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第66話 美嗣の真相2 ※現在の紬の幻影視点〜紬の回想

〔※現在〕


紬は、涙で頬を濡らしながら、美嗣に語りかける。


美嗣の反応は、想像以上に激しかった。


無理もない。


突然そんな話をされたら、誰だって混乱する。


それでも、紬は伝えなければならなかった。


それは、美嗣のためでもあり――


紬自身のためでもあった。


「ごめんね、美嗣。辛い思いをさせて……。

でも、お願いだから、私の話を聞いてほしい」


そっと、美嗣の手を握りしめる。


その指先は冷たく、かすかに震えていた。


しかし、紬は逃げられない。


すべての真実を伝えなければならなかった。


それが紬の使命だと、そう思っていた。


「美嗣……」


深く息を吸い込み、決意とともに言葉を紡ぐ。



〔※紬/回想〕


美嗣を失った悲しみと、両親への激しい怒り。


その感情が、全身を突き刺すように震わせる。


「どうして……! どうして美嗣を……!」


両親に詰め寄る。


「あなたたちが……! あなたたちが美嗣を殺したのね!」


その言葉に、両親の顔色が変わる。


「違うのよ、紬。残念だけど、美嗣はもう助からなかったのよ……」


母は必死に否定した。


けれど、その目は揺れていた。


「嘘よ! 全部嘘だわ! 私、見たんだから!」


私は涙を流しながら叫ぶ。


「あなたたちが、美嗣を殺したのを、この目で見たの!」


すると、私の言葉に母の顔が歪んだ。


「黙りなさい! そんなこと、あるわけないでしょう!」


母の声が荒々しく響く。


「美嗣は……! 美嗣は、病気で死んだのよ!」


「違う! 違うわ!」


私は必死に反論する。


「美嗣は、あなたたちに殺されたんだ!」


その瞬間――


父が激しく怒鳴った。


「うるさい! 黙れ!」


荒々しく手を振り上げる。


「あなた、やめて!」


母が制止しようとする。


しかし――


父の怒りは、もう誰にも止められなかった。


強い衝撃が頬を打つ。


「……っ!」


私は、床に倒れ込み、


その上へ覆いかぶさるように、父が馬乗りになった。


容赦なく、首を締め上げられる。


「お前が悪いんだ! お前がすべて悪いんだ!」


父の目は――狂気に染まっていた。


(殺される……!)


私は必死に抵抗する。


しかし、父の力はあまりにも強かった。


意識が遠のいていく。


その時――


視界の端に、包丁が映る。


私は渾身の力で父を振り払い、


包丁を手に取り、両親と距離を取る。


「紬……! やめて……!」


母の悲鳴が響く。


父は、頭を強く打ち、苦悶の表情を浮かべていた。


(逃げなきゃ……!)


本能が告げる。


私は、父親から強引に亡くなった美嗣を奪い取ると、よろめきながら家を飛び出した。


背後から響く怒鳴り声と悲鳴。


しかし――振り返らなかった。


ただ、ひたすらに走る。


(美嗣……! 美嗣……!)


私は、美嗣の名前を心の中で呼び続けた。

***

※次話も紬の回想から始まります。


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