一方その頃、蓮姫はまったく別の時代、ペルム紀の荒野にぽつんと立っていた。
「ったく、まさかこんな地獄のバッドエンドになるなんて冗談じゃない……」
足元の地面は灰に埋もれ、じんわり熱い。ブーツがずぶっと沈むたび、まるで大地が彼女を飲み込もうとしているかのようだ。
「熱っ! 地面、めっちゃヤバいんだけど。私のブーツ、溶けちゃいそうだ!」
見上げた空は、どす黒いオレンジに染まり、火山の噴煙がぐるぐると渦巻いている。
「うわ、この空、めっちゃ不気味……。なんつーか、終わりそうな世界の色って感じだ」
遠くで地面がゴゴッと唸り、溶岩が赤く光りながらひび割れた大地を這っていく。
グラグラグラグラ!
「うおっ、なんかまた揺れてる!
溶岩、めっちゃ近いな。
まずい、逃げたほうがいいか……?」
空気は硫黄の匂いにむせ返り、息をするたびに胸がずしんと重くなる。まるで絶望がそのまま肺に詰まったみたいに。
「くっ、息苦しい……。この空気、鼻ん中まで硫黄くさっ。マジで最悪の場所だな、ここは!」
周りには、まるで人間みたいな目をした動物たちがいた。
けど、彼らは弱々しく喘ぎながら、ひとり、またひとりと倒れていく。
「な、なんだよ……お前ら、なんでそんな目で私を見るんだよ……! やめろって、頼むから……!」
酸素が消えていく世界で、まるで燃え尽きた紙がくしゃっと潰れるようだ。
「こんな……こんな悲しい終わり方、ありかよ……?
命って、こんなにも簡単に消えちゃうものなのか……?」
蓮姫の視線は、遠くできらめく海に吸い寄せられる。
「海……!!
あそこなら、なにか希望あるんじゃないか!でも……。」
そう……。心のどこかではちゃんとわかっていた。
海の底でさえ、生き物たちは静かに息絶え、鱗の最後の輝きを残して闇に沈んでいるのだ。
「やっぱり……海もダメか。
全部このまま終わってしまうのか……?」
蓮姫の胸は締め付けられ、まるで心臓が軋むような痛む。
「せっかく進化した奴らも、積み重ねた時間も……。
全部、こんな風にあっさりと消えちゃうのかよ!」
目尻からぽろっと涙がこぼれ、頬の煤をきれいに洗い流す。
「うっ……、泣いてるわけじゃないが。
こんなんで涙とか、マジで情けねえ……!」
蓮姫がぎゅっと拳を握ると、爪が掌に食い込んでちくりと痛んだ。
「くそっ……! こんな痛み、なんでもないはずなのに……なんで、こんなにキツいんだよ……!」
すると、ふっと、懐かしい記憶がよみがえる。
「オイロス……」
原始の海底、熱水噴出孔で出会ったアーキアの少年オイロス。
あいつの温かい笑い声は、まるで太陽みたいだった。
「アキア……」
母思いのアキアの静かな瞳も思い出す。
「ハルキ……」
カンブリア紀のハルキゲニアの少女ハルキと、ふざけ合ったあのバカバカしくもキラキラした日々。
「ちくしょう……!」
蓮姫は思わず吐き捨てた。
男っぽい、ガサツな声が、静まり返った世界を切り裂く。
「私が、こんなことでメソメソする軟弱な奴だとでも?
しかし……」
彼女は乱暴に涙を拭い、頬に灰をぐちゃっと塗り広げた。
「命の火が、全部、こんな風に消えるなんて、そんなの私は絶対納得できん!」
膝をつき、熱い地面にそっと触れる。目の前は、まるで地獄そのものだ。
オイロスのいたずらっぽい笑みを思い出す。
「お前なら、絶対『泳ぎ続けなよ、お姉ちゃん!』って、ふざけた顔で言うよな?」
唇の端に、苦い笑みがちらっと浮かぶ。
「ハルキなら、棘でガシガシ突いて『グズグズすんなし!』って怒鳴るだろうな。
だけど……今、私はどうすればいいんだ?
なあ、ハルキ……?
私は世界が目の前で全て燃えて終わってしまうのを、ただ見てるしかないのか?」
風がびゅうっと唸り、最後の生き物の遠い叫びを運んでくる。
蓮姫の瞳に、燃えるような決意が宿った。
「わかってる、泣いてる暇なんてないことくらい!」
彼女はガッと立ち上がり、声を張り上げる。
「この世界が死んでも、お前達のことは私が覚えてる。絶対、全部、忘れないからな!」