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第9話 踊り

夜空を焦がすような篝火の炎が、昼間の喧騒を静めた村を再び熱狂へと誘う。

赤々と燃え盛る炎は、人々の顔を照らし出し、喜びと期待に満ちた表情を浮かび上がらせた。

村人たちは手を取り合い、大地を踏み鳴らし、歌い、踊り、活気に満ち溢れていた。


イナツナは、高鳴る鼓動を押さえながら、群衆の中で一際輝く華の姿を探していた。

煌びやかな織物を身にまとい、髪には鮮やかな花飾りをつけた華は、月明かりの下で一層美しく輝いている。

彼女の周りには、踊りを誘う若者たちが絶えず集まっているが、華の視線は一点を見つめているようだった。

意を決したイナツナは、人混みをかき分け、華の元へと近づいた。

「華、一緒に踊らないか?」

少し緊張しながら、イナツナは声をかける。


華は、驚いたように顔を上げ、イナツナの顔を見ると、はにかむように微笑んだ。

「ええ、もちろん!」


華の笑顔を見た瞬間、イナツナの緊張は解け、喜びが胸に広がった。

二人は手を取り合い、篝火の周りをゆっくりと回り始める。ぎこちないながらも、土笛や鈴、琴のリズムに合わせて体を揺らす。


村人たちは温かい笑顔で見守り、二人の様子に拍手を送る。


「華、緊張してる?」

踊りながら、イナツナは華に問いかけた。


「うん、少し。でも、楽しい」

華は、恥ずらうように答える。


すると、イナツナは華の手をギュッと握りしめると、彼女の耳元で優しく囁いた。

「大丈夫、俺も緊張してる。でも、君と一緒なら乗り越えられるよ」


華は、イナツナの言葉に安心したように、微笑み返した。


二人の距離は、踊りが進むにつれて徐々に縮まっていく。互いの視線が交差し、言葉では伝えきれない感情が溢れ出す。

やがて、二人の動きは滑らかになり、まるで一つの生き物のように調和していく。

それは、夜空の下、互いの視線が交わり、心が通い合う瞬間だった。


村の広場は、二人の幸せそうな姿で満たされていた。篝火の炎は、二人の未来を祝福するように、いつまでも燃え続けていた。


「イナツナ、ありがとう。今日は本当に楽しい夜になったよ。」


「こちらこそ、華。

君と一緒に踊れて幸せだった」



夜が更け、イナツナは華を家まで見送った。


一人になったイナツナは、村の外れの丘に腰掛け、満天の星を見上げる。

華との楽しい時間を思い出しながら、同時に、心に抱えているある思いが頭をよぎった。


「華。いつか、君に全てを話さなければ……」

イナツナは、静かに呟く。


華への愛と、同時に抱えている秘密。

彼の心は、喜びと苦しみの入り混じった複雑な感情で満たされていた。




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