カーニバル!」
弾むような声が、カーテンの海が棚引く星砂浜に響き渡った。
遅れて、弾けるような光の洪水が襲い掛かって来る。
シャン シャン シャラン と澄んだ音色。
飛び散る、色とりどりの星屑たち。
「波打ち際の小悪魔にして、桃黒マーメイド☆
サファイア・ピンク、ここに推参☆☆☆」
お、おおおおおおおおおお!
なんて言ったらいいんだ!?
情報が多すぎて、脳みそが追い付かない!
や、闇底に昼が訪れたんですが!?
と、とりあえず。心を落ち着けて、一つずつ説明しよう。そうしよう。
えーと、まず。
オマツリチョウチンアンコウさんは、体が真っ二つに分かれました。上と下に。天井と床に。で、その天上と床を、波模様の白い柱が繋いでいる。なんか、こう。ちょうどいい間隔で、柱が何本も並んでいる。
床部分は、ビーチになっていた。
星砂浜と、ストロベリーソーダの海が広がるビーチ。
波が寄せる度に、シュワシュワパチパチと小気味いい音が弾けて、イチゴシロップの甘い匂いが仄かに漂う。
そして、星砂浜。こっちは、もうね。南国風リゾート仕様になってた!
ヤシの木! パラソル! 南国リゾートっぽい白さが眩しいチェア! あと、テーブル!
それから、かき氷の屋台と、リゾートっぽい飲み物が売っている屋台がいくつか並んでいる。ちなみに店主はペンギン妖魔だ! お客さんも、もちろんペンギン妖魔!
ペンギンさんたちの集う南国ビーチリゾート!
南国なのにペンギンさん!?
――――って、ちょっと思ったけど。まあ、そこはいいよ。だって、本物のペンギンさんじゃなくて妖魔なんだし。
何より、可愛くて涼しげ!
だが、それだけではないのだ!
南国リゾートなのは、オマツリチョウチンアンコウの床部分だけじゃない!
天井部分も! なのだ!
天井は、透き通るような青色をしていた。
そして、その真ん中に咲いた、大きなひまわりの花。
ひまわり太陽の真夏級の日差しが、ビーチに降り注いでいる。
そう! オマツリチョウチンアンコウ会場限定とはいえ、闇底に昼が生まれちゃったんだよ!
それも、夏真っ盛り! 常夏の国感満載!
で、その闇底に真っ昼間を生み出した張本人はというと――――。
水着だった!
うん、惜しい! 二番煎じ! 水着の魔法少女は、
ピンクのビキニと、それを縁取る黒フリル。小悪魔風な羽と尻尾のオプション付き。鮮やかな青色のショートカット。ひまわりの髪飾り。
極めつけは、目の色。
えーと、どっちが右で、どっちが左だ……?
んー、片っぽがピンクで、片っぽが青。
ピンクの方の肩の上に、肩ノリサイズのミニペンギンがちょこんと乗っているのが可愛い。いいな、あたしも欲しい。
そして、一番注目すべきはお胸のサイズだ。
浴衣の時は、仲間だと思ったのに。
まあまあのサイズの、偽りの丘が二つ! ちゃっかりと! ズルイ! 羨ましい! 迂闊に巨乳サイズにしないところにしたたかさを感じる!
………………いや、待てよ? もしかしたら、着やせするタイプ……?
いや、違う! アレは偽りの丘!
そうに違いない! あたしは、そう信じる!
心の中で息巻いていたら、小悪魔マーメイドの、のんびりと弾んだ声が聞こえてきた。
「どうですかー? みなさーん!」
「いや、南国にペンギンなのは、ひとまず置いておいて。どうして、海がストロベリーソーダなの? 普通にソーダか、むしろメロンソーダにするべきじゃない?」
「え? ああ、そうですね? あまり深く考えてませんでした。どうして、イチゴなんでしょう? 夕方の海も合わせて表現? うーん、でもリクエストにはお答えしましょう。これで、どうですか?」
さあ、と言わんばかりの小悪魔マーメイドに、さっそく物申したのはベリーさんだ。
それは、あたしも思ったんだけど。てっきり、あの子はストリベリーソーダが好きなんだと思って、あえて口にはしなかったんだけど。そういうわけじゃないのか……。
でも、だとすると。本当に、何でそのチョイス?
夕日に照らされた海なら分かるけど、特にストロベリーソーダ好きじゃないなら、このシチュエーションで赤い海はないと思う。ブラッディな感じ……とまではいかないけれど、ほんの少しのベリーみを感じる。本人もなんとなく感じているんだろう。ちょっとだけ、居心地悪そうだ。もうすっかり忘れちゃったベリーの正式な名前とか、ベリーの技の名前とかがちょっと被った感じなのが、ね。なんか、混ざってるみたいで、微妙に居心地悪いよね。
まあ、メロンソーダを要求したのは、たんにベリーがメロンソーダ好きだからだと思うけど。
小悪魔マーメイドは、そんなベリーのご要望に応えて、右手を上げて頭上でぱちんと鳴らした。
そしたら、海が!
