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第171話 闇フラワーと百合キノコ

 ぱちん。


 ――――と。

 砂浜に、小気味よい音が響いた。

 フラワーが指を鳴らしたのだ。

 しっとりとした表情と仕草だったけど、指を鳴らす音は軽快だった。


 星の砂浜に、小花を編み上げて出来た、長細い箱が現れる。

 大きさは、えーとね。なんていうかね。


「花で造った棺みたいね……」


 雪白ゆきしろのポソリとした呟きが砂浜に零れ落ちる。

 あーあ。はっきり、口に出しちゃったよ。

 せっかく、濁したのにぃ~。

 …………てゆーか、これ。中に何が入っているの?

 てゆーか、てゆーか。

 さっき、フラワーってばさ。みんなを呼んじゃえ的なこと、言ってたよね?

 え?

 何?

 まさか?


 お花の棺の箱を開けたら、アジトでお留守番をしてくれているはずのみんな花で飾り立てられたゾンビになった姿で現れたりとか?

 そういうこと?


 え!?

 待って!

 どうするべき!?

 慌て…………だす前に、花びらを巻き散らしながら、何かが飛び出してきた。

 猫耳に猫しっぽ、ワイルドヘアーのアニマル系美少女、ルナだ。コスチュームは、白いTシャツにデニムの短パン。レースもフリルもリボンすらない超シンプルさ。だけど、そのシンプルさがむしろルナの魅力を引き立てている。

 ルナの自前の武器の魅力を、ちょー引き立てている。

 自前の武器っていうのは、むちッとしたお胸とか太ももとか。

 あたしに足りないヤツのことだ!

 ルナはアニマル系魔法少女らしく、ぽーんって飛び出してきて、キレイな弧を描いて砂浜に着地した。

 うーん。てっきり、蓋が開いたら中に横たわっていて、生き返ったみたいにムクリと起き上がるのかと思っていたのに。

 花棺じゃなくて、ただのびっくり箱じゃん……。

 いや、そうじゃなくてー!


「ル、ルナーぁ?」


 はぅうー。びっくりしすぎて声が裏返ったー。

 だって、びっくり箱ポーンだなんて、思ってなかったんだもーん!

 もー、恥ずかし…………がってる暇もなく、第二陣が飛び出してきた。


「ひゃぁあああああ!」


 ルナよりも小ぶりなその物体は、悲鳴を上げて、手足をバタバタさせながら飛び出してきた。

 紺地に白ドット柄のフリルをいい感じにあしらった可憐な魔法少女コス。ミニチュアのフラスコとか試験管とかの飾りが錬金魔法少女らしさを表現している。

 え、えー? よ、夜咲花よるさくはなまで!?

 って、ちょっと! ちゃんと、うまく着地できるのー!?

 と、心配して焦るあたしでしたが、ルナがしっかりキャッチしてくれた。

 ほっ。

 …………としたところで、第三陣が騒々しく飛び出してきたけれど、ここまでくればさすがにあたしでも予想通りだし、バッチリ決めポーズで着地した月見サンのことは、とりあえずスルー。

 あー。まだ、ススキを背負った金色の水着のままなんだ。

 ビーチに映えるような、映えないような。

 そういえば、魔女さんは参加しないのかな、なんて思いながらじっと小花箱を凝視ていたら、なぜか背後から魔女さんの声が聞こえてきた。


「…………苗床……というよりは、妖魔の望みすら巻き込んだのか」

「ひょっ!?」


 びっくりしすぎて、片足上げて変なポーズを決めながら振り向いたら、そこにいたのはエンジ色のジャージに身を包んだ、薄紫の髪の神秘系美少女。

 洞窟の魔女さんだ。

 し、神出鬼没ー!

 さすが、魔女さん。

 て、てゆーか。つまり、あの花棺……ていうか花箱は、魔女さんのお部屋とアジトを繋いだクローゼットみたいな感じ?

 いや、でも、待って。

 なんで、フラワーにそんな魔法が使えるの?

 もしかして、フラワー進化した?

 呪いのアイテムを見つめる時の眼差しで花箱へ視線を移すと、狙ったかのようなタイミングでキノコが飛び出してきた。

 空中でクルッと回転をして、じゃじゃーんと着地を決めるキノコ。

 文字通りキノコ。ビカビカ光るミニキノコの飾りで全身を飾り立てたキノコの着ぐるみ。てか、等身大キノコツリーって感じ。

 百合色キノコの心春ここはるだ。

 あ、百合色っていうのは、頭の中がっていう意味ね。

 そういや、君もいたね。

 忘れていたよ。

 意図的に!

 つまり、わざと!

 うん! 忘れていたかった!


「アジト側の方は、キノコ形・キノコ飾りにさせていただきました! あと、万が一にも妖魔がアジトに迷い込んだりすることがないように、キノコ装置には自動妖魔殲滅機能も付けてあります!」


 え? 自動妖魔殲滅機能って何? 大丈夫なの、それ?

 間違って、殲滅しちゃいけないものまで殲滅したりしないよね?

 まあ、たぶん。女の子には、万に一つも危害を加えたりはしないと思うんだけど。百合風味キノコ型魔法少女の心春の魔法だし。風味というか、本人はあくまで傍観者として妄想して楽しむスタイルなんだけど。大体いつも、あたしが巻き込まれるので大迷惑なんだよね。

 勝手に百合プリンセスにされても嬉しくない。迷惑。

 あたしが主人公の百合ハーレムストーリーを一人で妄想するだけならまだしも、みんなの前で垂れ流しにされるのは、本当に大迷惑!

 うーん、しかし。キノコ棺……いや、箱……やっぱりコイツの場合は棺! うん、キノコ棺は、さ。女の子には無害でも、男の子には有害かもしれないよね。遠征中で今はいない紅桃べにももには、絶対に使ったりしないように言っておかなきゃ。闇底一番の可憐系美少女といっても過言ではない紅桃だから、うっかり忘れがちだけど、本当は男の子だからね。

 まあ、キノコの飾りの時点で、近づこうとも思わないだろうけど。

 妖魔と男は見つけ次第殲滅が心春の合言葉だからね。


「あ、ちなみにワープ機能につきましては、魔女さんのお力を借りています! 私と闇底の花、略して闇フラワーさんは、装飾だけを担当しております!」


 隙のない着地を決めたキノコは、ビシッと敬礼してみせた。

 そっか。ワープ機能は、魔女さんの力なんだ。納得。そして、よかった。フラワーに新たな力が備わったわけじゃなくて。

 …………闇フラワーについては、何も言うまい。


 …………。

    ………………。


 いや、うん。

 何も言うまい……。


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