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第63話 トゥール 天に通じる場所④

一奄美の島一

『トゥシアマイ、ナイビタン

(年が余りました)、

ティラバンタ、ウシュキティ

(ティラバンタに来ました)、

シッチ、ハタバルヤ

(干潟は)、

ナミヌシュル、タチュル

(波が立つ)、

ナミヤ、ハタバルヤ

(波の干潟は)、

ヒブイ、タチュサ

(煙が立つ)、

ニルヤリーチュ、ウシュキティ

(ニルヤリーチュに来て)、

ハナヤリーチュ、ウシュキティ

(ハナヤリーチュに来て)』


お日様の光を反射して、キラキラと輝く何処までも果てしなく続く青い世界、そこが彼らの天国だった。


海がよく見渡せるある小高い丘があり、魂の歌はそこから海の神様に捧げられた。


そのほとんどは土の布団がかけられたが、

顔だけはまだ現世と天国の間にあり、

家族との最期の挨拶を許されていた。


そして、その表情は安らかだった。


母親はひたすら涙を流していて、その夫が妻を慰めていた。

みな涙を浮かべ、彼女が旅だった遠い遠い海の彼方の一点を、

清らかな心でただただじっと見つめていた。


クオリアは感じた。

盛り土の中から松の魂が浮かび上がり、

それがキラキラと輝く温かな光となった瞬間を。

そして、かつて彼女を形作ったその光達が、

大海原に向かい、そしてゆっくりと溶け込んでゆくその姿を……。


福 松。享年10歳。両親と大切な村人達に見守られながら

その短い人生を終え……た。


つづく


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