〔※現在〕
「ねえ、お姉ちゃん、教えて? 私が両親に……そんなの、何かの間違いだよね?」
美嗣は、今にも泣き出しそうな顔で紬に縋る。
藁にもすがる思いだった。
視界が揺れ、立っているのがやっとだった。
「……本当なの」
紬は、ゆっくりと首を横に振る。
その表情には、苦渋の色が滲んでいた。
美嗣の心臓が、締め付けられるような痛みに襲われる。
嘘であってほしかった。
姉の冗談であってほしかった。
だけど、紬の顔が、すべてが真実であることを語っている――
言葉を失った。
信じたくない。
信じられない。
そんなの、ありえない。
頭の中で、様々な感情が渦巻く。
「どうして……? なんで……?」
膝が崩れ、床に手をつく。
両親の顔が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
優しい笑顔。
温かな手のひら。
愛に満ちた眼差し――
それが、すべて偽りだったのか。
そんなの、嫌だ――
美嗣は、首を横に振る。
「お姉ちゃん、何か知ってるんでしょ? 教えてよ!」
必死に訴えかける。
しかし、紬は何も言わなかった。
ただ、美嗣をそっと抱きしめる。
優しい温もりが、そっと包み込む。
それでも――
美嗣の悲しみは、底なしの闇へと沈んでいく。
どれだけ泣いても、涙は枯れない。
どれだけ叫んでも、悲しみは消えない。
気づけば、美嗣は絶望の淵に立たされていた。
〔※美嗣/回想〕
両親が――私を殺した?
そんな事実、信じられるはずがない。
信じたくなんてなかった。
だって――
脳裏に浮かぶのは、優しく微笑む父の顔。
温かい手のひらで髪を撫でてくれる母の姿。
そして、いつも愛情に満ちた眼差し――
それらが、すべて嘘だった?
そんなの、考えたくない。
「そんなの、嘘だ……!」
心の奥底で叫びながら、必死に押し殺す。
「きっと、何かの間違いなんだ……」
そう思わないと――壊れてしまう。
バラバラになって、もう戻れなくなる。
そんな気がして――怖かった。
アルバムを開く。
そこには、生まれたばかりの私を抱く両親の姿がある。
二人とも、幸せそうに私を見つめていた。
それは紛れもない事実だった。
あんなにも愛されていたのに、どうして?
もし、両親が私を殺したのだとしたら――
きっと、何か理由があるはず。
私にはまだ分からない、深い事情が。
そう思いたかった。
両親を――信じたかった。
信じさせてほしかった。
心の底から願い続けた。
もしかすると、私は真実から目を背けているのかもしれない。
都合のいいように解釈しているだけなのかもしれない。
それでも――
私は、両親を信じたかった。
だって、それが私にとって唯一の心の支えだったから。
もし、両親が悪意を持って私を殺そうとしたのだとしたら――
私はどうすればいいのだろう。
想像もつかない。
きっと、生きていけない。
そんなの、嫌だ――
私は、両親を信じたい。
ただ、それだけ。
それだけなのに――どうしてこんなにも苦しいのだろう。
両親の愛を、ただ信じたかった。
それだけなのに――
***
※次回は現在の紬視点から始まります。