次の日。
私は昨日の帰り道に耳にした話を、さっそくカムラに打ち明けることにした。
「あのね、昨日カムラちゃんと別れた後、家に向かう途中でのことなんだけど……。
たまたま大きな建物の横を通りがかったら、中から男の人が二人、大声で何か話してるのを聞いたの」
「……ああ、あのことか!」
すると彼女は首を傾げながら答えた。
「あいつら、うちの部族と〝マッラ〟って国との戦争のことで会議してたんだと思うよ」
やっぱり、そうだったんだ……。
私は思わず息を呑み、言葉を選びながら尋ねた。
「ねえ、カムラちゃん。その〝マッラ〟って国について、どう思ってる?」
すると……、彼女は一瞬黙り込んだ後、険しい表情で答える。
「マッラの奴ら?……あたしは絶対許せない!」
彼女のその力強い言葉に、私の胸は強く締め付けられた。
「カムラちゃん……もしかして、マッラ国に何か嫌な思い出でもあるの?」
「ああ……。連中に対してはあたしだけじゃなく、みんな憎んでる。
何人も仲間を殺されたんだ。それに……。
あたしの親父とお袋も……」
カムラの声が少し震えた。
「あたしたち家族を危険に巻き込むわけにはいかないと、両親はあたしと弟を祖父母に預けて、平和交渉のために仲間たちと旅に出たんだ。
でも、それ以来、一度も帰ってこない……」
私は返す言葉が思いつかなかった。
ただ、胸が張り裂けそうな思いで彼女の表情を伺う。
「どうした?ガンガ。顔色悪いぞ?」
「え?……大丈夫、大丈夫!」
私は無理に笑顔を作ったが、彼女は怪訝そうに私を見つめる。
それでもカムラはそれ以上は追及せず、少し笑って言った。
「そっか、ならいいけど」
その夜。
「ああ、もう……」
私は深々と麻布を被る。
カムラに隠し事をしている後ろめたさで寝付けなかったのだ。
そんな中。静かな夜に突然、控えめな音が響く。
『コンコン……コンコン……』
テントの木枠を叩く音。
「誰?」
私は身を起こし、怯えながら問いかける。
「しーっ!」
その小さな声に、私の緊張が一気にほぐれた。「カムラちゃん!?」
「声が大きいってば!
とにかく、あたしについてきて」
夜の静けさの中、私は彼女の背中を追う。
そして、気がつくと部族の集落から少し離れた高台までやってきた。
「ここなら落ち着いて話せるよ」
彼女がそう言って立ち止まると、私は不安そうに口を開いた。
「カムラちゃん、こんな時間にどうしたの?
私に何か相談事?」
「違うよ。今日ガンガが顔色悪かったのが気になって、眠れなくなっちゃったんだ。
だから、勝手に起こしてごめん」
彼女のそんな真剣な表情に、私は胸が熱くなった。
「もう、そんなの謝らないでよ。
それって私のことを心配してくれたからでしょ?
私、嬉しいよ。ありがとう、カムラちゃん」
「ガンガ……」
一瞬沈黙が流れた後、私は意を決して彼女に真実を打ち明ける。
「実はね、カムラちゃん。私、隠してたことがあるの……。
私の故郷の国って、実はその……カムラちゃんが言ってたマッラ国なの」
一気に言い切った後、私は深く頭を下げた。
……。
沈黙が続き、それはまるで時間が止まったかのように感じられる。
私はただ目をつむり、じっとカムラの反応を待つ。
そして、ついに彼女の低い声がその空気を破った。
「ああ……知ってた。」