一方その頃──ハルの暮らした世界。
てろめ屋のカウンター越しに、店内を照らす温かな光と共に、メメさんがひょっこりと現れた。愛嬌のある微笑みを浮かべたその姿に、聡子は少しだけ気が緩む。
「聡子さん」
メメさんは優しく、けれど力強く言った。
「あの娘は、きっと大丈夫よ。信じてあげて」
その言葉は、心の奥深くに残る暗闇をそっと照らす明かりのようだった。
聡子の胸に小さな希望の芽が生まれるのを感じる。
窓の外に広がる街並みが、ふと優しい色彩を帯びたような気がした。
「……ありがとうございます。」
聡子は少しだけうわずった声で答えた。
両手でぎゅっとエプロンの裾を握りしめながら。
ハルの記憶が戻るその日を。
そして、あの笑顔を再び見ることができる日を──聡子は心から願っていた。