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第15話 【追憶】同じ人間のはずなのに

ゴロゴロ、ゴロゴロ


何!?


『キャバサ、キャバサ!』


『キャバ、キャバ!』


みんな騒がしいわね?


次の瞬間——!


ピカ—————!!!


『は!?』

辺りは一面が、眩しい閃光に包まれた。


『グー!!』


え、みんな耳を塞いでる?

もしかして……。


ドドドド————ン!!!!!!


まるで鼓膜が破れそうな程の爆音。

私は一瞬意識が朦朧としてしまった。

耳にはキィーンという高い音が支配し、

周りの音はしばらく耳に入って来ない。



ポツ、ポツ……。


雨!?


刹那


ザザ————。


激しい!?


まるで殴りつけられるような激しい大雨。

視界が完全に奪われる程の雨量だった。

瞬く間に衣服は水浸しになり、水を吸った髪の重みで前髪が顔を隠す。

私の視界は完全に妨げられた。



『スコールだ!!』


『すごい大雨だ、この強風に雨の量。

こりゃやばいぞ!』


マッラ国の戦士達も突然降ってきた大雨に騒ぎはじめていた。


 私は降りかかる雨でずぶ濡れになりながらも、

自分が持ち合わせる限りの大声でパパに向かって問いただした。


「ねえパパ教えて!?

パパ達はどうして既に他の国の人達が生活している土地を力ずくで奪おうとするの?

私達は同じ人間のはずなのにどうしてそんな風に暴力を振ったり差別したりするの?

 カムラちゃん達はね、ジャングルて迷子になった私を助けてくれて帰郷の目処が立つまで食事や住まいの面倒をみてくれたんだよ。

 そして、私が武力で征服しようとする側の国の人間と知りながらも私が故郷に帰れるようにいろいろ考えてくれていたんだよ。

 こんな優しい人達なんだよ。

だからパパ、お願いよ。

カムラちゃん達先住民の人達と一緒に協力し助け合っていけないかな!?」


しかし……。

私の渾身のメッセージに対してすぐに意見を返す人は誰もいなかった。

そう、パパも含めて……。


 仮に誰かが喋っていたとしても、きっとこの強い雨と風に遮れ全く聞こえないかもしれない。



『おや!

なんだ、このペンダント?』


『地面に落ちているもの勝手に拾うなよ。

穢れるぞ』


『だってな、このペンダントさっきから』


『泥棒猫がつけてた飾りだろ?

汚らわしい、ほっとけ』


『なんかな、石のところが激しく白く光ってんだけど』


『おい!

そのペンダントはほっとけ。

それより何やら他の仲間達が騒がしいぞ!

お前も早く来い!』



『あ、ああ。

待ってくれよー』


『おい、あれなんだ!?』


『川の方向からこっちに何か向かってくるぞ』


『お前、目がいいんだろ?

なあ、あれなんだと思う?』


『どれどれ、

って、あれは水だ!!』


『水!?

ってことは、川の水がこっちに押し寄せてきてる

んじゃないか!』


『物凄いスピードでこっちに向かってるぞ!

まずいぞ!

急いで避難しないと本当に手遅れになってしまう』





『ガンガ、お前そんな風に……。

パパはお前の気持ちをくんであげたい。

でもな、ガンガにはまだわからないかもしれないが、限られた資源の中で助け合って生きるっていうことは平等の一言で叶えられる程そう単純なことじゃないんだよ。

だから……』

パパが私に向かって次に何かを言おうとしていたその瞬間、戦士の一人が発する大きな声がそれを遮った。


『まもなく濁流が来るぞー!!

みんな急いで高台に避難しろー!』


「ねえパパ? ああ言ってるし、

さっきの話の件は置いといて、

早く高台に避難しよ」


「すまんガンガ。

お前は先に避難していなさい」


「どうしたの、パパ!?

早く避難しようよ」


『すまないガンガ。それは出来ない……』


「パパ……」


『私が率いるマッラの戦士達はみな私にとって家族の様なものだ。

彼らにもそれぞれ家族がいるにも関わらず、

命の危険がある戦場に私の志を信じてついてきてくれたんだ。

 だから、私は私の家族同然の彼ら全員を無事避難させるまでは、自分だけが先に逃げるわけにはいかないんだ』


「嫌だー!

そんなこと言ってたらパパ溺れて死んじゃうよ!」


『いいから行きなさい、ガンガ!

じい、ガンガを頼む……』


『かしこまりました、ご主人様。

お嬢様、高台はあちらですじゃ。

さ、急ぎますぞ』


「じい、離せー!

パパが、まだパパがー!」


ガブッ!!


『痛ったー!

お嬢様、私めの手を噛むなんてあんまりですじゃ』


「ごめん、じい。

私はパパと一緒に必ず戻ってくるから、

じいは他のみんなと先に高台で待ってて」


『待ってくだされ、お嬢様〜!!』


 インダス川の氾濫による濁流は私達のもうすぐ近くまで押し寄せていた。


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