ハルは、メメさんが経営する子供食堂での一件を振り返っていた。
子供たちやボランティアの大人達が帰った後もメメさんが一人で重たい机の位置を動かしたり、料理の下ごしらえをしていた姿が脳裏に浮かんだ。
腰痛や自身の年齢、子供食堂の運営資金、高速道路拡張工事での立ち退き。
これら様々な事情から、ずっとは続けられないかもしれないのに……。
それでも今やっていることが本当にこども達の為になるのかと日々悩んでいる。
だから最近眠りが浅いんだと漏らしていたメメさん。
ハルにとって、それは決して他人事には思えなかった。
ハルは自分に言い聞かせた。
メメさんは高齢で腰痛持ちだけど、子供達の為にといつも笑顔で頑張ってる。
だから、いつまでも元気で健康でいて欲しいな♪
催事の日。
ハルは緊張しながらも意気込んでいた。
メメさんの頭の高さ専用にカスタマイズしたオーダー枕や温熱敷布団の提案をするも、
お茶を出し忘れたり、オーダー枕に入れるピローの重量を測り間違えたりと初歩的なミスを連発。そのたびに主任がカバーされ、ハルは誰もいない場所で主任にこっぴどく説教された。
「どうしてあたしって何をやってもこんなに上手くいかないんだろう……」
ハルは落ち込んだ気持ちを隠しきれなかった。
しかし、実はハルはメメさんのためにあるサプライズを用意していた。
催事の最後、ハルはメメさんの帰り際にさりげなく一通の手紙を渡した。
それは子供食堂の子供たちからメメさんに宛てた感謝の手紙だった。
そこには、子供たち一人一人からの感謝の気持ちが綴られていた。
「メメさん、いつも優しくしてくれてありがとう」
「メメさん、僕が悲しい時に笑顔にしてくれてありがとう」
「メメさん、美味しいご飯を作ってくれてありがとう」
「これからは今までメメさんが一人でやってくれてたことみんなで手伝うよ」
メメさんは自宅に帰った後、手紙を読みながら、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
その光景を想像し、ハルの心も温かくなった。
子供食堂での経験はハルの人生を大きく変えてきている。
寝具屋での仕事は、単なる商品販売ではなく、人々の生活を豊かにする、より大きな意味を持つ仕事だとハルは誇りに思うようになった。
後日、メメさんがてろめ屋に来た。
主任とハルに感謝の気持ちを伝えにきたらしい。
「おかげさまで、最近はぐっすり眠れるようになったよ。本当にありがとね、ハルちゃん」
ハルはメメさんの笑顔を見て、自分の決断が正しかったことを確信する。
そして、これからも寝具を通して、多くの人々の生活に貢献していきたいと決意を新たにした。