私は、イナツナのために手作りの巾着袋を作っていた。
淡い藍色の生地を選び、彼の好きな草花の模様を一針一針丁寧に刺繍していく。
数週間かけて心を込めて仕上げた巾着袋は、私の愛情と願いが込められた世界でたった一つの彼への贈り物にするはずだった。
渡す日を心待ちにしながら、彼の笑顔を思い浮かべるたびに、私の胸は温かくなる。
(いつ渡そう……。
祭りではしゃいでいる時に渡すのも違うし、
二人きりになれる時に、
「いつもありがとう」
って、渡したいな……。)
そんなある日、私は村の広場でイナツナが華に手作りの首飾りをプレゼントする光景を偶然目の当たりにした。
それは私が想像していたよりもずっとずっと、スマートに行われていた。
「はい、これ。華に似合うと思って作ったんだ」
彼女にそう言いながら、イナツナは少し照れたように笑う。
「わあ!ありがとう!嬉しいよ!」
華は満面の笑みで首飾りを受け取っていた。
その無邪気な笑顔は、私の胸に深く刻まれた。
(やっぱり、私なんか……)
私は渡すはずだった巾着袋をそっと隠し、心の中でため息をつく。
(でも、まだ……。
まだ、渡すのを諦めたわけじゃないんだから。)
私は、村の祭りでイナツナと一緒に踊ることを夢見ていた。
その為、数日前から夜遅くまで踊りの練習に励み、そして当日を迎えた。
祭りの夜。私は華やかな装いで準備を整えると、期待に胸を膨らませ、踊りが催される広場へと歩いていく。
(今日こそは……!
イナツナと、
一緒に踊れますように!)
しかし、本番でイナツナは華を誘って一緒に踊り始めた。
イナツナが華とペアになったため、私はカザシネがペアになる。
(どうして……?
どうしてなの……?)
私は、カザシネと踊りながら、横目で二人が楽しそうに踊る姿をただ見ていることしかできなかった。
祭りの後、私は一人川辺に座る。
月の光が川面に反射して優しく揺れ、静かな夜が広がっていた。
(イナツナは、
華のことが好きなのかな……。
でも、私は……。
私は、ずっと……。
彼の隣にはいられないのかな……。)
そこへ、華がやってきた。
「ホタル、踊り上手だったね!」
華は私を無邪気に褒める。
「あ、ありがとう」
私はぎこちなくも笑顔を見せるが、心の中は複雑だった。
「ねえ。華はイナツナと踊れて楽しかった?」
私は夕焼け空を見つめながら華に問いかける。
「うん!彼は踊りも上手いし、優しいし、一緒にいると楽しいんだ」
「そ、そっか」
私は、そんな純真無垢で裏表の無い彼女の言葉に胸が締め付けられるような気持ちになった。
数日後、私は華に再び声をかける。
「ねえ、華。イナツナと最近どう?」
すると彼女は言った。
「うん、相変わらず仲良しだよ。この間は一緒に山に登って、綺麗な景色を見たんだ」
彼女は楽しそうに私に話す。
私は、華がイナツナとの距離を縮めていることを改めて感じ、深く落ち込んだ。
なぜだろう。胸の奥底から、ドロドロとした黒い感情が渦を巻きながらこみ上げてくるのを感じる。
私がその恐ろしさに気がついたときには既に、心はその負の感情に蝕まれ、まるで泥沼にはまっていくかのように、抜け出すことができなくなっていた。