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第6話 【追憶】果物をくれた女の子

「あなたたちは……誰?

って、言葉が通じないんだったわよね」


『フンッ!』


「え……?」

目が合ったのは、筋骨隆々の彼。どうやらこの集団のリーダーらしい。

彼はゆっくりと私に近づくと、小型動物の足……たぶん肉の一部らしきものを差し出してきた。

焦げ目がついた焼き肉――臭いがする。食べろと言いたいのだろうか。


「え? これを私に?」

困惑する私をよそに、彼は何も答えず、ただそれを押し付けてくる。


その時、私は驚きと拍子抜けが同時に押し寄せ、思わず腰が抜けそうになった。

一体どうすればいいのか……場の空気を読もうと、キョロキョロと辺りを見回す。


『ウガウガ』

すると、集団の後方から私と同年代くらいの少女がやってきて、リーダーの彼が私に差し出した肉をふり払った。代わりに、艶やかな赤い果物を私に差し出してきたのだ。


「これ、私に?」

少女はニコリと笑って頷いた。


『ウイ♪』


「あ、ありがとう!」

通じるとは思わないけれど、大げさに満面の笑みで応える。


そして――。


「カプカプ……。美味しい!」

口にした果物の甘酸っぱさに、思わず声をあげた。


『クスクス♪』

果物を夢中で頬張る私の姿が可笑しかったのか、少女は声を立てて笑っていた。

無理もない。その日、私は朝から何も口にしていなかったのだから――。


「本当にありがとう!生き返った気分!

あなたって、優しいのね!」


少女は表情を緩めながら、小さく頷いた。


「そうだ、自己紹介がまだだったわね。私はガンガ・クマール。よろしくね!」


『フンガツマル?』


「それ、ちょっと違うわ!ガンガよ!」


『ガンガ?』


「そう、正解!」


『フンガ〜♪』


「あはは、まあいいわ。ところで、あなたの名前は?」


『ウイ?』

私の質問に困惑した顔を見せた彼女は、一瞬考えた後、自ら地面に膝をつき、指で何やら描き始めた。


「その文字……確かインダス文明の象形文字じゃない?」


『ウウ!』

彼女は満面の笑みで頷き、こう教えてくれた。


『カムラ』


「そう!あなたの名前はカムラっていうのね!」


『ウウー♪♪』


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