松が亡くなってから2日が経った。
クオリアはガジュマルの林に戻り、1日中ただぼんやりと物思いにふけっていた。
「ねえ?キイさんはいるかい?」
「え?私?」
私は驚いた。松以外に私が見える人間がいるなんて。
「あれ、松のおじさんじゃないですか? 私宛にどうしたんですか?」
結果から言うと、松の父親にクオリアが見えた訳ではなかった。
(きっと松が私のことを話してたのね)
松の父親は、クオリアの方に向かって何かを言っていた。
「キイさん、娘からあなたの事を教えてもらいました。生前のあの子と仲良くしてくださり、本当にありがとうございます。ううっ」
「ちょっとおじさん、こんなところで泣かないでよ!って言っても聞こえないわよね」
「わたしは生前のあの娘に、自分が死んだらあなたに渡すように頼まれていたものがあるんです。木の下に2体立て掛けておきますので、どうかあの娘の形見だと思って大切にしてください」
「あっ、ちょっと……」
松の父親はそう言い残すと、言葉通り木の下に何かを置いて帰って行った。
「何かしら?」
クオリアは地面に降りてそれを確認した。それは木彫りの人形で、よく見ると顔が松そっくりだった。
「松、ぐすん。松、わあぁぁぁぁ!」
クオリアは涙をこらえられなかった。
カサカサ
何!?
それは強風に何かがはためく音だった。
クオリアは泣き止むと辺りを見渡してみた。
そして、それが何かはすぐに理解できた。
二体の木彫りの人形の下に、一緒に手紙が添えられていたのだった。
**キーちゃんへ
『この手紙を読んでくれてるってことは、あたしはもうこの世にはいないかな。
短い間だったけど、あたしと仲良くしてくれて本当にありがとうね。
キーちゃんと楽しく過ごした時間、あたし
あの世に行っても絶~対忘れないよ。
それと、実は話がもう一つあるの。
その2体の木彫りの人形は、あたしがお父さんにお願いして作ってもらったの。
そして顔の部分はね、あたしがお父さんに教わりながら自分で掘ったんだよ。
『松~!お前は病人なんだから安静にしておきなさ~い!』
ってお父さんから怒られちゃったけどね。
くすくす。
その人形はあたしの気持ちをいっぱい込めて、お父さんと一緒に頑張って掘ったものよ。
だから、本当のあたしだと思って大切にしてね。
そして、もう一体の人形。
ごめんね。それはキーちゃん用じゃないの。
それはあたしがお兄に向けて作った人形。
キーちゃんは以前、不思議な力があるってあたしに言ってたよね?
そこでお願いがあるの。
キーちゃんがもしお兄と会うことができたら、
このもう一体の人形をお兄に渡して。
それじゃ最後に、キーちゃんとお父さんお母さんと、島の人々がみんなみんなず~っと末永く笑顔で幸せでありますように、あたしは心からそう祈っています。
みんな、元気でね。
松より』
手紙を読んだクオリアは、顔を真っ赤にし、その顔がくしゃくしゃになってもなお、ひたすら泣き続けた。