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第14話 【追憶】奪われたいのち

『パオ〜ン』

母ゾウのマーラは動かなくなったパーラに寄り添い、時々寂しそうに鳴いていた。


「おい、てめーら!

パーラが一体何したってんだよ!

お前らが勝手にやってきたんじゃねーか!

そして訳もなく戦争を起こしやがってよ!

 パーラはまだ人生これからって時期だったのに

こんな最期あんまりじゃねえか。

なあマーラ?

お前も本当に悔しいよな?

ぜってー許せないよな?」


「この泥棒猫は一体何を泣いているんだ。

ゾウはお前達の乗り物だろうに?

 私が乗り物に使っている騎乗戦車の馬が仮に亡くなっても私は悲しまんぞ。

代りの馬は他に五万といるからな。

乗り物に対して涙を流すなんてお前達は馬鹿げている」

※注 騎馬民族の多くは馬に愛着を持っています。馬に愛着を持っていない隊長であるガンガの父親は少数派です。


「んだとー?

てめー、もう一度言ってみろ!?」

カムラは逆上しパパめがけて飛びかかった。

しかし……。


『お前達、この泥棒猫を取り押さえろ』


『はっ!』


「離せー!

てめーらの隊長を一発殴らせろー!「 」


『なんだこいつ!

隊長様に向かって生意気な口聞きやがって!』


「離せー!」


『離してたまるか!

お前なんて袋叩きだ!』


「痛えっー!、ぐはー!、ぐうぇー!」


「ねえ、みんなやめてー!

お願いだから、こんな酷いこと辞めてよ、

お願いだから……」

しかし……、私の願いは聞き入れられなかった。


私はカムラを助け出す為、

パパの陣営にみつからないよう足音を殺し潜入しようと試みる。

 しかし、そんな私の努力も虚しく、

すぐに戦士数人にバリケードで阻まれてしまう。


 私がそここうしている間に、

カムラはパパの護衛の戦士達に羽交い締めにされ、完全に手脚の自由を奪われてしまっていた。


『フン、貴様がさっきの泥棒猫か』

そう言いカムラの目の前に立ったのは

パパだった。


『おや?

泥棒猫、貴様はネックレスなどしていたのか。

人間以下風情がネックレスとはいいご身分だな』


『ブチッ!』


「痛っ」


『首は少し剣幕がカスっただけだ』


「てめー、何をしやがる!」


『これがペンダントか』

ああ、急がねば剣が腐る」


「あっ!

ペンダントをどうする気だ、やめろ!」


『おい、そこの奴隷?』


『は、隊長様?』


『この泥棒猫の汚らわしいネックレスを

なるべく遠くに投げ捨てて来るんだ、いいな?』


『は、はい』


「ちょ、待て!

てめー!」


『泥棒猫、お前はこっちを向け!

お前はカムラと言うらしいな?』

パパは剣先をもう一人の奴隷に拭かせながら

話を続けた。


「ああ、そうだよ」


『部下から聞いた話なんだがな、お前は私の娘とずいぶん仲良くしていたと聞く。

それは本当か?』


「ああ……」


『はー。やっぱりな。

ガンガの父親である私からお前に一つお願いがあるんだが、いいかな?』


「フン。なんだよお願いって?」


『自分の命が惜しかったら、今この瞬間から娘と縁を切ってくれ。

いいや、これは命令だ、速やかに縁を切りなさい。

そして、娘と出会ってからの出来事は金輪際全て忘れ間違っても口外しないこと。

いいか?』


「いいわけ無いじゃねーか。

オッサン何勝手に決めてんだよー!」


『貴様こら!

隊長様への言葉をわきまえろ!』


『お前達は黙ってろ』


『は、はい』


『なあカムラ?

私は何も無条件にとは言ってないだろ?

もしもお前が娘と縁を切ってくれたのなら

お前をここで見逃してやると言ってるんだ』


『お言葉ですが隊長様!

この泥棒猫は戦線布告書を偽造したり隊長様にたてついたりと大罪を犯したのですよ?

 それを反故ほごにするなんてどういうおつもりですか?

この娘は万死に値して当然ですよ』


『お前達は黙ってろと言っただろ!』


『は、はいー』


『いくら人間以下だといっても私には幼い子供を痛ぶる趣味は無い。

どうだ?

決して悪くはない取引だろ?』


「嫌だ……」


『隊長様、こやつ小声でいま……』


「痛だー!

あたしはガンガと縁を切るなんて死んでも認めねー!

絶ってー嫌ー!!!」


カムラちゃん……。

ゴクり。

彼女の言葉に私は唾を飲んだ。


『ふざけるなー!』

『バシッー!』


「ぐはっー!」

内臓を激しく蹴られたカムラの口からは

赤い血飛沫が勢いよく噴き出す。


『流石は隊長、腹部へのお見事な回し蹴りですね』


『あー汚ねー!

俺にもこやつの吐血が腕にかかりましたぜ』


『殺せ……』


『え、本当にいいんですか隊長様?

先程は……』


『いいから殺せ!』


『は、はいー!』



「じい離して!!

カムラちゃんが、カムラちゃんが!!」

私が遂に我慢出来ず前に出ようとすると、

世話役の爺に必至に止められる。


『なりませぬ……』


「どうして!?

じいは私が宮廷にいたとき、私の為にあんなに一生懸命頑張ってくれてたじゃない?

私がパパに怒られたときも私を庇って見方してくれたじゃない?

それなのにどうして?

どうしてそこをどいてくれないの!?」


『残念ですがガンガお嬢様。

これはあなたのお父様のご命令です』


「いいからそこを退いて。

お願いだから、ねえっ!」


『ドスー!!』



「え!?」

私は急いで音の方向を振り向く。


今の音はさっきパーラちゃんを殺した槍!?


「カムラちゃーん!!!!


カムラ……ちゃん?」


カムラちゃんは……、無事だった。


「はー。無事でよかった」


「良くねーよ……」

私は、彼女の魂の抜けたような声と

光を失いくすんだ瞳の色からなんとなく察しがつく。


カムラの背中には身代わりとなって死んだ母象のマーラが沢山の血を流し静かに息絶えていた。



『ガンガ様、ガンガお嬢様!

そちらへは行ってはいけませぬ』


「離して!!」


『駄目です!』


「どいて、じい。

またパパの命令だから!?」


『それもあります。

しかし、私やご主人様がお嬢様を心配していますのには理由があるのでございます。

彼ら先住民からは我々西方民族には免疫の無く命に関わる風土病をうつされる危険性があるんですじゃ』


「いいから退いて!

どきなさい!!」


『お嬢様!?』


私は凛とした覚悟でじいを振り払うと、

パパの前に立った。

そして……。


『どうして来たんだガンガ?

私はお前にあれほどここには近づくんじゃないと……』


「パシ〜ン!!!!」


…………。



『な!?』


私はパパの頬を叩いた。

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