海が、三色に分かれた!
赤・青・緑の三色になった。
横じゃなくて、縦に!
えーと、ちゃんとどのソーダも砂浜に寄せあげる感じに!
メロンソーダ色の海を見て、ベリーが途端に顔を輝かせ……てから急に真顔になった。
そして、何やらブツブツ言い始める。
「バニラアイス色の浮き輪でメロンソーダの海をプカプカしながら、長いストローを使って直接海からメロンソーダを飲む…………っていうのは、子供の頃の夢だったけど、でも、実際にやるのはどうなの? メロンソーダの海で遊ぶくらいは、まあいいとして。いい年をして海の水を飲むっていうのは、なんか汚い気もするし……。でも、せっかくのチャンス。それに、ここは闇底で、私は魔法少女。魔法少女なら、お腹を壊したりはしないし、不衛生とかそんなに考えなくてもいいんじゃないの……? どうせ、闇底なんて夢の中の世界みたいなものなんだし。そうよね。夢の世界なら、海に浸かりながら海の水を飲んでもいいわよね。だって、メロンソーダなんだもの……。よし、行こう!」
真顔でブツブツ言っていたベリーの瞳に、子供のようなきらめきが宿った。
行こう、の一言で、変身の呪文もなくイチゴショートケーキ風の水着にマジカルな早着替えをすると、メロンソーダの海に向かって走り出す。
左手にバニラアイス色の浮き輪、右手に長いストローを持って。
ベリーがこんなに弾けているところ、始めて見た気がする。
えーと、よかったね?
ここは、あえて見守らないでおいてあげよう。
そっとソーダの海から視線を外し、星砂浜の方を見て、あたしは固まった。
え? ちょ、いつの間にそんなことに?
花屋台が、花屋台が出来とる。
フラワー的な意味で。
こ、小花で可愛く飾られた屋台で、小さい花束を売ってるんですが?
や、売っているのはペンギンさんなのですが、隣でフラワーがいろいろ指導をしていらっしゃるのですよ。「花成分が足りない」とかいう、しっとりした声が聞こえてくる。
何やってるの、フラワー?
その屋台には、花成分しかないと思うんだけど。
もう、充分フラワーだと思うんだけど。
あ! ペンギンさんの頭に花冠が現れた!
…………花人形に改造されないといいんだけれど。せめて、祈っておこう。
そして、その隣の屋台では、
えーと。ま、まあ。月華だしね。げ、
砂浜をキョロキョロして、見つけた。
わー。月下さんは月下さんでくつろいでいらっしゃるー。
パラソルの下の、ゆったりめにリクライニングされた南国リゾートチェアに横たわり、南国フラワーの飾り付きの、いかにも南国リゾートっぽい飲み物を飲んでいらっしゃる。何味かは分からんけど、クラッシュアイスがいっぱい入った黄色いジュース。パイナッ……プル? レモン? うん。分からん。
南国でくつろぐバレリーナが誕生しちゃってますよ。
パラソルの隣に赤い自転車が止められているのが、なんだか場違い。
砂浜に自転車て。まあ、空を飛んじゃえば、足元は関係ないんだけど。
視覚的には、場違い感満載。
どうしよう。取り残された!
よりにもよって、このあたしが!
どーしよー!
参戦したいけど、今から参戦するには気持ちが盛り上がらないというかー。ベリーを生温かく見守っている内に、子供たちをも守るお母さん気分になっちゃたというか。
混ざりたいのに混ざれないジレンマに半泣きになっていたら、何か白くて小さいものが肩口に降り立った。
「まさか、まともなのがあんただけとはね……」
「ゆ、
小鳥サイズの雪白だったー。
わーん。雪白ー。よかったー。乗り遅れた仲間がいたよー。
「ふう。それにしても、罠にでもかかったみたいな有様よね」
「え? 罠って、フラワーの?」
「……………………そうじゃないでしょ、って言いたいところだけれど。否定できないのが痛いところよね」
ため息をつく雪白に、思わず答えると、雪白はしばらく無言になった後、苦々しく零して、もう一度深くため息をついた。
えーと、言いたいことは分かる。
普通だったら、罠にかけたのは小悪魔マーメイド、なところだよね?
小悪魔だけに。
でも、あたしは迷うことなくフラワーと答えた。
あの子に変身するように促したのが、フラワーだったから。というわけじゃない。
あの子も罠にかかっているからだ。
………………フラワー屋台で、いろいろ物色していらっしゃる!
すでに、手首には小花ブレスレットみたいなのが巻かれているし!
ああー。足首にまでー!
小悪魔マーメイドに花成分が注入されていく……。
「ねえ、あのひまわりの太陽だけど、その内、種とか出来るのかしら」
「ちょ、雪白! 気を確かに持って! あたしを、置いていかないで!」
ひーん。雪白が、ついにヤリを投げたー。
もー。
分かってる。分かってるよ。
たぶん、本人にはそんなつもりはないのかもしれない。とりあえず、今回のところは。
でも、これ、絶対!
黒幕はフラワーだよね?