「え? 今日はちょっと…ごめんね。」
「今日はどうしたの?」
松には悪いと思いつつも、クオリアは食い下がってみた。
「あ、そうそう! キーちゃん? あたしね、トランプっていうおもちゃ持ってるんだよ。 明日持ってくるね」
「うん、楽しみ。」
クオリアはそう返事をしたが、頭では違う事を考えていた。
(松ごめんね)
クオリアは松と別れた後、心の中で何度もごめんねと呟きながら、
家に帰る彼女の後をつけることにした。
そして、見てしまった……。
それは汗水垂らして泥んこになって働く松の姿だった。
「ちょっと松! もうすぐ暗くなるっていうのに、 こんなところであなたは一体何をしているの?」
「アハハ、見られちゃったか。 あたしだけじゃ無いんだよ。 あたしより幼い子やおじいちゃんおばあちゃんもいるんだから。
この島に住む人はね、お金を持ってる人以外はみんな、 砂糖きびの栽培の仕事をしているの」
「そんな…まさか。」
クオリアは目の前の驚愕の光景にただただ驚くしか無かった。
「あなた、寝ている時間と私と会っている時以外は もしかして、
ずっと働かされているんじゃない?」
「ま、まあね」
松は恥ずかしそうに、そして落ち着きなく、 目をキョロキョロさせていた。
「学校は?」
「行って無い」
「それはひどい! そんなところにいなくていいよ。一緒にどこかへ行こう。」
「ありがとう。 あたしもそうしたい気持ちはやまやまなんだ。
でもね、そうはいかないんだ」
「どうして?」
「あたしが逃げ出すと、代わりにあたしのお父さんやお母さんが罰を受けるから。
それにね、以前薩摩藩の役人様に意見し抗議した村人がいるんだけど、その人ね、役人達数人に暴行されて死んじゃったの……」
「酷い! 殺人事件じゃない!訴えましょう!」
「ありがとう。でもそれも無駄なの」
「どうして?」
「警察は薩摩のお役人様とぐるだから。 不慮の事故とか、正当防衛ってされるに近いないよ」
「そんな……酷すぎるわ」
バサッ
クオリアは、松の足元に紙が落ちたことに気付いた。
「松? 今ズボンのポケットから何か紙のようなものが落ちたわよ」
「キーちゃん、教えてくれてありがとね」
「どういたしまして。 ところで、松はどうしてその開封済の手紙を大事そうに持ち歩いているの?」
「これはね、あたしのお兄からの手紙なの」