〔※現在〕
美嗣は、ぼんやりと窓の外を見つめる。
灰色の空は重く垂れこめ、彼女の心の奥底と呼応しているようだった。
記憶が波のように押し寄せる。
断片的な映像――
聞こえるはずのない声――
胸を締め付ける痛み――
〔美嗣/回想〕
「……どうして……どうして、こんなことを……」
私は、自分の手を見つめた。
家族を抱きしめていたはずの手。
温かく、優しさをたたえていた手。
しかし今、その手は血に染まっている。
自分の手で家族を殺めてしまった。
その現実を、どうしても受け入れられない。
あまりに非現実的で、悪夢の中にいるようだった。
そんなとき――私は気づく。
日常のなかに紛れ込んでいた違和感に。
両親の持ち物の中に、見知らぬものが混じっていた。
高級な宝石――
大金の詰まった封筒――
どれも、これまでの暮らしとはかけ離れている。
深夜、ひそやかに交わされる言葉。
抑えられた声のはずなのに、私の耳にははっきりと届いていた。
「……もう、時間の問題だ……」
「……あの子には、まだ知られてはいけない……」
その言葉が胸の奥に引っかかり、私は決意する。
真実を知るために、両親の部屋へ忍び込むことを――
部屋は静まり返っていた。
時計の針が刻む音が、妙に大きく響く。
汗ばんだ手を握りしめ、慎重に探る。
そして――ついに、それを見つけた。
隠された引き出しの奥に、古びたアルバムが眠っている。
ページをめくった瞬間、心臓が強く跳ねた。
そこに写っていた少女は、美嗣と瓜二つだった。
しかし、その表情はまるで違う。
柔らかく微笑み、幸せそうに見える――
そして、アルバムの裏に記された名前。
"ゆい"
その瞬間、私の頭に雷が落ちたようだった。
私の「両親」は、紬の本当の家族を殺害した凶悪犯。
そして――私自身も、この事件と決して無関係ではなかった。
恐怖と絶望が、心の奥底から湧き上がる。
なぜ、こんなことになってしまったのか。
どうして、自分はこの運命に巻き込まれたのか。
※次回では一度、話が現在に戻ります。