「松、どうしたの? そんなに泣かないで。」
「グスン、グスン」
松はクオリアに泣き顔を見せるのが恥ずかしかったのか、
クオリアの存在を無視して前を向いて仕事を続けていた。
「松?いいからこっちを向いて!」
「キーちゃん、あたしね、あたし、 うぇ~ん、うぇ~ん!」
松はまるでダムが決壊したかのようにたくさんの涙を溢れさせながらクオリアの胸に抱きついてきた。
「よ〜し、よ〜し。大変だったわね」
「キーちゃん?あたし今までね、
いっぱい我慢して頑張ってきたんだよ。だけどもう無理だよあたし」
「私がちゃんと聞くから、先ずは一呼吸して落ち着いてから、
それからゆっくり話してちょうだい。」
「グスン、ありがとう。 お役人様がね、昨日の夜抜き打ちで私の家に入ってね、 お兄ちゃんから来た手紙とか、くれたプレゼントとかね、 全て燃やしちゃったの」
「酷い! どうしてそんな酷いことするのかしら」
「わからない。あたしね、 お兄からの手紙やプレゼントを励みに、 辛い毎日を耐えて今まで頑張ってきたのにこれってあんまりじゃない?」
「松、辛かったわね。私が……」
クオリアはそう言いかけて博士の言葉を思い出した。
『この時代の歴史を変えることは出来ないんだ。
だから、クオリア?くれぐれも君の能力は使わないこと。
いいね?』
クオリアは松が泣き疲れて寝息を立てるまでの間、ずっと松の背中をさすり続けた。
それから数日間、松はクオリアの前に姿を現さなかった。
「松はすっかり塞ぎ込んでしまったわ。 様子をみに行ってみようかしら」
クオリアは松が働く畑に行ってみたが、 何故かそこに松は居なかった。
「あら、いないわ。 あ、もしかして……」
クオリアは松が以前、家の場所を教えてくれた事を思い出し、そこへ行ってみることにした。
お役人やお金持ちの人達の家は日本建築で立派な家だったのに、 松の家は違った。もちろん松だけではないらしいが、 松はいつ倒壊しても不思議じゃなさそうなぼろぼろな狭い家に押し込められるように住んでいた。
クオリアは玄関の戸の前で松を呼んだ。
しかし、いくら呼んでも松が出て来る気配は無い。クオリアは仕方なく勝手にお邪魔させてもらうことにした。
そしてクオリアは部屋に入ると絶句した。
クオリアの目に飛び込んできたもの。
それは、ベッドに横たわり、熱を出し苦しんでいる松の姿だった。