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最終話

最終話 3年後また会えることを信じて

「ごめん、ホタル。」


「ううん、いいの。」



ん!!?


それはほんの一瞬の出来事だった。


ホタルは、イナツナの唇にそっと唇を重ねる。


しかし、その瞬間はほんの刹那一瞬だった。


フォー・チュイホタル……」


その後二人はそれぞれにたくさんの想いを秘めて|水面みなもがお日様に照らされてキラキラと輝く水平線の彼方を見つめる。


そんな暫くの静寂の後。



「イナツナー!」

遠くから華の叫ぶ声がする。


「ねえ、フォー・チュイホタル

俺たち3年後必ず、また会おうね。」

イナツナは、そう言うとホタルの頭を優しく撫でた。


「うん。待ってる♪」

ホタルは、彼の背中を見ながら、笑顔でそう呟やく。



「ハアハアハア。みんな、おまたせ。」


「華、そんなに慌てて大丈夫?」


「ハアハアハア。

イナツナ、心配させてごめん。

私いろいろあって来るの遅れちゃった。」


「ううん、大丈夫さ。」


「華、それよりキミの指、血が出てるじゃないか?」


「あ、これ?

さっき麻布を縫ってる時に針が刺さっちゃって。」


「華、来てごらん?」


イナツナは華の指に唾をつけると、その上に持っていた麻布の端を破って、その切れっ端を華の指に巻く。


「イナツナ、ありがとう。」



「ところで、あ、あのさ、イナツナ?」


「何?」


「これ。」

華は恥ずかしそうにお守りを渡した。

「イナツナこの前私にこの首飾りくれたでしょ?

だから、私も作ったの。」

華はそう言って、恥ずかしそうに彼に小さな小箱を手渡した。

イナツナはその小箱を受け取るとゆっくりと開ける。

するとそこには一つ一つ丁寧に刺繍され、お日様の光に反射してキラキラと輝く淡い水色のお守りが収められていた。


「華、これをキミが作ってくれたの?」


「う、うん。イナツナのお母さんにも手直し手伝ってもらったんだけど、時間がなくて。

私の刺繍したところ下手くそでダサいでしょ?」


「ううん、全然そんなことない!俺、すごく嬉しいよ!」


「ほ、ほんと?」


「もちろん!ありがとう、華!」

イナツナは華を強く抱きしめた。


華との温かい抱擁に、彼はこの村への愛と、未来への希望を感じる。


二人はしばらくの間、言葉を交わさずにただお互いの存在を感じていた。


「イナツナ、今までありがとうね。」


「何今生の別れみたいな事言ってるんだよ。3年後また会えるだろ?」


「え、え、まあそうだけど。

ねえ、イナツナ約束して。

3年後、絶対この村に帰って来るって。」


「うん、ぜったい約束する。

なあ、華?

俺が3年後無事帰ってきたら、え〜とその時、俺と。」


小声「しぃー!

周りにホタルとかみんないるから。

(それに、それ言っちゃうと……、アレなんだよね……)」


「おーい、イナツナ、

みんな早く乗れって待ってるぞ!」


「すみません。今行きまーす!!」



「みんなごめん。俺もう行かなきゃ。」


「イナツナー!!!」


「母さん!?」


「向こうでも元気で頑張るんだよー!

もし、辛くなったらいつでも帰ってきなさいよー!

いつだってあなたの居場所はここにあるんだからねー!」


「ありがとう、母さん。ぐすん。」



「イナツナ、もう行っちゃうんだね?」

ファはそう言って彼の手をぎゅっと握った。



「うん。ファ、大好きだよ。」

イナツナは、華の両手を優しく包み込むと、彼女の瞳を見つめる。


「イナツナ、私もだよ。」

華は、ふっと笑って見せたが、その笑顔はどこか儚げだった。

彼女はそっと涙を拭い、彼の胸に顔を埋める。


「ホタル来て」

イナツナは、少し震える声で呼びかけた。


「うん」

ホタルは、足早にイナツナのもとへ駆け寄る。


すると、今度はホタルの方から彼の肩を抱き、ぎゅっと抱きしめた。


「ぐすん。ごめんなホタル。

華に聞いたよ。

俺、無神経で自分のことばっかでお前を傷付けて本当にごめんな」


すると、ホタルは静かに顔を左右に振る。


「それに俺、俺、お前に……何もしてやれなくて。」

イナツナは、ホタルの胸に顔を埋めたまま、涙ながらに言葉をかみしめるように言った。


「わわわ。イナツナ、急に泣き出しちゃったよ!!」

二人の様子を見ていた華は、慌ててイナツナの背中をさする。


イナツナは照れ隠しのように、いつものようにホタルに冗談を言おうとするが、思うように言葉が出て来なかった。


「イナツナ、泣くな♪

いつか必ず、また一緒に笑おうね」

ホタルは、そう言って冗談めかしく微笑むと、イナツナの頭をポンポンと叩く。


「ありがとう、ホタル……」


「それでよし♪

イナツナ、向こうでも頑張ってね」


「う、うん」



カザシネ、タエマ。お前らの事も大好きだ。」


「大好きって気持ちわるいな。

向こうでも頑張れよ!」


「おう!」


「イナツナ、今までありがとうね。

また帰ってきたらみんなで遊ぼうね」


「ああ、もちろん」


そんなイナツナの瞳には、恋と友情と別れの切なさ、そして未来への希望が輝いていた。



「母さん!そして、長!

村のみんな!」


「俺、薬とか医学とか、いっぱいお土産持って、絶対戻ってくるから!」



「おい、ガキ。出港するぞ!」


「はい。」


「それじゃらみんな、行ってきまーす!!」



船が動き出し、暫くすると背後から忘れもしない声が聞こえてきた。



「イナツナ〜!!!!!!」



「華!!?」


華が手を振りながら大声で叫んでいた。


「華!」


「向こうでも元気で頑張って〜!!!!」


「みんな、あんたの帰り、ずっと待ってるからね〜!!!」


フォー・チュイホタル!」


イナツナは村のみんなとのたくさんの思い出に涙が溢れてきた。

鼻水で鼻が詰まり声がまともに出せないくらいに。


そして。


「おうー!!!!」


みんなとの楽しかった思い出を振り返りながら、イナツナは思いつく限りの満面の笑みを作り、力強く拳を上げた。



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