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第34話 御守り

その頃、華の家。


「華ちゃん、まだいたのね。」

イナツナの母が、華に優しい笑顔で声をかける。

「どうしたの? 部屋の隅でそんな塞ぎこんじゃって?あの子、もうすぐ行っちゃうよ?」


「私、私…。

うわわわわわわん」


華は、堪え切れずに泣き出した。


「よしよし」

イナツナの母は、華を優しく抱き寄せる。

「話すのは落ち着いてからで大丈夫だからね」


少し落ち着いてから、華はぽつりぽつりと語り始めた。

「イナツナさんは私の命を救ってくれたし、他にも私の為にいっぱいたくさんのことしてくれたんです。

この首飾りも。」

華は、首にかけた手作りのお守りを指さす。

「その首飾り素敵ね。華ちゃんにすごく似合ってるわ。」


「ありがとうございます。」


「でも、私は彼に何もしてあげれてないんです。

せめてもと考えて麻布でお守りを作ろうとはしたんですけど、私不器用でこんな変なのしか。」

華は、恥ずかしそうに小さく笑った。


「そんなことないわ。」

イナツナの母はそう言うと、華の手からお守りを受け取りじっくりと見入る。

「華ちゃんの気持ちがこもってて素敵じゃない。あの子もきっと喜ぶわ。」


「でも、こんなの恥ずかしくて彼にあげられません。」

華は、再び顔を赤らめた。


「華ちゃん、それ貸してみて。」

イナツナの母は、優しく微笑み、華の手からお守りを預かる。

そして、少しの間、そのお守りをじっと見つめていた。


「ほら、見てごらん。」

そう言って、イナツナの母は、お守りに小さな模様を刺繍し始める。

「どう?少しだけ、私が手を加えてみたわ。」


出来上がったお守りは、さらに美しく輝いていた。

「ほら、素敵になったでしょう?」イナツナの母は、笑顔で華に手渡す。


「わあ、ありがとうございます!

とっても素敵です!」

華は、満面の笑みを浮かべた。

「これで、イナツナに渡せる。」


夕焼けが部屋を染める中、二人は一緒に窓の外を眺める。

「きっと、あの子も喜んでくれるわ。」

イナツナの母は、そう言って華の頭を優しく撫でた。



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