俺はまだその頃幼かったから、一部は母さんから聞いた話なんだ。
大陸から、俺達の家族を含めて沢山の家族を乗せていた船は、このクニにたどり着く前に台風による激しい暴風と荒波に遭い座礁した。
親父は船が転覆しないよう、激しい暴風の中イカリを降ろしに行ったらしい。
親父が海に投げ出されたと聞いた時、俺と母さんは悲しみで体が震えた。
あの時の親父の哀れな姿は、今でも忘れられない。
親父は船内で寝たきりの状態になって、その時の怪我の傷口が原因で、船上で息を引き取った。
親父の寝顔を見つめながら、俺は涙が止まらなかったことを覚えている。
台風がおさまって波が静まり空が晴れた後、船は嵐でぼろぼろでありながらも奇跡的に無事で、この村の浜辺に漂着した。
そして、俺たち生還者はみんな、この村にお世話になり今に至る。
俺や母さんはこの村の人達の優しさに救われたんだ。
「グスン。イナツナ、大変だったんだね」
華はイナツナの話を聞いて涙ぐむ。
「ところで、華は昔からこの村に住んでたの?」
「わ、私? 私は……」
華の顔はいつものように明るく笑っていた。
しかし、イナツナにはそんな彼女の笑顔の裏にどんな過去が隠されているのか、想像ができなかった。
「あ、ごめん。
他に聞いたいことがあったんだ。
華は将来の夢とかある?」
イナツナは華の過去には触れず、代わりに華の夢を聞こうと投げかける。
ズブズブ
「あれ、イナツナ!?
竿の先が、さっきから!」
「おや、これは大物がかかったみたい。
華、たしか竹籠を側に置いてたよね?」