「離せよじいじ!」
「駄目じゃ」
「何でだよー!
まだあそこにはガンガが残ってんだよー!」
「川の水はもうすぐ近くまで迫っておるんじゃ。
お前一人だけで低地に行かせる訳にはいかんのじゃ」
荒ぶる大雨とインダス川の氾濫により、もう戦さどころではなくなっていた。
カムラ達先住民の人達は地の利がありすぐに高台に逃げることが出来たが、マッラ国の戦士達は混乱を極め、まだ全員が非難できずにいた。
『グル、クイー、マッラ!』
『アー!』
カムラの族長さんは部下達に指示を出すと、
マッラ軍の人達を次々に自分達と同じ高台に避難させていった。
「ガンガ、こっちー!」
「カムラちゃん!
無事だったんだね」
「ガンガ、いいから早く。
あたしの体に捕まって」
カムラは高台から吊り下げられた縄に捕まった状態で私を待ってくれていた。
「う、うん」
こうして、私はなんとか無事にカムラ達が避難する高台まですくい上げられた。
「ねえ、誰かお願い!
パパを助けて!」
パシッ!
な!?
『なぜだ……?』
頑なに最後まで救出を拒んでいた私のパパ。
そんなパパに対し族長さんみずから率先してパパの腕を掴んだのだ。
『ウグググ』
そして、族長さんはパパの腕を力の限り手繰り寄せる。
『貴様……、どうして私を助ける!?』
「なぜかじゃと?
そんなのわしの気まぐれじゃよ」
『気まぐれ?
情けはやめてくれ。
このままでは貴様もあの世行きだ。
すぐにその手を離せ!』
「それはわしらの手に触れられたら穢れるからか?」
『…………、
違う!
マッラの誇りにかけて私はお前達先住民の情けなど受けられぬ。
お願いだ。その手を離してくれ』
「そういうことか。
そうと聞いたらますます駄目じゃな。
もしもわしがこの手を離したら
きっとお前さんのお嬢ちゃんが悲しむ。
お前さんのお嬢ちゃんが悲しんだら
きっとそれを知ったわしの孫のカムラはわしを責めるだろうよ。
『なんでじいじあのときお前さんの手を離したのかー!』ってな。
だからわしがお前さんを助けることにお前さんの気持ちなんて関係無いんじゃ。
全ては可愛い孫娘の幸せの為じゃよ」
『はー、私の負けだ。
ありがとう……ございます』
間一髪のところでパパはカムラの族長さんに救い出され、
そしてパパと族長さんの2人はかたく握手を交わした。
『この件は後日改めてお礼を』
「なーに、礼には及ばんよ」
『しかし……』
「わしらからのお願いは一つじゃ。
金輪際わしらの生活を奪わんでくれ。
老いぼれのわしだけならいい。
じゃがな、孫のカムラなど若い世代の者には希望が持てる人生を歩ませてあげたいんじゃ」
『わかった』
「ちょ、どうしたんだオッサン?
あたしの方に向かってきて。
まだあたしに用かよ?」
『君の大切な2頭の象を死なせてしまい
……。本当にすまなかった』
ありがとう、パパ。
私は思った。
「そんな風に今更土下座して謝られたって許せるわけねーじゃん!!
パーラもマーラももう帰って来ないんだぜ。
あたしはおっさんの顔なんて二度とみたくねーから」
「カムラ……ちゃん」
『お前らー、引き上げるぞー!』
『引き上げー!?
隊長、どうしてですか?』
『我々マッラ国連合とナーヴ族とは互いの領土を不可侵とする!』
『そんな……』
『つべこべ言わず帰りの身支度をするぞ!』
『は、はい』
『ガンガ、お前も早く!』
「パパ、ちょっと待って。
私、カムラちゃんとお別れ言ってくる」
「カムラちゃん。
パーラちゃんとマーラちゃん、
本当に、グスン。ホントごめんね」
「泣くなよガンガ、弱虫だなぁ。
あれはガンガ、お前のせいじゃないって」
「ありがとう、カムラちゃん。
そして、本当にごめんなさい。
私達のお別れこんな形になっちゃったね」
「ああ。
ガンガと出会ってからいろいろな思い出ができたけど、気づけばあっと言う間だったな」
「うん、そうだね」
「ガンガ、パパと再会出来て良かったな」
「ありがとう。
カムラちゃん、本当にありがとね♪」
「ガンガの方こそ、ありがとな。
あたしな、正直どうなってしまうんだろうって自分でもハラハラしたけど……。
あ、そうそう。
これ、ガンガにあげる」
「え、何?」
「ペンダント」
「こんな貴重なプレゼント貰えないよ」
「白く光る石がついたペンダントなんだ。
綺麗だろ?
これはな、あたしが子ゾウのパーラを連れてインダスの遺跡を探検してたときにみつけたんだ。
ナーヴの言い伝えでは、このペンダントは神に選ばれし旅人が手にしたとき、隠された道が開かれるらしいんだ」
「なんだか難しくてよくわからないけど、
この石、本当に綺麗ー!
カムラちゃん?
このペンダント、本当に貰っていいの?」
「ああ。
あ〜こうしよう。
貸してあげる。
あたし等がまたどこかで再会した時にまた返してくれよ。
親友同士の約束ってことで」
「うん、わかった。
ありがとうカムラちゃん……」
『ガンガ、まだか〜!』
「ごめんパパ〜」
「カムラちゃん、じゃあね。
バイバイ♪」
「じゃあな、ガンガ……」
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そして私は大人になり、マガダ国に嫁いだの。
そしてこれは、ある日私がたまたま貧困世帯の人達が集まる生活区の路地裏を通りかかっていたときのことよ。
私は、家出をし雨の中路地裏でスコールの雨が止むのを待っていたあなたをみつけたの。
その時のあなたの服はボロボロで、家出をして身寄りがない子供の孤独感をすぐに痛いほど痛感したわ。
(わたし、寂しいよ。おばあちゃん……)
「ねえ、あなたの名前は何て言うの?」
『私? 私は