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第29話 ペルム紀大量絶滅

一方その頃、蓮姫はまったく別の時代、ペルム紀の荒野にぽつんと立っていた。


「ったく、まさかこんな地獄のバッドエンドになるなんて冗談じゃない……」

足元の地面は灰に埋もれ、じんわり熱い。ブーツがずぶっと沈むたび、まるで大地が彼女を飲み込もうとしているかのようだ。


「熱っ! 地面、めっちゃヤバいんだけど。私のブーツ、溶けちゃいそうだ!」

見上げた空は、どす黒いオレンジに染まり、火山の噴煙がぐるぐると渦巻いている。


「うわ、この空、めっちゃ不気味……。なんつーか、終わりそうな世界の色って感じだ」

遠くで地面がゴゴッと唸り、溶岩が赤く光りながらひび割れた大地を這っていく。


グラグラグラグラ!

「うおっ、なんかまた揺れてる!

溶岩、めっちゃ近いな。

まずい、逃げたほうがいいか……?」


空気は硫黄の匂いにむせ返り、息をするたびに胸がずしんと重くなる。まるで絶望がそのまま肺に詰まったみたいに。

「くっ、息苦しい……。この空気、鼻ん中まで硫黄くさっ。マジで最悪の場所だな、ここは!」


周りには、まるで人間みたいな目をした動物たちがいた。

けど、彼らは弱々しく喘ぎながら、ひとり、またひとりと倒れていく。

「な、なんだよ……お前ら、なんでそんな目で私を見るんだよ……! やめろって、頼むから……!」


酸素が消えていく世界で、まるで燃え尽きた紙がくしゃっと潰れるようだ。

「こんな……こんな悲しい終わり方、ありかよ……?

命って、こんなにも簡単に消えちゃうものなのか……?」


蓮姫の視線は、遠くできらめく海に吸い寄せられる。

「海……!!

あそこなら、なにか希望あるんじゃないか!でも……。」

そう……。心のどこかではちゃんとわかっていた。

海の底でさえ、生き物たちは静かに息絶え、鱗の最後の輝きを残して闇に沈んでいるのだ。


「やっぱり……海もダメか。

全部このまま終わってしまうのか……?」

蓮姫の胸は締め付けられ、まるで心臓が軋むような痛む。


「せっかく進化した奴らも、積み重ねた時間も……。

全部、こんな風にあっさりと消えちゃうのかよ!」

目尻からぽろっと涙がこぼれ、頬の煤をきれいに洗い流す。

「うっ……、泣いてるわけじゃないが。

こんなんで涙とか、マジで情けねえ……!」

蓮姫がぎゅっと拳を握ると、爪が掌に食い込んでちくりと痛んだ。

「くそっ……! こんな痛み、なんでもないはずなのに……なんで、こんなにキツいんだよ……!」


すると、ふっと、懐かしい記憶がよみがえる。


「オイロス……」

原始の海底、熱水噴出孔で出会ったアーキアの少年オイロス。

あいつの温かい笑い声は、まるで太陽みたいだった。

「アキア……」

母思いのアキアの静かな瞳も思い出す。

「ハルキ……」

カンブリア紀のハルキゲニアの少女ハルキと、ふざけ合ったあのバカバカしくもキラキラした日々。


「ちくしょう……!」

蓮姫は思わず吐き捨てた。

男っぽい、ガサツな声が、静まり返った世界を切り裂く。

「私が、こんなことでメソメソする軟弱な奴だとでも?

しかし……」

彼女は乱暴に涙を拭い、頬に灰をぐちゃっと塗り広げた。

「命の火が、全部、こんな風に消えるなんて、そんなの私は絶対納得できん!」

膝をつき、熱い地面にそっと触れる。目の前は、まるで地獄そのものだ。


オイロスのいたずらっぽい笑みを思い出す。

「お前なら、絶対『泳ぎ続けなよ、お姉ちゃん!』って、ふざけた顔で言うよな?」


唇の端に、苦い笑みがちらっと浮かぶ。

「ハルキなら、棘でガシガシ突いて『グズグズすんなし!』って怒鳴るだろうな。


だけど……今、私はどうすればいいんだ?

なあ、ハルキ……?

私は世界が目の前で全て燃えて終わってしまうのを、ただ見てるしかないのか?」


風がびゅうっと唸り、最後の生き物の遠い叫びを運んでくる。

蓮姫の瞳に、燃えるような決意が宿った。

「わかってる、泣いてる暇なんてないことくらい!」

彼女はガッと立ち上がり、声を張り上げる。

「この世界が死んでも、お前達のことは私が覚えてる。絶対、全部、忘れないからな!」


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