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第31話 大切な話

「あのさ、華?」

イナツナは、少し照れながら話を切り出した。

「この前はさ、状況が状況だったのもあるけど、しっかり謝れてなくて。だから今日改めてちゃんと君に謝りたい」


「イナツナ……」


あの時、俺が勝手にキミの気持ちを決めつけて、深く傷付けちゃって本当にごめんね。」


「ううん、悪いのは私」

華》 は、そう言ってうつむく。

「イナツナは私のことを想っていろいろやってくれたのに、ナシミを失った焦りから私、周りが見えなくなっちゃって。それでキミにあんな冷たくあたっちゃって。

イナツナ、本当にごめんなさい。

今更こんなこと言っても許してもらえないよね。」


「それは、俺の台詞さ、華。

あの時、君がナシミを失って、辛くて悲しくて、どうしようもない気持ちだったのは、俺にも痛いほど伝わってきたんだ。

でも、俺は、君の気持ちをちゃんと聞こうともせずに、自分の言い分ばかり押し付けてしまった。

君が本当に求めていたのは、俺がなぜああなることを予測できなかったとかの理由じゃなくて、ただ君そばにいて、話を聞いてあげることだったのに。

それなのに、俺は……」


イナツナは、言葉に詰まり、少し間を置いた。

「ごめん、華… …本当にごめん。君の気持ちを全然分かってあげられなくて」

イナツナは、華の手を握りしめた。

「でも、これからは違う。君が辛い時は、何も言わずにただそばにいる。君が話したい時は、いつでも話を聞く。君が笑顔を取り戻せるように、俺にできることを精一杯する。だから…」

イナツナは、華の目をじっと見つめた。

「だから、俺を許してほしい。そして、これからも、一緒にいてほしい。」


「イナツナ……」

華の目には、涙があふれていた。

「私も……私もごめんなさい……」

華は、震える声で言った。

「イナツナが、いつも私のことを想ってくれていたのに、私は……私は……」

華は、言葉を続けることができなかった。


「いいんだ、華。」

イナツナは、優しく華を抱きしめた。

「もう、何も言わなくていい。

俺たち、お互い様だね。」


「お互い様だね、イナツナ♪」

華は、泣きながら笑った。


「そうだね、華」

イナツナは、華の笑顔を見て、心から安堵した。


「ねえ、イナツナ?

過ぎてしまった失敗よりも、大切なのは、これからだよね。」


「うん、そうだね♪」


イナツナは、力強く頷いた。

二人の間には、温かい空気が流れていた。


「なあ、華、実はもう一つ大切な話があるんだ。」


「大切な話?」

華は不思議そうに彼の瞳を見つめた。


イナツナは、少し緊張した様子で話し始めた。

「実はさ、俺、医者の知識を学ぶために、来月、大陸に行く船に乗船するんだ。」


「え、私聞いてない!

ねえ、それっていつ帰ってこれるの?」

華の顔が一瞬、曇った。


「たぶん3年後。」

イナツナは、華の目を見て、ゆっくりと言った。

「でもさ、その間もずっと俺は華のことを考えてる!

そして、必ず君のもとへ戻る。」


「ねえ、そのとき私も一緒に連れて行ってもらえないの?」

華はそう言って駆け寄った。


すると、彼は申し訳なさそうに言った。

「それが……俺一人しか行けないんだ。

実は、俺の幼い頃を知っている医者のおじさんが大陸に残っていて、

伝令役の人に昔、医者の修業をさせてもらえないか言付けをお願いしていたんだ。

そしたら、そのおじさんから、俺一人だけならって返事が来たんだ。

だから、本当に……ごめん」


「そっか……。

その時は私たち20歳だね♪」

華は、少し間を置いてから明るく微笑んだ。


「約束する!そのときは俺たち……」

イナツナもまた微笑む。


二人は、夕焼け空の下で、

そっと唇を重ねた。


辺りは、二人の愛で満たされているかのように美しく煌めく。


美しい夕焼けは、二人の姿を優しく包み込み、

遠くに見える山々も、二人の未来を見守っているようだった。



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