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第8話 【追憶】アジトの人々

「なあ、ガンガ! 今からあたしがこのアジトを案内するな♪」


ジャングルでキャラバンを共にした仲間たちと別れた直後、カムラが嬉しそうに声を弾ませた。


「え? えーっ!!!」


私は目が飛び出しそうなほど驚いた。

だって……、カムラが私と話せるなんて、そんなの聞いてない!


「黙っててごめんごめん。実はあたし、サンスクリットをちょっとだけ独学で勉強してたんだ」


「そうだったんだ……最初に言ってよね!

どうして黙ってたの?」


「だって、サンスクリット語は戦争相手の国の言葉だもん。仲間に嫌がられるかもしれないから、ずっと秘密にしてたんだ」


「そっか……。でも、どうして勉強しようと思ったの?」


「じいが教えてくれたんだ。外の世界の言葉を知れば視野が広がるって」


「優しいおじいさまね」


「そうかなあ?」


「そうよ♪」


「サンキュー、ガンガ! じいもきっと喜ぶ♪ ……あっ、忘れてた!」


「どうしたの、カムラちゃん?」


「あたし、ガンガにアジトを案内するって言ったんだった! ついてきて!」


「う、うん」


「ガンガ、こっちこっち!」


「カムラちゃん早いよ、ちょっと待って〜!」


アジトの中を裸足で駆け回るカムラの背中を追いかけるのが、私にはやっとだった。


「先ずは、このおやじが従兄弟で、よろず屋のヤッさん!

ヤッさんも商売上、サンスクリット語を少しは話せるよ」


「ぜーぜー、はーはー!」


「おや、お嬢ちゃん、ずいぶん息が荒いね。大丈夫かい?」


「は、はー、だ、大丈夫です……!」


「この子がカムラのお友達かい?」


「そう。この子ガンガって言うの」


「あ、こんにちは。ガンガ……です」


「こんにちは、ガンガちゃんだね。

息が荒くて心配だったけど、落ち着いてよかった!改めて、俺はテムバって言うんだ。

仲間からはヤッさんって呼ばれてるよ」


「おやじ、性格は弱っちいけどさ、見た目がごついじゃん?だからみんなそう呼んでるんだ」


「ねえ、カムラちゃん、そのメタ発言って……」


「なあ、ガンガ? メタって何? それ、美味しいの?」


「……」


「……」


「あ、そうそう!ところでお嬢ちゃん、その服、おしゃれだね~!どこから来たの?」


「え、えっと……その……」


「お前らツッコミなしなのかよー!」


『ゴツン、ゴツン』


「痛ってー!」


「カムラちゃゃゃん? なぜ俺だけ二発も……?」


「一発はおやじの失態分。そしてもう一発は……ドM顔がキモかったから」


「ぐさー! あいたたた」


「カムラちゃん、身内には容赦ないんだね」


「ところで一ついいか、オヤジ?」


「どうした、カムラ?」


「ガンガの住んでる土地はここからかなり離れた場所にあるらしいんだけど、迷子で帰り方がわからないらしいんだ。

住んでいた土地に戻る何かいい方法は無いかな?」


「帰り方か?

道順という意味なら俺っちにもわからないが、

交通手段という意味ならあてがあるぜ」


「ほんとか!?」

「本当ですか?」


「ああ。

もし海に出るなら川を渡る為の丸木舟を作ってる知り合いがいる」

陸を長距離歩くってんなら、カムラのゾウを借りて行ったらいいんじゃないか?」


「なる程な!

どうだ、ガンガ?

今のオヤジの案は役に立ちそうか?」


「うん、カムラちゃんもありがとう」

私はカムラちゃんにそう答えると、テムバさんの方に向き直り言った。

「帰る方角や距離はまだわからないけど、目的地がはっきりしたら船をお借りするかもしれません。

テムバさん、その時はよろしくお願いします」


「こらまた礼儀正しいお嬢ちゃんだ。

そんなお嬢ちゃんの頼みだ。

お安い御用だよ。それと、俺のことはヤッさんでいい」


「ありがとうございます!」


カムラちゃんは村の人達に私を紹介しながら、私が安全に故郷に帰れる方法を相談してくれた。


そして、私たちは最後にある場所へと向かう。

そこには、ゾウの牙やシカの角で装飾された異様な雰囲気の大きなテントがあった。


「ねえ、カムラちゃん? 族長さんの家ってここ? この入口の装飾、なんだか悪趣味で気味が悪いわ」


「ガンガ、もしかして怖いのか?」


「う、ううん! 怖くなんてないよ!

怖くはないけど……」


「大丈夫、大丈夫。これはじいの趣味だから」


「え? ということはつまり、族長さんってカムラちゃんの……」


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