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第18話 恥ずかしい秘密

その日、華はイナツナと二人て川に釣りに来ていた。

「私、釣りなんてしたことないから、

イナツナの足を引っ張りそうで恥ずかしいよ」


「大丈夫。俺も最初は全然わからなかったけどさ、

少しずつ練習してたらできるようになったよ」


「それほんと?

イナツナは器用だから信用ならないなぁ」


「本当だって。

だから、最初はゆっくりでいいよ。

華、そのまま。そのままの状態で動かないで!」


「ん……!?」

華はイナツナの言ってる意図がわからなかった。


すると突然、イナツナは華の背中に立ち、後ろから一緒に竿を握った。


(ちょ、恥ずかし〜)

華の顔はまるで瞬間湯沸かし器のように一瞬で真っ赤に染まった。


「華?何だかそわそわ落ち着かないように見えるけど大丈夫?」


すると、緊張でカチンコチンになった華は、無言で頭を上下に『ブルンブルン』と

大げさに振る。

そんな華の小さな心臓は、彼に甘く語りかけられるたびに、

『ドクンドクン』と大きく脈打っていた。


それでもしばらく経つと、脈の音もだんだんと落ち着いてきた。

また、それと同時に、華自身、周りを気にする余裕が少しずつ戻ってきた。


(イナツナの手、大きいな。

それに温かい)


ねえ。

ねえ?

「ねえ?、……華?聞いてる?ねえ?」


「はっ、はいっー!!!!!!」


「え……、はぁ〜!!?」


華は、イナツナからの突然の呼びかけに、

まるで軍曹のように背筋をピンと伸ばし敬礼をしながら返事をしてしまった。


「キャ〜!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

あのあのあのあの。私緊張するとよくやべぇーのに取り憑かれるんです。

だから、あの……」


「あ、うん。俺は大丈夫……」

(うん。確かにホントにやべぇーの降りてきたね)

「ねえ?ところで、華の好きな食べ物って何?」


「わ、私? 私は……竹かな?」

……。

「は!?」

イナツナは耳を疑った。


「どうしたのイナツナ?

まるで狐に摘まれたような顔してるけど」


「ねえ、華?

本当に竹食べてるの?」


「うん」


「それってタケノコじゃなくて?」


「あ、うん。

タケノコじゃないよ」

華のそんな予想の遥か斜めをいく驚愕の答えにイナツナは驚きを隠せなかった。


「竹って、念の為聞くけど、あの山とかに生えてる竹だよね?」


「うん、そうだよ。

私の家は姉さんがいたときはいつも料理作ってくれてたんだけど、

焼いた竹がいつもご飯にでてきてたの」


(ま、まじだったのか?)

「そ、そうなんだね。

他にはどんなご飯食べてるんだい?」


「えーとね〜。

華は指で数えながら思い出した。

「蜘蛛に、それとヘビ!

あ!私、ご飯まで待てない時、

おやつ代わりにそのへんに生えてる雑草とか、

木の枝とかも生で食べたりしてるよ」


(あの。それ、もうジビエとかゲテモノとか言ってるレベルじゃないよね?)


そんなの食べてキミのお腹は大丈夫なの?

(毒とかあるんじゃ。

しかも生で食うってオかイ)


「うん、今のところはね」


「ふ~ん。平気なんだ。それならよかったね♪」

(せめて煮るなり焼くなりしようよ。

それに雑草や枝を食べる??

俺ら曲がりなりにも稲作やってることで有名な弥生人だよね?

そこは空気を読んでコメ食おうよ。

あ、コメはお偉いさんへの献上品だから

平民の俺達が食ってるのはアワやヒエか。

それでも、動物みたいに木とか雑草をムシャムシャ食うよりは

全然ましだって)


「イナツナ、おちついて。

さすがに普段は違うよ。

雑草や木とかを生で食べるのはおやつの時だけだから

誤解しないでね」


(いろいろ誤解してるの、たぶん君のほうだと思うよ俺)

あのさ。ところで、

さっきからその、おやつって言葉が気になるんだけど、

何、それ?(美味しいの?)」


「それはつまり、私がなんでおやつって言葉を知ってるかってこと?」


「うん、それ」


「知らん」


「そっか〜」

(え?今『知らん』て言った?

読者の君も今確かに聞いたよね?

潔っー!!

知らんって、ここにきてなぜに突然その謎口調??

一切の無駄を削ぎ落としたおとこらしい即答だね、キャ〜素敵♪

という冗談はおいといて、

君、本当に年頃の女の子?)


「ねえ、ところで華がおやつがわりにそんなの食べてて、姉さんは何か言ってきたりはしないの?」


「うん、言わないよ」


「じゃあ、姉さんもいつも華と一緒のもの食べてるの?」


「う……ん、いや、

姉さんは違うかな」


「ち、違うんだね……」

(俺、今嫌な予感しかしない)


「そう言えば姉さんだけはいつも、

川魚の塩焼きでしょ?鯛のお吸物でしょ?

梅しそちりめんをまぶした白いご飯か松茸ごはんでしょ?

鶏肉と山菜の鍋でしょ?

え~と、後はお口直しのデザート、

あれの名前は、う~ん、なんだったっけ?」


……。


「ねえねえ、ちょっとイナツナ?」

そう言いながら華はイナツナの体を揺さぶる。

「急に馬鹿みたいに口を大きくを開けたと思ったら、

石像みたいに固まって一体どうしちゃったの?

イナツナ、さっきから様子がヘンだよ!

私の話ちゃんと聞いてくれてた?」


「あ、うん。華ごめんね。俺今ちょっと考えごとしてた」

(華よ。俺が今ここに断言しよう。

君は、姉さんに百億パー


しっかし、華の姉さんって、この時代の王よりアホ程いい飯食ってるんだな。

なんか地味にウケるんだけどWW)


「ちなみに、華、君はその時は何を食べていたの?」


「え〜と、私はそのときはいつもの焼いた竹と

茹でたドングリだっけ?

あれ、違ったかも。

え〜と。

いっけなぁ〜い、忘れちゃった。

ゴメンなさい、てへぺろ♡」

(ドヤっ♪

昨晩、夜更かしして必死で覚えた

ホタル先生直伝のこの必殺悩殺ポーズ。

でも、これ実際やってみると超絶恥ずいんですけどー!

ホタルが迷惑かけたお詫びだからと最先端の流行だからと私にタダで教えてくれたけど、

私ってばまた彼女に騙されてない?

でも、イナツナにちょっとは可愛く思われたかな♡)


「そっか。あはは……」

(ちがーっ!!

くそがぁー!

悔しいけど俺、今も君の怪飯のイメージが脳裏にこびりついてて素直にツッコめんのよ。萌えなんて論外)


「ちょっとイナツナ?

そんなまじまじとこっち見ないで。

恥ずかしいよ」


(華よ、違うんだ!

目を覚ませ!

君が一番恥ずべきところは

たぶんじゃない)


「コホン。

話がだいぶんオカシナな方向に脱線してしまったね。

そろそろ真面目な話に戻していいかい?」


「う、うん」


華の返事を確認すると、イナツナは海の方角を見つめながら淡々と語り始めた。

「俺と母さんはね、遥か西の大陸から船で海を渡ってきた渡来人なんだ」




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