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第27話 聡子の思い

時はハルにクレームの電話があった頃まで遡る。


聡子は、店の奥にある小さな休憩室で、温かい紅茶を飲みながら窓の外を見つめていた。


「ハル、また遅刻か…」

彼女はため息をつく。


ハルが入社してきたのは、まだ聡子がこの店に配属されて間もない頃だった。

明るく元気なハルは、すぐに店の人気者になる。

しかし、その裏には、仕事に対する甘さや、責任感のなさが隠されていた。

聡子は、そんなハルに手を焼きながらも、どこかで彼女の成長を期待してもいた。


(ハルはきっと、いつか変わるはず……)

聡子は、何度もそう自分に言い聞かせてきた。



そして一時間後。

ようやくハルが慌てた様子で店に飛び込んできた。

「ご、ごめんなさい、主任!

寝坊しちゃって……」

いつもの明るい笑顔だが、聡子の心には響かない。


数時間後。

お客からのクレームの知らせが入った。

オーダーカーテンのサイズが間違っていたという。聡子は自分のミスではないかと焦ったが、ハルの説明を聞き、彼女のミスだとの確信に至る。

聡子は自分が直接謝罪と対応に行きたいと申し出たが……。


「ハルちゃんにも経験をさせてあげましょう」

と店長が制止した。


「ハル、ついてきてくれる?

あなたがメメさんに直接謝りに行って、問題を解決するのも大切な経験だから」

店長はハルに言う。


聡子は心配しながらも、ハルの対応を見守ることにした。

しかし、仕事中もどこか上の空で、同じ職場の副店長の夫から

「いつもと様子が違うね」

と声をかけられ、複雑な気持ちになった。



夕刻、店長から電話があり、お客とハルが笑顔で写っている写真を見せられた。


「よ、よかった……」

その安堵感からか、聡子の頬を涙が伝った。




数日後。

ハルとの間に大きな亀裂が走る。

顧客への提案で意見が対立したのだ。

激しい言い争いの末、ハルは店を飛び出して行った。


「ハル、待って!」

聡子は叫んだが、ハルの姿はすでに見えなくなっていた。

その刹那——。


キキーツ!!!!


突然の激しいブレーキの音。

聡子は嫌な予感がした――。


直後、駆けつけた聡子の胸は凍りつく。

彼女の心には、ハルのことを思う気持ちと、自分自身への後悔が渦巻いていた。



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