〔※紬/回想〕
親戚夫婦の家へ帰る途中、私は道に迷った。
見慣れない景色が広がり、どちらへ進めばいいのか分からない。
不安が胸の奥からじわじわと広がっていく。
どうしよう……私は、どうすれば……。
その時、背後から優しい声が聞こえた。
「お嬢ちゃん、どうかしたの?」
振り返ると、そこに立っていたのは白髪の老人だった。
穏やかな笑みを浮かべ、静かに話しかけてくる。
「道に迷ったのかい? よかったら、僕が案内しよう」
その言葉に、心の緊張が少しほぐれた。
「はい……道に迷ってしまって……」
私は、おじさんに事情を説明する。
親戚夫婦の家へ帰る途中であること、そして道に迷ったこと。
話を聞き終えると、おじさんは温かく微笑んだ。
「そうか。それは大変だったな。よし、僕と一緒に来なさい」
そう言いながら、おじさんは車のドアを開けてくれる。
静かに助手席へ乗り込むと、車はゆっくりと走り出した。
揺れる車内で、昨日の出来事が脳裏を巡る。
美嗣のこと。
両親のこと。
そして――目撃した、あの恐ろしい光景。
気づけば、涙がこぼれそうになっていた。
美嗣……美嗣……。
何度も、心の中でその名前を呼ぶ。
すると、おじさんがふと気づいたように、優しい声をかけてきた。
「辛いことがあったのかい?」
その言葉に、抑え込んでいた感情が溢れ出す。
私は泣きながら、おじさんにすべてを話した。
美嗣のこと。
両親のこと。
そして――私が目撃した、あの残酷な光景。
おじさんは静かに耳を傾けてくれた。
それがどれほど救いだったか、言葉では言い表せない。
そして、話し終えた私に、そっと言葉をかける。
「辛かっただろう。よく頑張ったね」
その一言が、胸の奥へ深く染み込んでいく。
涙が止まらなくなった。
しばらく泣いた後、私は震える声で言った。
「ありがとうございます……あなたのおかげで、助かりました」
おじさんは、柔らかく微笑む。
「気にすることはないよ。困った時は、いつでも僕を頼りなさい」
その言葉が、心の奥をそっと温めていく。
※次話も紬の回想が続きます。