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第20話 洞窟探検

ランタンの淡い光が二人の道を照らす。

山の高台にある洞窟の入り口に立ち、華は緊張していた。

洞窟の中は冷たい空気で満ちており、彼女は思わず身震いする。


「寒いね。」

華が震えながらつぶやくと、イナツナはさりげなく自分の防寒用の上着を脱ぎ、華に優しくかけた。


「ありがとう」

頬を赤く染める華。

彼女の心臓は今、バクバクと高鳴っていた。


すると突然。

「わっ!!」


「きゃー!!」


イナツナが叫んだ声。

それにつられて華が驚いて声を上げた。


「ごめんごめん。驚いた?」

イナツナが笑いながら謝るが、しかし。


「フンッだ!」

華は拗ねてしまった。


あはははは♪

イナツナはそんな華が可笑しくて笑う。彼の笑い声はまるで幼い男の子のように無邪気だった。


ククク、クスクス、ははは、

ははははははは♪

彼の陽気な笑い声に釣られ、華もつい笑ってしまう。


イナツナが笑いながら華を指差す。

「あははは、華、肩…」


華はイナツナの指の先をゆっくりと振り向いた。

すると、怪しげな匂いが鼻をつく。


「ぎゃー!!!!」

華の肩にはコウモリが止まっていた。

気がつくと、洞窟の出口を塞ぐかのように辺り一面たくさんのコウモリが集まってきている。


華は肩のコウモリを追い払うと、洞窟の奥へと一目散に走り出し、イナツナもそんな彼女を追いかけて走った。


二人はなんとかコウモリから逃げ切ったが、ハァハァと息を切らす。


イナツナの呼吸が戻り、周りを見渡すと、ここがどこだかわからないような真っ暗な場所に来ていた。

二人のランタンの火は、コウモリから逃げた時に既に消えている。


「私たち、迷子になっちゃったね。」

華が不安そうに言った。


「大丈夫。きっとなんとかなるさ。」

イナツナはそう言ってランタンの火をもう一度つけようとしたが、なかなか火がつかず苦戦する。


「ねえ、イナツナ。ちょっと一旦休憩しよ。」


「あ、そうだね。」

二人は疲れ果てていて、座って足を伸ばし壁面にもたれかかった。


「イナツナ、大きくなったら何になりたいの?」

華が尋ねると。

「少し長くなるけどいい?」

イナツナは華にそう前置くと、

静かに語り始めた。


「俺の幼い頃の話、この前話したよね?

俺の親父はこの村に来る前に船内で亡くなった。

出港前に船の中に入れていたはずの医療の為の道具や薬が何者かに盗まれて持ち去られていたんだ。

もし、あの時充分な薬や医療の道具、そして医学の知識があれば、もしかしたら親父は助かっていて今も生きていたかもしれない。

もちろん、過ぎた過去だから今更悔やんでも仕方ないことはわかってる。

だけど、俺は幼いながらにも、傷口を庇いながらあの世からのお迎えを待つ親父の姿をみて思ったんだ。


あの人は母さんに厳しかった。

家では自分勝手な人で、

俺は正直親父と一緒にいてムカつくこともたくさんあった。

だけど、薬屋だった親父は薬屋としては立派な人だった。


親父は身分や権力、お金のある無しで薬を渡す人を選ぶ人じゃなかった。

親父は、俺達が元々住んでいた村で戦が起こってたくさんの怪我人が出たとき、一睡もせずに、村の人達の為に走り回った。

そして、身分の高いお役人達から薬を今後の為に買い占めようと言われた時に、断った。

親父はその薬を今現に怪我や病で死の恐怖と戦って苦しんでいる人達に、例えお金が貰えなくても俺は希望を届けに行くんだと、はそう言ってたんだ。

それが薬屋としての俺のプライドだと。

それで、役人に訴えられて、鞭でたたかれて、牢屋に入れられても絶対に意見を変えないんだから。俺の親父、ほんとに馬鹿だよな。アホくさ」


イナツナは涙をぬぐい、華はその手をそっと握った。

「すごいね。イナツナのお父さん。

本当は優しい人だったんだね。」



ちょうどその時、遠くから大人の声。

「おーい!」

大人達が助けに来たのだ。


「イナツナ、私たち助かったね」


「そ、そうだね。」


喜びのあまり二人は抱き合う。

すると。

「バカモーン!!

心配かけおって!」

助けに来たおじさんに二人はゲンコツをもらった。


「イテテ。」


「何でここがわかったんですか?」

華がおじさんに理由を訊ねる。


「何でも何も……。

イナツナ、お前さんの母が作っている麻紐があるじゃないか。

その紐の切れっぱなしが何本も、この洞窟の中まで等間隔で落ちていたからわかったんだよ」


「俺の母さんが!?

でも、どうしてそんな……」

そんなおじさんの答えに、イナツナはいまいち納得いかない様子だった。


くんくん♪


「華、どうしたの?」


「私覚えてるよ、この匂い!」

華はそのかすかな匂いに懐かしさを感じた。


彼女は匂いのする方向を振り返るが、

真っ暗で姿形はわからなかった。

しかし、小さな鈴の音と何かが物凄い速さで洞窟の外へと駆けていく足音。

それらは確かな痕跡を残し、彼女の脳裏に強く印象づけた。



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