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第10話 【追憶】戦争の相手

次の日。

私は昨日の帰り道に耳にした話を、さっそくカムラに打ち明けることにした。


「あのね、昨日カムラちゃんと別れた後、家に向かう途中でのことなんだけど……。

たまたま大きな建物の横を通りがかったら、中から男の人が二人、大声で何か話してるのを聞いたの」


「……ああ、あのことか!」

すると彼女は首を傾げながら答えた。

「あいつら、うちの部族と〝マッラ〟って国との戦争のことで会議してたんだと思うよ」


やっぱり、そうだったんだ……。


私は思わず息を呑み、言葉を選びながら尋ねた。

「ねえ、カムラちゃん。その〝マッラ〟って国について、どう思ってる?」


すると……、彼女は一瞬黙り込んだ後、険しい表情で答える。

「マッラの奴ら?……あたしは絶対許せない!」


彼女のその力強い言葉に、私の胸は強く締め付けられた。


「カムラちゃん……もしかして、マッラ国に何か嫌な思い出でもあるの?」


「ああ……。連中に対してはあたしだけじゃなく、みんな憎んでる。

何人も仲間を殺されたんだ。それに……。

あたしの親父とお袋も……」

カムラの声が少し震えた。

「あたしたち家族を危険に巻き込むわけにはいかないと、両親はあたしと弟を祖父母に預けて、平和交渉のために仲間たちと旅に出たんだ。

でも、それ以来、一度も帰ってこない……」


私は返す言葉が思いつかなかった。

ただ、胸が張り裂けそうな思いで彼女の表情を伺う。


「どうした?ガンガ。顔色悪いぞ?」


「え?……大丈夫、大丈夫!」

私は無理に笑顔を作ったが、彼女は怪訝そうに私を見つめる。

それでもカムラはそれ以上は追及せず、少し笑って言った。

「そっか、ならいいけど」



その夜。

「ああ、もう……」

私は深々と麻布を被る。

カムラに隠し事をしている後ろめたさで寝付けなかったのだ。


そんな中。静かな夜に突然、控えめな音が響く。


『コンコン……コンコン……』


テントの木枠を叩く音。


「誰?」

私は身を起こし、怯えながら問いかける。


「しーっ!」


その小さな声に、私の緊張が一気にほぐれた。「カムラちゃん!?」


「声が大きいってば!

とにかく、あたしについてきて」


夜の静けさの中、私は彼女の背中を追う。

そして、気がつくと部族の集落から少し離れた高台までやってきた。


「ここなら落ち着いて話せるよ」

彼女がそう言って立ち止まると、私は不安そうに口を開いた。

「カムラちゃん、こんな時間にどうしたの?

私に何か相談事?」


「違うよ。今日ガンガが顔色悪かったのが気になって、眠れなくなっちゃったんだ。

だから、勝手に起こしてごめん」


彼女のそんな真剣な表情に、私は胸が熱くなった。

「もう、そんなの謝らないでよ。

それって私のことを心配してくれたからでしょ?

私、嬉しいよ。ありがとう、カムラちゃん」


「ガンガ……」


一瞬沈黙が流れた後、私は意を決して彼女に真実を打ち明ける。

「実はね、カムラちゃん。私、隠してたことがあるの……。

私の故郷の国って、実はその……カムラちゃんが言ってたマッラ国なの」

一気に言い切った後、私は深く頭を下げた。


……。


沈黙が続き、それはまるで時間が止まったかのように感じられる。

私はただ目をつむり、じっとカムラの反応を待つ。


そして、ついに彼女の低い声がその空気を破った。

「ああ……知ってた。」  

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