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第61話 少女の記憶の回復後半 ※現在〜美嗣の回想

〔※現在〕


美嗣は、ぼんやりと窓の外を見つめる。


灰色の空は重く垂れこめ、彼女の心の奥底と呼応しているようだった。


記憶が波のように押し寄せる。


断片的な映像――


聞こえるはずのない声――


胸を締め付ける痛み――




〔美嗣/回想〕


「……どうして……どうして、こんなことを……」


私は、自分の手を見つめた。


家族を抱きしめていたはずの手。

温かく、優しさをたたえていた手。


しかし今、その手は血に染まっている。


自分の手で家族を殺めてしまった。

その現実を、どうしても受け入れられない。


あまりに非現実的で、悪夢の中にいるようだった。


そんなとき――私は気づく。


日常のなかに紛れ込んでいた違和感に。


両親の持ち物の中に、見知らぬものが混じっていた。


高級な宝石――

大金の詰まった封筒――


どれも、これまでの暮らしとはかけ離れている。


深夜、ひそやかに交わされる言葉。


抑えられた声のはずなのに、私の耳にははっきりと届いていた。


「……もう、時間の問題だ……」


「……あの子には、まだ知られてはいけない……」


その言葉が胸の奥に引っかかり、私は決意する。


真実を知るために、両親の部屋へ忍び込むことを――




部屋は静まり返っていた。


時計の針が刻む音が、妙に大きく響く。


汗ばんだ手を握りしめ、慎重に探る。


そして――ついに、それを見つけた。


隠された引き出しの奥に、古びたアルバムが眠っている。


ページをめくった瞬間、心臓が強く跳ねた。


そこに写っていた少女は、美嗣と瓜二つだった。


しかし、その表情はまるで違う。


柔らかく微笑み、幸せそうに見える――


そして、アルバムの裏に記された名前。


"ゆい"


その瞬間、私の頭に雷が落ちたようだった。


私の「両親」は、紬の本当の家族を殺害した凶悪犯。


そして――私自身も、この事件と決して無関係ではなかった。


恐怖と絶望が、心の奥底から湧き上がる。


なぜ、こんなことになってしまったのか。


どうして、自分はこの運命に巻き込まれたのか。



※次回では一度、話が現在に戻ります。


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