その頃、華の家。
「華ちゃん、まだいたのね。」
イナツナの母が、華に優しい笑顔で声をかける。
「どうしたの? 部屋の隅でそんな塞ぎこんじゃって?あの子、もうすぐ行っちゃうよ?」
「私、私…。
うわわわわわわん」
華は、堪え切れずに泣き出した。
「よしよし」
イナツナの母は、華を優しく抱き寄せる。
「話すのは落ち着いてからで大丈夫だからね」
少し落ち着いてから、華はぽつりぽつりと語り始めた。
「イナツナさんは私の命を救ってくれたし、他にも私の為にいっぱいたくさんのことしてくれたんです。
この首飾りも。」
華は、首にかけた手作りのお守りを指さす。
「その首飾り素敵ね。華ちゃんにすごく似合ってるわ。」
「ありがとうございます。」
「でも、私は彼に何もしてあげれてないんです。
せめてもと考えて麻布でお守りを作ろうとはしたんですけど、私不器用でこんな変なのしか。」
華は、恥ずかしそうに小さく笑った。
「そんなことないわ。」
イナツナの母はそう言うと、華の手からお守りを受け取りじっくりと見入る。
「華ちゃんの気持ちがこもってて素敵じゃない。あの子もきっと喜ぶわ。」
「でも、こんなの恥ずかしくて彼にあげられません。」
華は、再び顔を赤らめた。
「華ちゃん、それ貸してみて。」
イナツナの母は、優しく微笑み、華の手からお守りを預かる。
そして、少しの間、そのお守りをじっと見つめていた。
「ほら、見てごらん。」
そう言って、イナツナの母は、お守りに小さな模様を刺繍し始める。
「どう?少しだけ、私が手を加えてみたわ。」
出来上がったお守りは、さらに美しく輝いていた。
「ほら、素敵になったでしょう?」イナツナの母は、笑顔で華に手渡す。
「わあ、ありがとうございます!
とっても素敵です!」
華は、満面の笑みを浮かべた。
「これで、イナツナに渡せる。」
夕焼けが部屋を染める中、二人は一緒に窓の外を眺める。
「きっと、あの子も喜んでくれるわ。」
イナツナの母は、そう言って華の頭を優しく撫でた。