『フォフォフォ~ン!!』
※角笛の低い音色が荒野一体に響き渡る。
マッラ国連合軍がカムラ達先住民に対し戦線布告をした合図である。
『グルワー!! マッラ、バットー!!』
※リーダーがマッラからの戦線布告を大声で仲間全員に知らせる。
『バットバット!!』
※族長が応戦の意志を合図。
『ヤー!ヤー!』
※槍や弓を持った前衛の戦士達はみなそう叫びながら、武器を天にかかげ志気を高めている。
『ドンドコドンドコ』
※隊の後ろ、族長の両サイドにいる数人の戦士達が荒々しいリズムで太鼓を叩く。
『グルワ』
※族長の元に前衛の戦士達が一列に並ぶ。
そして、族長はもくもくと煙が立ち上がる幻覚作用のある葉っぱを前衛の戦士達一人一人に嗅がせていく。
『グルワ、ユ』
戦士達のトランスの儀式が終わると、
族長は部下の一人を指名した。
『グルワ、ナーヴ!』
※(我々は宣言する)
部下の一人はそう宣言すると、前もって族長が考えた戦線布告書(木版)を読みはじめた。
『ナーヴ、バット。
(我々は戦争は望んでいない)
ユ、ヤー、バット。
(あなた達に危害を加えるつもりも無い)
ナーヴ スー、ダ、バット
(だから、自分達を奴隷扱いしたり人間以下にみたりせずに)
マッラ ナーヴ ヴァ
(同じ人間としてちゃんと見てくれ)』
『???!!』
『???!!』
※先住民側にマッラ国連合側。
あまりに予想外で突拍子も無い事態に
どちらの群勢もみな一様に言葉を失い
場は騒然となる。
そう、つまりカムラの言っていた"イタズラ"とは、
自軍の戦線布告書を内緒ですり替えることだったのだ。
「ねえ、カムラちゃん?
私達こんな事してホントに大丈夫なの……かな」
「え?
どうしたんだガンガ?
ごめん、周りの声や太鼓の音で今何って言ったか聞こえなかった」
「ごめん、なんでもない……」
私の心配をよそに、先の戦線布告書の内容について両群勢それぞれの間で激しく物議が交わされ、混乱は治る気配がない。
今私のいる先住民側では部族の仲間同士が言い合いとなり喧嘩をはじめた人達までいる。
私はおそらくパパも参加しているであろうマッラ側の様子が気になり、そちらの軍隊の方を遠目から観察してみた。
すると、前衛の戦士達はみなバラバラの方向を向いてお喋りをしているのがわかった。
その姿はこちら側からは落ち着きが無さそうにすら見える。
幹部の判断がなかなか下されないことに苛立ちを感じているのかもしれない。
「おーい!
ガンガー!」
「カムラちゃん!?
何で!?
一体いつの間にそっち側に!?」
「いいかガンガ?
ガンガはそっちで大人しくしていてくれ」
「ちょっとー!
カムラちゃん?
こそで一体何をするつもり?」
「…………」
しかし、カムラからは私の質問に対する返事はもらえなかった。
「きっと私の声、届いて無いんだわ」
それでも私はカムラが前もって話してくれた計画が心配だったので、ずっと目を離さずに成り行きを見守る。
『あ、こらっー!
貴様何をするー!』
「渡せ〜!」
「カムラちゃん、次はマッラ国の戦線布告書を奪う気なんだわ!」
無茶よ、カムラちゃんお願い。
お願いだから逃げてー!
『あ、こら待たんかー!』
「やだよー!
あっかんべ〜だ」
『みんなー!
その泥棒猫を引っ捕らえろー!』
『お!? おー』
カムラは隙間なく配置されたマッラ兵達の迫りくる手を絶妙なタイミングでぬって交わしながら軍隊の先頭を目指して走っていた。
「我々マッラ国は宣言する!!」
カムラちゃんの声だわ!
「この戦争は、え〜と撤回する。
以後マッラとナーヴとは暴力や差別をせず
みんな公平に話し合うものとする」
彼女はハッキリと大きな声をあげ、
前もって考えてきた代りの文章を両陣営に向けて読み上げたのだ。
『はー!?』
『何言ってんだあいつは?』
予想していた通り、カムラちゃんの言葉を聞いたマッラの陣営内部に激しい批判が飛び交い、そして案の定喧嘩をはじめる人達まで出てきた。
『全員、鎮まれー!!』
『ガヤガヤ』
『鎮まれと言ってるだろー!!』
『は、はー!!』
あの声は間違い無い、パパだわ!!
パパは大声で叫び場を鎮めると、
今私がいる先住民の陣営側の方を向き直し
そして話しを続けた。
『不可触の民よよく聞けー!!
我々マッラ国連合には戦争を止めるつもりなどもうとう無い!
そのような稚拙な悪あがきは早々に辞め、
速やかに我々に降伏しなさい!』
「んだと、こらー!!」
※ガンガの父の言葉を受けたカムラの声
「あれ!ちょっとカムラちゃん?」
カムラちゃん真っ直ぐどこへ向かってるの?
そんな堂々と近づいていったら
すぐにパパに捕まっちゃうって〜!