夜空を焦がすような篝火の炎が、昼間の喧騒を静めた村を再び熱狂へと誘う。
赤々と燃え盛る炎は、人々の顔を照らし出し、喜びと期待に満ちた表情を浮かび上がらせた。
村人たちは手を取り合い、大地を踏み鳴らし、歌い、踊り、活気に満ち溢れていた。
イナツナは、高鳴る鼓動を押さえながら、群衆の中で一際輝く華の姿を探していた。
煌びやかな織物を身にまとい、髪には鮮やかな花飾りをつけた華は、月明かりの下で一層美しく輝いている。
彼女の周りには、踊りを誘う若者たちが絶えず集まっているが、華の視線は一点を見つめているようだった。
意を決したイナツナは、人混みをかき分け、華の元へと近づいた。
「華、一緒に踊らないか?」
少し緊張しながら、イナツナは声をかける。
華は、驚いたように顔を上げ、イナツナの顔を見ると、はにかむように微笑んだ。
「ええ、もちろん!」
華の笑顔を見た瞬間、イナツナの緊張は解け、喜びが胸に広がった。
二人は手を取り合い、篝火の周りをゆっくりと回り始める。ぎこちないながらも、土笛や鈴、琴のリズムに合わせて体を揺らす。
村人たちは温かい笑顔で見守り、二人の様子に拍手を送る。
「華、緊張してる?」
踊りながら、イナツナは華に問いかけた。
「うん、少し。でも、楽しい」
華は、恥ずらうように答える。
すると、イナツナは華の手をギュッと握りしめると、彼女の耳元で優しく囁いた。
「大丈夫、俺も緊張してる。でも、君と一緒なら乗り越えられるよ」
華は、イナツナの言葉に安心したように、微笑み返した。
二人の距離は、踊りが進むにつれて徐々に縮まっていく。互いの視線が交差し、言葉では伝えきれない感情が溢れ出す。
やがて、二人の動きは滑らかになり、まるで一つの生き物のように調和していく。
それは、夜空の下、互いの視線が交わり、心が通い合う瞬間だった。
村の広場は、二人の幸せそうな姿で満たされていた。篝火の炎は、二人の未来を祝福するように、いつまでも燃え続けていた。
「イナツナ、ありがとう。今日は本当に楽しい夜になったよ。」
「こちらこそ、華。
君と一緒に踊れて幸せだった」
夜が更け、イナツナは華を家まで見送った。
一人になったイナツナは、村の外れの丘に腰掛け、満天の星を見上げる。
華との楽しい時間を思い出しながら、同時に、心に抱えているある思いが頭をよぎった。
「華。いつか、君に全てを話さなければ……」
イナツナは、静かに呟く。
華への愛と、同時に抱えている秘密。
彼の心は、喜びと苦しみの入り混じった複雑な感情で満たされていた。