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0613第36話 鈴

一方その頃。

ハルは目が覚めると、自分が見知らぬ世界にいることに気づいた。


あたりを見回すと、目に飛び込んでくるのは光り輝く高層ビル群と、空を縦横無尽に駆け巡る無数の乗り物。

その光景は、自分の知る現実を大きく超えた未来都市そのものだった。


「ここ……どこ?」

ハルは喉から漏れるように呟いた。その声には困惑とわずかな恐れが混じっていた。

彼女の胸は鼓動の高まりを抑えることができない。

突然の環境変化に頭が追いつかないのだ。


そこへ、一人の少女が近づいてきた。


少女は艶やかな黒髪を背中まで伸ばし、どこか浮遊感のある笑顔を浮かべている。

「あなたがハルね?」

その声ははっきりとしていて、まるで確信に満ちたようだった。


「え、あんた……誰?」

ハルは思わず身を引きながら尋ねた。


少女は小さく微笑み、自己紹介を始めた。

「私は鈴。あなたは?」


「ハル……」


「ハルさんね?

ハルさん、こっちへ来て。

説明は後で」


ハルは彼女に言われるがまま後を追った。

目の前には見たこともない形状の乗り物が現れる。

乗り物の表面は滑らかで、未来感あふれる青い光が波打っている。


鈴に促され、ハルは恐る恐るそれに乗り込む。

すると……。

グイーン!


「わ、わぁ!!」

突然の事にハルは驚き尻餅をつく。

ドアが静かに閉まり、乗り物がほとんど無音で浮上すると、ハルは息を呑んだ。


「これ、どうなってるの??……」

ハルの頭の中にはたくさんのクエスチョンマークが浮かんだ。

彼女に問いかけるが、鈴は小さな笑みを浮かべたまま答えない。

その沈黙にはなぜだか妙な安心感があり、ハルは続けて質問する気力を失った。



そして、しばらく経つと不思議な乗り物が止まり、ドアが再びゆっくりと開くと、ハルは瞳に映る光景に目を丸くする。


そこは、まるで恐竜が闊歩していそうな古代の世界だった。

緑の絨毯のように広がる密林。

大きな水たまりのような湖。

空を悠々と舞う巨大な鳥。

すべてが現実離れしている。


「なに、これ……夢?」

ハルは思わず目を擦りながら呟いた。


鈴は驚いたハルの様子を楽しむように微笑み、こう言った。

「これは夢じゃないわ。

けど、ここで何が起きているのかは、これからあなたが知ることになる」


鈴の言葉には謎めいた響きがあり、ハルの胸には不安と期待が入り混じる。

しかし、この先に未知なる世界が待っている以上、ハルは前に進むしかなかった。



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