長い夜がようやく明けようとしていた。淡い空の色が、ジャングルにまばらな明かりを落とし始める。
「バク!!!」
突然、集団のリーダーらしき男が声を張り上げた。その瞬間、周囲の男たちが一斉に動き出した。リーダーの後に続き、ジャングルの奥深くへと足を進める。
「え、なに? みんな移動を始めたけど、どこに行くんだろう……?」
私がぼそりと呟いた、その時だった。
「パオォォォォォォォン!」
「きゃあっ!」
背後から轟くような爆音。
振り返るとそこには、一匹の大きなゾウ。白を基調にしたボディペインティングが施され、鼻を荒々しくすすっていた。
その迫力に、私は思わず後ずさる。
(怖い……。でも、王宮のゾウとは全然違う。)
私の頭の中では、王宮で見慣れた穏やかなゾウとの違いが駆け巡る。
けれど、そんな余裕も束の間だった。
「トッバ!」と声を上げながら、あのカムラが駆け寄ってきた。
彼女はすぐにゾウを落ち着かせるように鼻を撫で始める。
その動作はまるで、長年の信頼があるかのようだった。
「助かった……」
私がほっと息をつきながら、仲間たちをよく見ると、全員がボディペインティングをしているわけではないことに気づいた。
カムラやもう一人の女性は全くの素肌だった。
(ペインティングには何かルールがあるのかな……?)
疑問に思う間もなく、今度は控えめな鳴き声が聞こえた。
「パオン♪」
振り返ると、そこには子ゾウが一頭。
ボディペインティングは施されていない。
その愛らしい仕草に、初対面のはずの私にもすぐに甘えてくる。
「かわいい……♪」
子ゾウの無邪気さに心が和む一方で、カムラが何やらジェスチャーを始めた。
小さく飛び跳ねるような動きと、子ゾウの背中を指差す姿。
「え、私に……この子の背中に乗れってこと?」
その提案に戸惑いながらも、私はようやく理解した。
先ほど転んで足をくじいた私を心配してくれているのだと。
「ありがとう、でも……う、痛っ!?」
私は無理に笑顔を作ったつもりが、足がズキンと痛む。
ここは、カムラの優しさに甘えるしかなさそうだ。
「ありがとうね、カムラちゃん。
それに……あなたもね、可愛い子ゾウさん。」
道中の移動は、思わぬ発見と驚きの連続だった。
特に、標高の高い山道で見た絶景には言葉を失った。
渓谷一帯広がる霧の中、白い絨毯のような雲海。
そしてその上には大きな虹が架かっている。
「こんな世界……絶対にパパや王宮の人たちは知らない!」
胸の高鳴りを抑えきれないまま、私は子ゾウの背中に揺られて進んだ。