あたしたちは今、キノコの森の入り口に立っている。
天然のキノコの森ではない。
人工のキノコの森だ。
いや、正しくは、人工ならぬ魔法少女工?
闇の底の世界で。
割とカラフルな感じでぼんやりと光っているキノコの森は、
しかも。
創ろうとして創ったわけではなくて。キノコへの愛が駄々洩れて、気が付いたらキノコの森が出来ていた……とかいうことのようなのだ。
「妖魔は殲滅すべきですが、キノコ型の妖魔だったら、生存を許してもいいかもしれませんね! キノコの森で暮らす、キノコ型妖魔たち! ふふ、素敵ですね!」
古巣を眺めながら、キノコの着ぐるみを着たキノコ狂が、ふふ、と笑った。
そんな百合色の胞子を巻き散らしそうな妖魔の住む森、絶対に入りたくないんだけど。
あー。でもでも。
キノコ型魔法生物でこの森をいっぱいにするために、一人でここに残ります、とか言うんなら、止めないけどね!
むしろ、応援するよ!
そして、そのままずっと、キノコ型魔法生物たちと仲良く暮らせばいいんじゃないのかな!
闇底の平和のために!
キノコ型魔法生物であふれる森とか、それはそれで怖いけどさ。でも、入らなければいいことだし。立ち入り禁止の立て看板とか立てとけば問題解決だよね!
うむうむ。いい考え。
ここでのやるべきことが終わったら、キノコに提案してみよーっと。
あ。ちなみにここへは、カケラを探しにやって来ました。
キノコが旅に加わるのなら、次の目的地はキノコ生誕の地(いや、ここで生まれたわけじゃなくて、心春の闇底へ「こんにちは」ポイントってだけだけど)にするかって、誰が言い出したのかは覚えてないけど、そんな流れになったのだ。
その後の、夜咲花の行動は、早かった。
あたしの気が変わらんうちに、とばかりにキノコの元へと駆け寄り、特に理由を説明することなく、さくっとさっくり言ったのだ。
「心春は、
と、だけ。
だけど、まあ。
それで、別に何の問題もなかった。
そもそも、心春相手に理由なんて必要なかったのだ。
だって、一人で勝手に理由を妄想し始めるんだもん。
「…………分かりました! ええ! 魔女さんの協力のおかげで、アジト付近はすっかり安全ですしね! 分かっていますとも! 夜咲花さんに代わって、私が星空さんのことをお守りいたします! お互いを想い合う、お二人の愛、もちろん分かっていますとも!」
夜咲花の素っ気ないお願いに、敬礼で答えた心春の瞳の奥に、百合色の焔がメラメラと燃えているのが見えて、見えたから見なかったことにした。
あと、ちなみに。これは、南国リゾートから出発する時に知ったんだけど、フラワーも闇底フラワー化の旅に出るらしかった。なんでも、夜咲花の錬金魔法で作った花の種を、あちこちに蒔きに行くのだそうだ。そのうち、またどこかで遭遇しそうで怖い。
まあ、手持ちの種が終わったら、またアジトに戻って来るようなので、そこまで長期で留守にするわけではないみたいだけどね。
今回、オマツリチョウチンアンコウさんの中にやって来たのも、種を蒔く場所を探してのことだったみたいだね。
…………本気で妖魔の体の中に種を蒔くつもりだったのか、単に好奇心で口の中を進んできたのかは分からないけれど。うん、まあ。別に知らなくて、いいかな。てゆーか、知りたくないかな。
まあ、それはともかく。心春とフラワーの二人が抜けると、アジトに残る魔法少女は、夜咲花と
怖がりの夜咲花なのに、そこは大丈夫なのかなー、とあたしは少しだけ心配したのですが。
心春が妄想と一緒に言っていたけれど、どうやらね、魔女さんのおかげで、そこは問題ないみたいなのだ。
なんかね。ルナだけでなく、夜咲花もすっかり魔女さんと仲良くなったみたいでね。
いや、魔女さんの方は、特に変わりはなくて、夜咲花が懐いているって感じなんだけど。
ただ、魔女さんも。夜咲花の錬金魔法には少し興味があるみたいでね。魔女さんの魔法で、魔女さんの部屋と夜咲花の錬金部屋が、合体……しちゃったらしい。
魔女さんの部屋は、前と同じ洞窟の奥にあるままなんだけどね。なんか、壁を壊して二つの部屋を繋げちゃいました的なことになっているそうだ。
よく分からんけど。まあ、そういうことなんだって。
おまけに。
アジトの居間……っていうのかな。これまで、
これで、いつでも気軽にビーチに遊びに行けるというわけなのだ。
まあ、てなわけで。
いずれ、
心春が旅についてくるって聞いて。それに反対したのは、ベリーだけだった。
理由は、あたしと同じだ!
だけど、夜咲花が、心春と紅桃をトレードしたがっているっていうのを教えたら、渋々引き下がった。眉間には、盛大にしわが寄ったままだったけれど。
理由は、あたしと同じだ!!
月華は、まあ、分かっていないだけだろうけれど。月下さんと
大人の余裕ってヤツ?
という、あれやこれやの末に、今、あたしたちはここにいるわけです。
この、辛うじてメルヘンっぽさが残っていないこともない、発光するキノコの森の入り口に、ね。
…………。
感慨にふけっているキノコがとてつもなく目障りだな~。
森に負けないくらいに、体中に巻き付けたミニキノコ電球をビカビカさせているし。
そんなキノコを放置して、ベリーが早速、カケラサーチペンダントを森に向けて掲げた。
嫌なことは、さっさと終わらせて、早くここから立ち去りましょうとばかりに。
「じゃ、とりあえず、サーチしてみるわね」
みんなの視線が、ペンダントに注がれる。
ちなみに、みんなの中にキノコは、入っているかもしれないし、入っていないかもしれなかった。
つまり、あたしも放置することに決めたってこと。
頼む! 光らないでくれ!
キノコの森に眠るカケラとは、出来れば関わり合いになりたくない!
なんか、誰がカケラを蒔いても、咲いてはならない花が咲いてしまう気しかしない。
頼む!
この森は、スルーさせてくれ!
闇底世界のひび割れは、後で何か別の方法を頑張って考えるから!
だが、願いもむなしく。
ペンダントから放たれた光は、よりにもよって、森の一番奥へ向かって飛んで行った。
あたしたちは、カケラを探している。
ここへは、カケラを探しに来た。
そして、カケラの在処を指し示すサーチライトは、この森の奥に、あたしたちの探し求めるカケラが存在するとご親切にも教えてくれた。
なのに。
あたしたちは、揃いも揃ってため息をついた。
重すぎも軽すぎもしないため息を。
深い諦めのこもったため息を。
ちなみに、『あたしたち』の中にキノコは含まれておりません。