「あのさ、華?」
イナツナは、少し照れながら話を切り出した。
「この前はさ、状況が状況だったのもあるけど、しっかり謝れてなくて。だから今日改めてちゃんと君に謝りたい」
「イナツナ……」
あの時、俺が勝手にキミの気持ちを決めつけて、深く傷付けちゃって本当にごめんね。」
「ううん、悪いのは私」
華》 は、そう言ってうつむく。
「イナツナは私のことを想っていろいろやってくれたのに、ナシミを失った焦りから私、周りが見えなくなっちゃって。それでキミにあんな冷たくあたっちゃって。
イナツナ、本当にごめんなさい。
今更こんなこと言っても許してもらえないよね。」
「それは、俺の台詞さ、華。
あの時、君がナシミを失って、辛くて悲しくて、どうしようもない気持ちだったのは、俺にも痛いほど伝わってきたんだ。
でも、俺は、君の気持ちをちゃんと聞こうともせずに、自分の言い分ばかり押し付けてしまった。
君が本当に求めていたのは、俺がなぜああなることを予測できなかったとかの理由じゃなくて、ただ君そばにいて、話を聞いてあげることだったのに。
それなのに、俺は……」
イナツナは、言葉に詰まり、少し間を置いた。
「ごめん、華… …本当にごめん。君の気持ちを全然分かってあげられなくて」
イナツナは、華の手を握りしめた。
「でも、これからは違う。君が辛い時は、何も言わずにただそばにいる。君が話したい時は、いつでも話を聞く。君が笑顔を取り戻せるように、俺にできることを精一杯する。だから…」
イナツナは、華の目をじっと見つめた。
「だから、俺を許してほしい。そして、これからも、一緒にいてほしい。」
「イナツナ……」
華の目には、涙があふれていた。
「私も……私もごめんなさい……」
華は、震える声で言った。
「イナツナが、いつも私のことを想ってくれていたのに、私は……私は……」
華は、言葉を続けることができなかった。
「いいんだ、華。」
イナツナは、優しく華を抱きしめた。
「もう、何も言わなくていい。
俺たち、お互い様だね。」
「お互い様だね、イナツナ♪」
華は、泣きながら笑った。
「そうだね、華」
イナツナは、華の笑顔を見て、心から安堵した。
「ねえ、イナツナ?
過ぎてしまった失敗よりも、大切なのは、これからだよね。」
「うん、そうだね♪」
イナツナは、力強く頷いた。
二人の間には、温かい空気が流れていた。
「なあ、華、実はもう一つ大切な話があるんだ。」
「大切な話?」
華は不思議そうに彼の瞳を見つめた。
イナツナは、少し緊張した様子で話し始めた。
「実はさ、俺、医者の知識を学ぶために、来月、大陸に行く船に乗船するんだ。」
「え、私聞いてない!
ねえ、それっていつ帰ってこれるの?」
華の顔が一瞬、曇った。
「たぶん3年後。」
イナツナは、華の目を見て、ゆっくりと言った。
「でもさ、その間もずっと俺は華のことを考えてる!
そして、必ず君のもとへ戻る。」
「ねえ、そのとき私も一緒に連れて行ってもらえないの?」
華はそう言って駆け寄った。
すると、彼は申し訳なさそうに言った。
「それが……俺一人しか行けないんだ。
実は、俺の幼い頃を知っている医者のおじさんが大陸に残っていて、
伝令役の人に昔、医者の修業をさせてもらえないか言付けをお願いしていたんだ。
そしたら、そのおじさんから、俺一人だけならって返事が来たんだ。
だから、本当に……ごめん」
「そっか……。
その時は私たち20歳だね♪」
華は、少し間を置いてから明るく微笑んだ。
「約束する!そのときは俺たち……」
イナツナもまた微笑む。
二人は、夕焼け空の下で、
そっと唇を重ねた。
辺りは、二人の愛で満たされているかのように美しく煌めく。
美しい夕焼けは、二人の姿を優しく包み込み、
遠くに見える山々も、二人の未来を見守っているようだった。