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第68話 クローン ※紬の回想の続き

〔※回想/紬〕


おじさんは、私から事情を聞いた。


美嗣が亡くなったこと――そして、両親が狂気に染まってしまったことを。


深く息を吐きながら、おじさんは悲しげに目を伏せた。


小さな命が、あまりにも儚く、そして残酷に奪われた。


胸の奥が締め付けられるような感覚が広がる。


私の震える声、涙で濡れた瞳――そのすべてが、おじさんの心を痛めた。


「美嗣ちゃんを……蘇らせよう」


静かでありながら、力強い言葉だった。


私は、息を呑む。


「え……? ど、どういうことですか?」


涙で濡れた瞳を、大きく見開く。


信じられない。


そんなことが、本当に可能なのだろうか。


「わしは長年、人の記憶を研究してきた。そして、その記憶をデータ化し、別の体に移植する技術を開発した」


おじさんは、遠い日のことを思い出すように、ゆっくりと語り始めた。


私は、おじさんの言葉に――希望を見出す。


かすかな光が、絶望に閉ざされた心に差し込んだ。


「もしかして……美嗣を……美嗣を蘇らせることができるんですか?」


震える声で問いかける。


もし、それが本当なら――


もう一度、美嗣に会える。


もう一度、美嗣の笑顔を見ることができる。


「ああ。絶対とは言えないけど、その希望はある。

美嗣ちゃんの記憶をデータ化し、それを紬ちゃんの体を元にしたクローンの頭脳に流し込むんだ。

そうすれば、美嗣ちゃんは、再び生きることができる」


おじさんの言葉は、胸の奥に温かい光を灯した。


希望の光が、絶望の闇を照らしていく――


「お願いします! お願いします! 美嗣を蘇らせてください!」


涙を流しながら懇願した。


藁にもすがる思いだった。


美嗣を失った悲しみは、あまりにも深く、耐え難いものだった。


もう一度――美嗣に会いたい。


その願いが、心を焦がす。


おじさんは静かに頷いた。


そして、亡くなった美嗣を研究室へ運び、その記憶をデータ化する。


美嗣の記憶は、膨大だった。


幼い頃の思い出。


両親との楽しい時間。


そして――最期の瞬間。


それらが、まるで走馬灯のように、おじさんの脳裏を駆け巡る。


しかし、おじさんは長年の研究を活かし、それを私の体を元にしたクローンロボットの頭脳と合成することに成功する。


そして――


美嗣は、クローンロボットとして蘇った。


小さな体は、以前と変わらない。


しかし、その瞳には――確かに美嗣の記憶が宿っていた。


「美嗣……!」


私は駆け寄り、美嗣を抱きしめる。


温かい。


そのぬくもりが、私を包み込む――


「お姉ちゃん……」


美嗣の声が、静かに響いた。


涙が頬を伝う。


「美嗣……! 美嗣……!」


何度も名前を呼ぶ。


美嗣は、優しく微笑んで私を見つめる。


「ただいま、お姉ちゃん」


その言葉が、心の奥に深く染みた。


美嗣は、確かに戻ってきた。


けれど――


それは決して、平坦な道ではない。


美嗣の記憶は、データとして再現されたものに過ぎない。


本当に――以前の美嗣と同じなのだろうか?


私は、不安を抱えながらも、美嗣と共に生きていくことを決意した。


もう二度と――美嗣を失わない。


その誓いを胸に――


***


※次話はいったん話が現在に戻ります。


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