ゴホゴホ!部屋いっぱいの煙が漂う中、カムラが叫んだ。
「ガンガ、大丈夫!?」
「ゴホゴホ、大丈夫よ!でも、この煙は何なの?火事とかじゃないよね?」
「火事じゃないよ。じいじはシャーマンだからさ。」
「シャーマンって?」
「それがね、あたしもあんまり詳しくないけど、じいじは煙を吸ってる間だけ神様になれるの。そしてその間、村の相談に乗るのがシャーマンってことかな、たぶん……」
ガンガは煙の量に少し怯えながらも、
「なるほど。それでこんなに煙が充満してるんだ」
と納得したようにうなずく。
「あ、煙が収まってきたみたい!」
すると煙の中から低い声が響く。
「おや、カムラじゃないか!」
「うん、じいじ。ただいま!」
カムラは嬉しそうに返事をした。
「遠方の狩りに出ていたと聞いたが、ずいぶん久しぶりに会うのう」
「じいじ、それたったの1ヶ月だよ。
そんなに久しぶりってわけでもないし。」
「わしにとっては長かったのじゃ!
お前がいない間、毎日心配しておったぞ。
……おや?」
突然、族長がカムラの隣に視線を向けた。
「じいじ……、どうしたの?」
「そのお嬢ちゃんは誰じゃ?お前の友達か?」
「あ、うん。ガンガって名前の友達だよ。」
カムラが笑顔で紹介すると、ガンガは無言のまま硬直していた。
「ガンガ、聞こえてる?」
「……」
「ちょっとガンガ!?ほんとに大丈夫!?」
ガンガの視線は族長の頭にあるお面に釘付けだった。
その威圧感たるや、彼女の恐怖心を駆り立てるのに十分だった。
震える彼女の足元に一筋の涙のような水滴が落ちた。
「もしかして、わしのお面が怖いのか?」
そう言うと族長は雄鹿の骨で作られたおどろおどろしいお面を取り外した。
「す、すみません……」
ガンガは初めて族長の素顔を目にした。
暗がりの中でも、その表情ははっきりと見て取れた。
「気にせんでいいよ。わしこそ驚かせてすまんかった」
「ガンガ、じいじは見た目だけ怖そうだけど、本当は優しいから安心して!」
「そ、そうだったんだね……、
ありがとう、カムラちゃん」
私は族長さん、つまりカムラのお爺さんの素顔を見て思った。
似てる……。
カムラちゃんの顔はお爺さんに似たんだわ、きっと!
テントの中が少し暗かったので、族長さんの表情を細かな部分まではっきりと確認することは出来なかったけれど。
それにしても本当にカムラちゃんに似ている。
そして、何処と無く優しく気さくな雰囲気が感じられた。
「恐い思いをさせて本当にすまんかった」
「いえ、そんな……。
頭を下げないでください」
「そうそう。
このお面を恐いと感じるのは嬢ちゃんだけじゃない。
初めてみた子供達はみな恐がる。
カムラだって最初はお面を被ったわしをみて泣きわめいていたんじゃから」
「じいじ!
ガンガに向かって何しれーと根も葉もないこと
……、バラしてくれちゃってんの!?」
「まあまあ、カムラちゃん。
いったん落ち着こ。ね?
(この娘バラすなって自分から言っちゃったよ……)」
「あたしグスン、
人前で絶対泣いたりなんかしないよ、
シクシク。
ねえ、ガンガはあたしを信じてくれるよね?」
この状況で私にどうフォローしろと!?
あ〜めんどくせぇ。
「ところでさ、ガンガ聞いて。
アジトには唯一、おばちゃんが作る料理屋があんの」