〔※現在〕
薄暗い実験室は、静寂に包まれていた。
時計の針がカチカチと音を立て、冷たい空気の中に緊張感を際立たせる。
無数のフラスコや張り巡らされた配線――。
その光景は、まるでSF映画に登場する異世界のようだった。
埃をかぶった賞状や、黄ばんだ実験ノートが棚に並ぶ。
それらはかつての栄光を物語っていたが、今はただの忘れ去られた遺物に過ぎない。
静寂を破ったのは、躍太の声だった。
「あのマネキン、真夜中にひとりでに動き出すらしいぞ」
興奮と一抹の不安を含んだ目が、仲間たちをじっと見つめる。
好奇心と恐怖が入り混じる複雑な表情――。
「冗談だろ。まさか……」
削磨はため息をつく。半信半疑といった様子だった。
しかし、彼の瞳の奥には、隠しきれない好奇心が光っていた。
夜が更け、実験室が静まり返る中、彼らは老人が眠っているのを確認し、
息を潜めてマネキンの前へ近づいた。
マネキンは、人間の女性の形を模し、首から上だけが台座に固定されている。
白い肌は、生きているかのようになめらかで、長い髪は光を反射して美しく輝いていた。
しかし――。
その顔には、どこか冷たく、温かみのない印象が漂っていた。
「よし……さっきみんなで話した作戦、試してみよう」
忘却の少女が仲間たちに静かに告げる。
彼女の表情は、緊張と期待で引き締まっていた。
仲間たちは互いに顔を見合わせ、頷き合う。
「みんな、明日早いし、もう帰ろう」
削磨の言葉に従い、彼らはぞろぞろと実験室を後にした――。
しかし、本当に帰ったわけではない。
息を殺し、物音を立てず――。
扉の向こうから、マネキンの様子をじっと伺っていた。
---
「何も起こらないな……」
(小声)「しーっ! 静かに!」
(小声)「ご、ごめん……」
「わ、わぁ……」
(小声)「しーっ! だから静かにしろって!」
(小声)「あわあわあわ……」
(小声)「大丈夫か、翔太?」
(小声)「見て……あのマネキン……」
「え!?」
仲間たちがマネキンを見たその瞬間――。
マネキンは、まるで生きているかのように、ゆっくりと首を動かした。
「うわっ! あいつ、本当に動いてる……!」
躍太は目を大きく見開き、驚きを隠せなかった。
マネキンの瞳が、暗闇の中で光を放つ。
それはまるで魂が宿っているかのように――。
そして、マネキンはゆっくりと彼らの方を向いた。
その瞳は、意志を持っているかのように見える。
しかし、表情は変わらず、こちらに気付いていないようだった。
「あれは何!? 一体何が……」
翔太が混乱した様子で呟く。
仲間たちは、マネキンの動きから目を離せない。
次に何が起こるのか、固唾を飲んで見守る――。
すると――。
マネキンは、横に置かれた二本の両手を空中に浮かび上がらせた。
まるで、遠くから飛んできたボールを掴むかのように――
ゆっくりと上へと伸ばす。
刹那――。
実験室の電気が突然消えた。
闇に包まれた室内で、仲間たちは身を寄せ合う。
恐怖と不安に駆られ、震えながら……。
「なあ、これ一体……何が起こったんだ……?」
削磨が震える声で呟いた。
その瞬間――。
マネキンの目が再び光を放つ。
しかし、先ほどとは違う――不気味な赤い光だった。
「うわあああ!!」
翔太の悲鳴が、闇の中に響き渡る。
仲間たちは、マネキンから逃げようとする。
しかし、マネキンは首から下の台座ごと、まるで彼らを追うかのように――
ゆっくりと距離を詰めてくる。
「助けて……!!!」
躍太の必死の叫び。
しかし――誰も彼を助けることはできなかった。
マネキンは彼らに近づき、そして――。
「うわあああ!!!」
躍太は飛び起きた。
心臓はドキドキと激しく鼓動し、冷や汗が背中を伝う。
目の前には――まだ鮮明に残る悪夢の光景。
「はっ……はっ……」
息を切らしながら周囲を見渡す。
しかし、そこは――いつもの静かな部屋だった。
窓から差し込む月明かりが、部屋を優しく照らしている。
「……夢だったのか……」
安堵のため息をつきながらも、鼓動はなかなか収まらない。
あの夢――あまりにもリアルだった。
マネキンの顔、赤い光、首に触れた爪の感触……。
すべてが、まるで現実のことのように思えた。
「一体……どうしてあんな夢を……?」
躍太は、自分の胸に手を当てる。
機械の
※次回からは、老人の知られざる過去が語られます。