「ああ。」
「私達、最初この村の人達と言葉が通じなくて、他の子達とも打ち解けなくて寂しい思いをしてたじゃない。」
「そうだね。だけど、
「ああ、そうね。あたりまえじゃない。
私あんたと何年一緒にいると思ってるの?
私はここに来るまえからずっとあんたを見ていたの。」
「あ、そうそう!
幼い頃、
あんたが迷子になった日のこと覚えてる?
私が泣いてるあんたの手を引いてお母さんが見つかるまで付き添った時あったよね?
ねえ、普通、あれって逆じゃない?ぷふっ、クスクスww」
「あれ、そんな恥ずかしいことあったっけ?」
「もう、しらばっくれても駄目ー!!」
「アハハ、バレたか。」
「でもね、この出来事がきっかけで、私は
私が病気で倒れたとき、あんたは家から薬をもらってきて私を看病してくれたよね。
まるで、世界で一番大切な存在のように扱われている気がしたんだ。」
「そして、これ。」
「それ、もしかして。」
「そう、あんたが私の誕生日にくれた手作りの髪飾り。
あの日、この髪飾りを手にして、私は世界で一番幸せな女の子になった気がしたんだ」
「それ、まだ俺たちが大陸にいた頃だからもう10年以上経つけど、まだ持っていてくれたんだね。」
「うん。壊さないように。錆びないようにずっと大切にしてた。
私の宝物だから」
「ありがとう。」
「とは言え、私もうそろそろ新しいの欲しいな♪」
「それ、3年後でもいい?」
「うん、待ってる♪」
「ねえ、
「ん?どうした?」
ホタルは、イナツナの旅立ちが近づくにつれて募る切なさを隠しきれずにいた。
「これ……。
「これを、俺に?」
イナツナは少し驚いた表情を見せた。
「ごめん……。私、
でも、どうしても……渡したくて……」
ホタルは、涙をこらえながら、必死に言葉を紡いだ。
「ありがとう、
イナツナは、優しく微笑みながら、巾着袋を受け取った。
「受け取って……くれるの?」
ホタルの瞳には、かすかな希望の光が灯った。
「もちろん。俺のために一生懸命作ってくれて、本当にありがとう」
イナツナの温かい言葉に、ホタルの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「うっ……」
突然泣き出してしまったホタルを、イナツナは戸惑いながら見つめた。
(何か、
イナツナは、頭の中で様々な言葉を探した。
「そう、淡い藍色……。この色、
俺が好きだって知ってたんだね」
イナツナは、巾着袋を愛おしそうに眺めながら、ホタルに話しかけた。
「もしかして、
幼い頃、私があんたに初めて贈り物をした時、この色が一番好きだって言ったじゃない」
ホタルは、涙を拭いながら、少し頬を膨らませた。
「お、おう……。そうだったっけ?」
イナツナは、少し慌てた様子で答えた。
「もう、
ホタルは、拗ねたように呟いた。
(今の
「冗談だよ。ちゃんと覚えてるって。
あの時も、確か同じ藍色の巾着袋を作ってくれたよね。
ただ……」
「ただ、何よ?」
ホタルはそう言って小悪魔っぽく笑った。
「この模様……、百合の花だよね?」
イナツナは、巾着袋に刺繍された百合の花に目を留めた。
「お……。思い出してくれた!?」
ホタルは、少し照れたように笑った。
「そりゃ覚えてるよ。
そう言えば幼い頃によく二人で百合の咲くお花畑で遊んだよね」
イナツナは、懐かしい記憶を辿りながら言った。
「そうだね。
ホタル《穂垂》も、幼い頃の思い出を懐かしんでいた。
「そうそう。そして、
イナツナの言葉に、二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「
ホタルは、再び涙ぐみながら、イナツナに感謝の気持ちを伝えた。
「俺の方こそ、こんな素敵なプレゼントを本当にありがとうね、
イナツナは、大切そうに巾着袋を抱きしめた。
二人の間には、言葉では言い表せないほどの温かい絆が流れていた。
そして、ホタルは緊張しながらも、彼の透き通るような瞳をしっかりと見つめながらゆっくりと切り出した。
「私、これからあんたの為にいっぱい努力して頑張るから。綺麗になる。……だからね、
だから、……のお嫁さんになりたいな。」
勇気を振り絞って告白した彼女の目からは、大粒の涙があふれる。
それは決して緊張だけではない。
彼とのたくさんの思い出、別れ、そして失恋の切なさが入り混じった複雑な感情の表れだった。
胸が詰まるほどの熱い想いで顔を真っ赤にした彼女は、両手を口元にあてて
すると、イナツナはそんな彼女を力強く抱きしめ、目に涙を溜めながら言った。
「
「ねえ、駄目……かな?」
しばらくの二人の沈黙。
塩風薫る海岸で、大きな波が浜に打ち寄せる音が響き渡る。
二人のこれからを祝福するように、海は静かに歌っていた。