「松にはお兄さんがいるのね。 ここにはいないの?」
「うん。お兄はずっと北の薩摩っていう場所に行ってて、そこでこの島の人達の暮らしを豊かにする為に頑張ってるの」
「なるほどね。お兄さんは、島の人たちの役に立っているんだね。」
「うん、そうだよ」
「お兄さんは優しい?」
「うん、優しいよ。
でもね、キーちゃん聞いてー!
お兄はね、いつもおとなしくて何考えているかわからないの。
声も小さくて、あたしが耳を近づけないと聞こえないこともしょっちゅうあるのよ。
可笑しいでしょ? クスクス」
「へえ、そうなんだ。優しいお兄さんだね。」
「クスクス。そうなの~!
それにね、お兄は本当に筋金入りの心配症なんだ。
だからね、あたしが寂しく無いかっていつも心配してくれて 手紙をくれるの。
まあ、ここはお兄の性格であたしが助かっているところかな。
それにね、この前届いたトランプもね、実はお兄があたしに送ってくれたんだよ」
クオリアは大切なお兄さんのことを嬉しそうに語る松の笑顔を見ながら、
かつていた兄を今でも大切に想う自分自身の姿に重ねていた。
「ねえ、キーちゃん!
さっきからぼーとしているけど、
ちゃんとあたしの話聞いてる?」
「あら、ごめんなさい。
聞いてるわ」
「実は、お兄さんから手紙が届いて、もうすぐ島に帰ってくるって聞いたんだ!」
「それは良かったじゃない! お兄さんとは何年ぶりなの?」
「もう5年ぶりかな。 楽しみだな~。 お兄早く帰って来ないかな~」
松は茜色に染まる夕焼け空を見上げながらそう呟いてた。
それから3ヶ月後。
「今日は松、来ないわ。
どうしたのかしら」
松がいつも通り自分に会いに来ないことにクオリアは心配になった。
そこで、クオリアは直接松が働く畑へと出向き、そして知ってしまう。
それは、泣きながら仕事をしていた少女の背中だった……。