〔※忘却の少女/???〕
ポコポコ、ゴポゴポ……。
忘却の少女は、生温かい液体に顔を浸されたような、不快な感覚に襲われる。
意識が朦朧とし、まるで深い眠りの中を漂っているようだった。
耳に届くのは、どこか懐かしい、優しい声。
それは――母親が子守唄を歌ってくれた時の、あの温かい声に似ていた。
「大丈夫だよ。ゆっくりでいいから……」
その声は、少女を優しく包み込むように響く。
視界はぼやけ、まるで水中を漂っているような、ふわふわとした感覚――。
意識を手繰り寄せようと、彼女は必死に瞼を開ける。
しかし、重たい瞼はなかなか開かず、焦燥感が募る。
「……ここ、どこ?」
かすれた声が、少女の喉の奥から絞り出される。
声は小さく、囁きのように消え入りそうだった。
すると、ぼんやりと現れたのは、穏やかな表情をした老人の顔。
その顔には深い皺が刻まれていたが――
その瞳には、優しさと慈愛が満ち溢れていた。
「君は、ここがどこかわからないんだね。
今は、何も考えずに、安心して眠りなさい。」
老人の言葉は、まるで魔法のようだった。
少女はその言葉に導かれるように、再び意識の淵へと引き込まれていく――。
そして、深い眠りの中で、彼女は再び夢を見る。
〔※夢の中〕
深い闇の中――少女はただ一人、立っていた。
足元には無数の金属片が散らばっている。
その中に――輝くペンダントがあった。
それは、かつて母親から贈られた、大切なもの――。
「……ママ……」
少女は、ペンダントを握りしめながら、暗い空間を彷徨う。
すると、ペンダントは微かな光を放ち、足元を照らす。
それをそっと開いてみると、中には二枚の写真が入っていた。
一枚は――幼い頃の自分の写真。
そして、もう一枚は……。
「
突然、背後から優しい声が聞こえた。
「……誰!?」
少女は慌てて振り返る。
そこに立っていたのは――。
自分と瓜二つの少女だった。
「あなたは……誰?」
問いかけると、もう一人の少女は悲しそうな表情を浮かべた。
「私は、
「……紬?」
少女は頭を抱える。
紬という名前が、頭の中で何度も繰り返される。
そして――脳裏にある光景が浮かび上がった。
幼い頃の自分。
顔が黒く塗りつぶされた両親。
三人で仲良く食卓を囲んでいる、あの記憶――。
すると、突如として鮮やかな光が辺りを照らし出す。
その光は、まるで闇を切り裂く剣のようだった。
光の中に現れたのは――幼い頃の自分。
少女は、幼い自分に駆け寄り、必死に抱きしめようとする。
しかし――。
幼い自分は、少女の腕をすり抜け、触れることができない。
「ねえ……あなたは、ロボットなの?」
しかし――。
少女の問いかけに、幼い自分は何も答えなかった。
ただ、じっと少女を見つめていた。
その表情は――。
悲しみ、怒り、そして……諦めが入り混じった、複雑なものだった。
〔※現在〕
「……私は夢を見ていたのかな……」
気がつくと、少女は再び意識を取り戻し、ベッドに横たわっていた。
彼女はゆっくりと立ち上がり、まだ興奮冷めやらぬ様子で老人に語った。
「私、自分の名前……思い出しました。」
※次話からは、忘却の少女・美嗣の知られざる過去に迫る話に入ります。