空は赤く染まり、火山の噴煙が太陽を飲み込む。
森は灰に埋もれ、オイロス、アキア、ハルキ――仲間たちの笑顔が、絶滅の波に消えていく。
「みんな……待て、行くな……!」
蓮姫の声は風に掻き消される。
彼女の頬を、キラキラと光る涙が伝う。
その一滴は、まるで星の欠片のように輝き……そして……、
——時を越える——。
〔蓮姫→ハル〕
病室の白い壁。頬にひと筋の涙が落ちる。窓から差し込む夕陽が、涙を金色に染める。
ハルの瞳は遠くを見ているようで、何も見えていないようだった。
"明日には、君の記憶はすべて消える"
医師の言葉が、まるで突然背中に氷を押し付けられたかのように、ハルの心を震わせる。
「そんな……嘘……?」
ハルは呟くが、声は自分の耳にも届かない。
すると突然、ガチャリと病室のドアが勢いよく開いた。
革ジャンの裾を揺らし、職場の上司聡子が現れる。
職場では陰で「※口裂けBAA」と呼ばれる彼女は、ハルのミスにいつも厳しい上司だ。
※ハル調べ
でも、今の聡子の瞳には、どこか柔らかい光が宿っている。
「バカ、ハル! いつまでもこんなとこでじっとしてるつもり?」
聡子の声は、いつもの鋭さを抑え、その朗らかな表情にハルは目を丸くする。
「え……聡子主任? なんでここに……?」
「なんでって、あんたがそんなしけた顔してたら放っとけないでしょ」
聡子はそう答えると、ハルの手を掴み、強引にベッドから引き上げる。
「今から病院抜け出すよ。文句は後で聞くから、さっさと、30秒で支度しな!」
(全く、せっかちな女海賊だな)
ハルはそう思いつつも別の疑問がわく。
「え?でも……あたし、明日には——」
そんなハルの言葉を、聡子は遮る。
「明日の事は今は考え無くていいの!
とにかく今は動くよ、ハル!」
彼女の力強い声に、ハルはなぜか逆らえず、フラフラと立ち上がる。
聡子の黒光りするバイクの後ろに、ハルはぎこちなく腰を下ろす。
「ほら、予備のヘルメット持ってきたからコレ被って」
「は、はい……」
ハルはまだ理解が追いつかず
半信半疑になりつつ答える。
聡子が予備のヘルメットを放り投げ、ハルは慌てて受け止める。
「あの……あたしバイクは初めて乗るんですけど……」
「ハル。あんたもしかしてビビってんの? 」
「別にそんなんじゃないですけど……」
ハルはやや不満げに目を細め口を3の字ににする。
「振り落とされないようにしっかり掴まっててよ!」
ブォンブォン!
聡子が笑い、エンジンを唸らせる。
風が頬を撫で、ハルの心を少しだけ軽くする。
ブォブォブォブォーン!
ハルはゆっくりと目を閉じる。
すると、たくさんの記憶の欠片がキラキラと浮かんできた。