〔※現在〕
紬は、涙で頬を濡らしながら、美嗣に語りかける。
美嗣の反応は、想像以上に激しかった。
無理もない。
突然そんな話をされたら、誰だって混乱する。
それでも、紬は伝えなければならなかった。
それは、美嗣のためでもあり――
紬自身のためでもあった。
「ごめんね、美嗣。辛い思いをさせて……。
でも、お願いだから、私の話を聞いてほしい」
そっと、美嗣の手を握りしめる。
その指先は冷たく、かすかに震えていた。
しかし、紬は逃げられない。
すべての真実を伝えなければならなかった。
それが紬の使命だと、そう思っていた。
「美嗣……」
深く息を吸い込み、決意とともに言葉を紡ぐ。
〔※紬/回想〕
美嗣を失った悲しみと、両親への激しい怒り。
その感情が、全身を突き刺すように震わせる。
「どうして……! どうして美嗣を……!」
両親に詰め寄る。
「あなたたちが……! あなたたちが美嗣を殺したのね!」
その言葉に、両親の顔色が変わる。
「違うのよ、紬。残念だけど、美嗣はもう助からなかったのよ……」
母は必死に否定した。
けれど、その目は揺れていた。
「嘘よ! 全部嘘だわ! 私、見たんだから!」
私は涙を流しながら叫ぶ。
「あなたたちが、美嗣を殺したのを、この目で見たの!」
すると、私の言葉に母の顔が歪んだ。
「黙りなさい! そんなこと、あるわけないでしょう!」
母の声が荒々しく響く。
「美嗣は……! 美嗣は、病気で死んだのよ!」
「違う! 違うわ!」
私は必死に反論する。
「美嗣は、あなたたちに殺されたんだ!」
その瞬間――
父が激しく怒鳴った。
「うるさい! 黙れ!」
荒々しく手を振り上げる。
「あなた、やめて!」
母が制止しようとする。
しかし――
父の怒りは、もう誰にも止められなかった。
強い衝撃が頬を打つ。
「……っ!」
私は、床に倒れ込み、
その上へ覆いかぶさるように、父が馬乗りになった。
容赦なく、首を締め上げられる。
「お前が悪いんだ! お前がすべて悪いんだ!」
父の目は――狂気に染まっていた。
(殺される……!)
私は必死に抵抗する。
しかし、父の力はあまりにも強かった。
意識が遠のいていく。
その時――
視界の端に、包丁が映る。
私は渾身の力で父を振り払い、
包丁を手に取り、両親と距離を取る。
「紬……! やめて……!」
母の悲鳴が響く。
父は、頭を強く打ち、苦悶の表情を浮かべていた。
(逃げなきゃ……!)
本能が告げる。
私は、父親から強引に亡くなった美嗣を奪い取ると、よろめきながら家を飛び出した。
背後から響く怒鳴り声と悲鳴。
しかし――振り返らなかった。
ただ、ひたすらに走る。
(美嗣……! 美嗣……!)
私は、美嗣の名前を心の中で呼び続けた。
***
※次話も紬の回想から始まります。