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第59話 少女の記憶の回復前半 ※???〜現在

〔※忘却の少女/???〕


ポコポコ、ゴポゴポ……。




忘却の少女は、生温かい液体に顔を浸されたような、不快な感覚に襲われる。

意識が朦朧とし、まるで深い眠りの中を漂っているようだった。


耳に届くのは、どこか懐かしい、優しい声。

それは――母親が子守唄を歌ってくれた時の、あの温かい声に似ていた。


「大丈夫だよ。ゆっくりでいいから……」


その声は、少女を優しく包み込むように響く。


視界はぼやけ、まるで水中を漂っているような、ふわふわとした感覚――。

意識を手繰り寄せようと、彼女は必死に瞼を開ける。


しかし、重たい瞼はなかなか開かず、焦燥感が募る。


「……ここ、どこ?」


かすれた声が、少女の喉の奥から絞り出される。

声は小さく、囁きのように消え入りそうだった。


すると、ぼんやりと現れたのは、穏やかな表情をした老人の顔。


その顔には深い皺が刻まれていたが――

その瞳には、優しさと慈愛が満ち溢れていた。


「君は、ここがどこかわからないんだね。

今は、何も考えずに、安心して眠りなさい。」


老人の言葉は、まるで魔法のようだった。

少女はその言葉に導かれるように、再び意識の淵へと引き込まれていく――。


そして、深い眠りの中で、彼女は再び夢を見る。



〔※夢の中〕


深い闇の中――少女はただ一人、立っていた。


足元には無数の金属片が散らばっている。

その中に――輝くペンダントがあった。


それは、かつて母親から贈られた、大切なもの――。


「……ママ……」


少女は、ペンダントを握りしめながら、暗い空間を彷徨う。


すると、ペンダントは微かな光を放ち、足元を照らす。


それをそっと開いてみると、中には二枚の写真が入っていた。


一枚は――幼い頃の自分の写真。


そして、もう一枚は……。


美嗣みつぐ……?」


突然、背後から優しい声が聞こえた。


「……誰!?」


少女は慌てて振り返る。


そこに立っていたのは――。


自分と瓜二つの少女だった。


「あなたは……誰?」


問いかけると、もう一人の少女は悲しそうな表情を浮かべた。


「私は、つむぎ――あなたの双子の姉よ。」


「……紬?」


少女は頭を抱える。


紬という名前が、頭の中で何度も繰り返される。


そして――脳裏にある光景が浮かび上がった。


幼い頃の自分。


顔が黒く塗りつぶされた両親。


三人で仲良く食卓を囲んでいる、あの記憶――。


すると、突如として鮮やかな光が辺りを照らし出す。


その光は、まるで闇を切り裂く剣のようだった。


光の中に現れたのは――幼い頃の自分。


少女は、幼い自分に駆け寄り、必死に抱きしめようとする。


しかし――。


幼い自分は、少女の腕をすり抜け、触れることができない。


「ねえ……あなたは、ロボットなの?」


しかし――。


少女の問いかけに、幼い自分は何も答えなかった。


ただ、じっと少女を見つめていた。


その表情は――。


悲しみ、怒り、そして……諦めが入り混じった、複雑なものだった。




〔※現在〕


「……私は夢を見ていたのかな……」


気がつくと、少女は再び意識を取り戻し、ベッドに横たわっていた。


彼女はゆっくりと立ち上がり、まだ興奮冷めやらぬ様子で老人に語った。


「私、自分の名前……思い出しました。」


※次話からは、忘却の少女・美嗣の知られざる過去に迫る話に入ります。


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